超常戦隊ノロウンジャー
「ごめんね驚かせちゃって。でも実際に見てもらってからじゃないと怪しまれるかなって思ったの」
「アッ、マァ、タシカニ、最初は変な宗教かなって思ってました。スミマセン」
「えぇ! 優香ちゃん私の事そういう風に思ってたん!?」
私はそっと目線を逸らした。ショックーって言いながら机に突っ伏してる明里ちゃんを無視して話は続く。
「さっき料理を作っていたのは式神よ。それだけじゃない。呪い、悪霊や降霊術に陰陽師。これらは全て実在しているわ。都市伝説とか怪談話とかって聞いた事あるでしょ? あれらは作り話じゃないの。もちろん勘違いとかもいっぱい含まれているけど。映画や空想の中だけの存在じゃないのよ。私達はまとめて超常現象と呼んでいるわ。後は超常存在とか物体とか物によって少し変わるけど。ただ……物語に出てくるような良い物では無いけどね。むしろ大半は昨日優香さんが見たような悪いものばかりよ」
脳裏にトンネルで見た真っ黒な化け物が思い浮かぶ。たまたま塩を持っていたから、それが効いたから助かっただけでもしかしたら死んでいたかも。
そう考えると確かに良い物じゃないかも。
「例えばさっき山本さんが飲んだドリンク。髪の色が変わったのは呪いの一種よ」
「そ、そんなの飲んで大丈夫なの?」
「だいじょぶだいじょぶ! ちゃんと解析して危険はないってなってるから。さっきドリンクに混ぜた溶液は相手に飲ませれば、その人の意識を乗っ取ってなり変われる呪いを込めた薬品を作ろうとしてた人の失敗作で、飲んだ分だけ一定時間髪の色が変わる呪いになっちゃったやつだよぉ。面白かったやろ」
「面白いって……明里、一応呪いであってオモチャじゃ無いんだからね。あれは新人への教育用に置かれているだけで……」
「はいはい分かってるってー。もちろん良い使い方もあるで。昨日私に飲ませてくれた緑の液体は体を癒してくれる効果があるものだったし。おかげで今は綺麗に治ってるやろ?」
なんか恐怖が薄れるなぁ。聞いてる限りはちょっと便利なパーティーグッズみたい。
呆れたように笑ってた高橋さんの顔が真面目モードに変わった。
「とにかく分かって欲しいのは、こういう物が実在する事は秘密にして欲しいって事よ。人を殺せる呪いだって方法さえ知っていれば誰でもかけられるものだってある。安易に世間に流布して良いものじゃないわ。だからここで見聞きした事は他人には話さないでね」
「うん。わかったよ。じゃあ昨日の化け物も誰かが降霊術でもしたの?」
「ちゃうよー。あれは人為的な物じゃなくて自然発生に近いかも。というか世の中の超常的なものの大半は自然発生なんよー。有名なのだと口裂け女とかやな。呪いやらなんやらの記録を全部闇に葬り去って世界から無くせない理由がそれ。私達が対処できる力を持っておかなきゃあかんもん」
「え!? 口裂け女って実在してるの!?」
「今はもうしてないけどね。あれは私達の先輩方の対処が遅れちゃって世間に広まりすぎちゃったタイプなんよ。気づいた頃にはもう隠そうにも手遅れで……。ま、細かいメカニズムはまた今度聞いたらええよ! 話すと長いしな。それより優香ちゃん、今日は腕の方を解決した方がええんちゃう?」
はっ、ウッカリしてた。気になる話がどんどん出てくるからつい夢中になっちゃった。
高橋さんがこの子ずいぶん物分かりがいいなぁって呆れ半分、感心半分で小声で呟いたのが聞こえたけど、また話が逸れると腕の事を忘れちゃいそうだから無視する。
「そうだった! 私の腕はどうなっているの?」
「悪いけど腕の事はちょっと調べてみないと分からないわね。赤い玉を食べてから目覚めたのなら、多分昨日のやつに関係した能力だと思うけど……ちゃんと責任を持って調べてあげる」
そう言いながらニコっと笑いかけてくれる。その表情を見てやっと同い年だって事に納得した。今までは仕事中の社会人みたいな表情だったもん。
高橋さんはホットケーキの最後の一欠片を飲み込むと席を立ち上がった。
「あれ? そういえばあと4枚ホットケーキあるはずだけど」
「あぁ、あれはもみじが全部食べてもうたでー」
びっくりしてると高橋さんは恥ずかしそうに顔をそむけて通路に向かって歩き出した。私達も慌ててついて行く。
「そうだ、明里ー。ちょっとその目で見てくれない? 一応危なくないか確かめたいの」
「オッケー。まかせて」
そういうと明里ちゃんの右目が淡い青色に変わる。そのまま私の両腕を見つめたかと思うと、ビックリする間もなく元に戻った。
「私の目は周りの霊力……まぁ変な力を生み出す元のような物の濃度が分かるねん。サーモグラフィーっていう温度を視覚的に見る機械あるやろ? この能力を得た経緯は優香ちゃんと同じような感じかなー。どれどれー? 反応アリであります!」
「ありがと。じゃあ万が一のために気をつけた方が良さそうね。予約していた部屋は……ここか」
鉄の扉がついた見るからに頑丈そうな部屋。そしてなんと銃を持った警備員2人もついてきた。
