停滞アパート2
部屋の中は、私の実家の部屋と全く同じようになっていた。
これは引越しする前の状態かな。私が快適な孤独ライフを楽しんでいた頃の、平穏かつ理想的な状態。
よく観察すれば、私の部屋は建物のサイズを考えると少し大きすぎる事に気づけたかもしれない。
でも普段の思考回路を失った私は、布団に潜り込む事で頭がいっぱいだった。
あたりは静か。たまに窓の外からわずかにゴミ収集車の音楽や、車のエンジン音、鳥のさえずりが聞こえるくらい。
それらの音がさらに実家を思い出させて私を安心させた。
白いカーテンを貫いて、夕日がさしこんでいる。
いつの間にか、私は何もしていないのにテレビが付いていた。日中によくやっている、ほのぼのとした旅行番組が流れている。
名前も知らない芸能人が、どこか外国に行っているみたい。街並みを考えるとヨーロッパなのかな。
遠くに見える雄大な山脈を見るに、スイスとかイタリアかも。
私が布団からボーッとテレビを眺めていると、場面は牧場に移っていった。
羊を愛でながら、チーズケーキを食べたりしている。美味しそうだなぁ。
低めの音量と、外から聞こえる自然音。そこに暖かさと布団の快適さが加わって、私は眠気に誘われる。
いつか私も......こんな所に......行ってみ......たいなぁ。
気づけば私は寝ていたようで、夕日は朝日に変わっていた。でも太陽は全く動かず、変わらず私の部屋を明るくしていた。
私の曜日感覚や外の記憶にはモヤがかかり、テストや仕事の事なんて頭から綺麗さっぱり消えている。
おかげでゴールデンウィーク3日目くらいの気分だ。思ったよりも寝ていたのか、寝起きのスッキリ感が私の気分を良くする。
少しだけ疲労を感じるね。何かを吸われているような感覚を漠然と感じる。
でもそんな事は心配いらない。だって2度寝すれば良いんだもん。
ずっとこうしてたいな。何もせず、ただひたすらに、ダラダラしていたい。
最近忙しかったから、こんなに1人でのんびり出来るのは久しぶり。
まるで明里ちゃん達に出会う前みたいに孤独で、自由で、平和で......。
そう。私にとって、この心地よさはすごく身近......だった物だ。最近忙しかっただけで、私の学生生活の大半はこんな物だった。
私はこの心地よさが好き。誰にも邪魔されず、考える事もなく、自分だけで好きなように過ごす時間が好き。
今だって、パトロールや遊ぶ予定もない休日はこうやってダラダラしている。
私はこの快適さを良く知っている。だからこそ、これを乗り越えた先の幸せだって知っている。
私はこの心地よさが大好き。それでも、私はみんなと過ごす時間の方がもーっと大事だ。
ずっとこんな場所で寝転んでいるくらいなら、忙しくても危険でも、友達と一緒にいる方がよっぽど良い。
......ここから抜け出さなくちゃ。
そう思った途端に、私の部屋は誰か知らない人の部屋に変わった。
後から階が増えた事を考えると、この社員寮の一室のコピーか何かなのかもね。
部屋が変わると同時に、通常の思考回路も戻ってくる。
私はなんで今までこんな場所で呑気に過ごしてたんだろう。
中間世界だよ? ヤバい場所に決まってるじゃん。向こう側に取り込まれでもしたらたまらない。
脱出する前に自分の状態を確認しようと、怪力で冷蔵庫を持ち上げた所で気がついた。いつもより疲れるのが早い。
疲れやすくなっているというよりも、体力の最大値が下がっているような感覚。
怪力を使うのに使う体力が増えているというよりも、同じ体力を使っても更に疲れるという感じ。
もともと異界側が意図的としか思えない方法で人間を襲う事があった。超常課の職員によると、扉が開く理由となった噂や思念との関連性がない襲い方をしてきたらしい。
理由は良く分かっていない。でもその被害に遭った人は今の私みたいに不思議な感覚を味わったり、脱力感を感じたりしたと記録で見た。
有名なのはあのショッピングモールで動画配信者が襲われた事例だね。
被害者の記憶が幻覚剤を飲ませる前からおかしくなってたせいで詳細は分からなかったらしいけど……もし今回もそういう事態だったら……。
私は焦りの気持ちと共に、廊下に飛び出した。
読者の皆さま、いつもありがとうございます。予定より遅くなりました。すみません。
本日以降は再び2日ごとの更新に戻ります。