「安心して。2人とも安全を守るためにいるだけだから」
高橋さんはそう言うけど、2人は明らかに警戒の視線を向けている。私が不安がっているのに気がついた高橋さんが小声で何かを告げると一応警戒を解いたような体勢になった。
でも2人とも油断する気は無いみたいだし高橋さんも緊張した感じで私を見ている。
不思議な物を見てみたい。この世界の秘密が知りたい。そういう気持ちもあってホイホイ着いてきちゃったけど、銃という物を身近にみると再び怖くなってきちゃった。
そしたら今度は明里ちゃんが2人と私の間に割って入った。
「大丈夫。みんな優香ちゃんの安全のためにここにいるだけだから。私を信じて」
そんな軽々しく会ったばかりの人を信じてって言われても……私はサークルの勧誘にもビビってどもっちゃうような人間なんだよ。
そう心で思ったけど、ふと気づく。
会ったばかりの人。それは明里ちゃんにとっては私も同じ。もちろん高橋さんにとっても。
さっき高橋さんは不思議な物の中には危険な物もいっぱいあるって言っていた。私にはよく分からないけど銃とか担架に運ばれていた人が当たり前にある環境を考えたら、きっとすごく危ないんだと思う。
それを知っている2人からしてみたら私の腕がどんな物か分からない。もしかしたら昨日の化け物が封印されていて、今この瞬間にも飛び出して暴れる可能性だってある。
私がこの怪力を悪用して人を襲うかも。
それでも高橋さんは私が不安がっているからって警備員さんの銃を下ろさせてくれたし、明里ちゃんは体を張って安心させようとしてくれている。怖がっている様子なんて全く見せずに。私にプレッシャーを与えないために。
それもこの腕を放置して一番困るのは私。2人はこれほどの気遣いを、私のためにやってくれている。それだったら私も2人の優しさに応えなきゃ。そう思わないほど私は恩知らずになりたくない。
「ごめん、緊張させちゃったやんな。怖かったら少し休憩してからにせぇへん?」
「ううん。私は大丈夫。今お願い」
「山本さん思ったより強いじゃん。私そういう子好きだよ。じゃあドアノブを引っ張った時みたいに、集中して全力を込めてこれを押して」
そう言ってレンガ塀の前に案内された。言われた通りにやってみるけどビクとも動かない。何度か試してみると、朝と同じようにスイッチが入った感覚を感じた。
その瞬間パイプはまるでクリップみたいに柔らかくなってグニャグニャに曲げられるようになった。
その後も鉄の筒を曲げたり、重そうな物を持ち上げたりしてるとクッタクタになった。
「ご、ごめん。少し休憩しても良い? なんか疲れちゃった。体もだけど、どっちかと言うと心が。なんだか10時間ぶっ通しで勉強した後みたいな感覚」
「オッケー。力を使うとそうなる人多いから大丈夫。普通の事だよ。私もさっきの目の力を長時間使ったり出来へんもん。多分回復には時間かかるし……明日は空いとる?」
「うん。ちょうど日曜日だし私はいけるよ」
「私も大丈夫。部屋予約しておくわね」
そんな感じで3日も色々やるうちに段々分かってきた。
まず私の右手は2つの使い道があるということ。1つは普通に怪力が出せる。重い物を持ち上げたり、硬いものを曲げたり。大体車一台持ち上げるくらいなら頑張ればいけるみたい。
2つ目は風を操れるっていうこと。片方でも腕を動かすと、その方向に風を生み出す事が出来る。すごい強風は生み出せなくて、実験中は自分の体を1分も浮かせたらそれ以上何も出来なくなった。
そして両方の力とも限界を10分ほども使うとその日はもう使えない。特に使いっぱなしが良くないみたいで6、7分ずっと使い続けた日には、1時間ちょいはおぶって貰わないと動けなくなった。
もちろん丸一日力の再使用もリスクが高すぎて出来なかった。
「詳しい事をもっと調べるとなると怪我しちゃうかもしれないし、とりあえずはそのくらい分かっていれば十分だと思う。そういう異常な物は全部こっちで記録しなきゃいけない決まりなんだけど……良いかな?」
「うん、分かった」
「ありがとう。世間に漏れたりはしないから安心して。今後の参考にしたり、日本にどんな人がいるか分かるようにするための物だから」
そう言うと高橋さんはノートパソコンで何かカチャカチャやり始めた。
「あの、高橋さん。私の両腕って治ると思う?」
「治るかどうかかぁ……今までそういうのが治ったケースは無くも無いけど治らない場合もあるわ」
「えー! 優香ちゃんその力嫌なん!? なんで! カッコいいやん! ほら、私ともみじと超常戦隊ノロウンジャーでも結成しようや」
そう言いながら明里ちゃんは自分の目を青色に変えて妙なポーズをとり始めた。
「完全に悪役の名前じゃん……むしろ私達は祓う側なんですけど。山本さんも、そのアホは無視しちゃっていいからねー。でも、腕を治すように頑張ってみるのもいいけど……それを役立ててみようとは思わない?」