働かざる者食うべからず?
誰かに言われて意識すると、途端に私もお腹が減ってきちゃった。さっきまで木々の匂いを楽しんでた鼻は、食べ物の匂いしか受け付けなくなる。
あっちこっちの屋台から漂って来る香りはどれも美味しそうで迷っちゃうなぁ。
「ふふん。食べる所は私に任せて! 電車でちゃーんと調べて来てん。優香ちゃんここに来るの初めてなんやろ? ならせっかくやから名物食べにいこうや」
そう言う明里ちゃんについていくと、和風のいかにも高級そうな建物に案内された。
「し、しらべ、て、くれたのは、あ、ありがたいけど……こ、こんな所私みたいな学生にはちょっとハードルが高いっていうか……」
「ふっふっふ。気持ちは分かるよ優香ちゃん。でも今なら……払えるでしょ?」
ごくり。
確かに。既にいくつか事件を解決して、貰うものは結構貰った。このペースでお金が入るとすると……お金はある!
敷居を跨ぐと小さな日本庭園があった。真ん中の石道を歩いて、木製のドアをくぐる。
こういう所は予約がいるイメージだったけど、海外からの観光客が増えてきた影響なのか必要ないみたい。
案内されたのは窓際の席。おかげで座布団に座ると、窓と畳敷きの廊下越しに公園が見えた。
「ご注文はお決まりですか?」
「茶粥を4つください。あとわらびもち2つに、かき氷と抹茶パフェを1つずつお願いします」
ご飯を待っている間に窓の外を眺める。外にいる時はもはや暑いくらいだったけど、エアコンの効いた室内から庭園を流れる小川を見てると、涼しく見えるから不思議だよね。
ピークタイムを過ぎていたからか、思ったよりも早くご飯がきた。
茶粥は、ちょっとお茶の量が多いお茶漬けに野菜が乗ったようなシンプルな見た目をしている。
まずは前菜から。店員さんによると時期や日によって変わるらしいけど、今日は塩昆布だった。
汗をかいたから塩分が美味しく感じるね。
冷やっこも食べたらいよいよ茶粥。一緒についてきた鯛のお造りを粥に入れて、ひつまぶしみたいにする。
鯛を口に入れると、外はホロホロ、中は冷たいお刺身状態のまま。これこそが醍醐味だよね。
そのままご飯をお茶と一緒に口に入れる。はぁ……幸せ……。
気づくとお椀は空になっていた。
「わわっ、これ可愛い〜」
乃愛の頼んだかき氷には小さなたい焼きみたいなのがついていた。シロップの川を泳いでるように見える。
「あっでも……ごめんねぇ」
心底寂しそうな声を出しながら、乃愛はスプーンですくうと頭からいった。
私と同じタイプか。
「ちょっと味見する?」
私が見てると、物欲しそうな目をしちゃってたのか、かき氷をスプーンに乗せて差し出されたのでありがたくパクッといただく。
パクッといくと、茶粥であったまった口の中が一気に冷やされる。この寒暖差、ちょっと癖になりそう。
お返しにわらび餅をあげると喜んでくれた。
って、見てばかりじゃなくて私も食べなきゃ。わらび餅を口に入れるとモッチモチ。甘いわさびに、セットで付いてきた抹茶の苦味が良く合う。
「高橋さん。パフェの方は……」
どんな味? と聞こうとして見たら、既に半分以上が無くなっていた。あ、あんなに大きかったのに。
お腹いっぱいになって私達は店を出た。満足満足。
「じゃあまたちょっと歩かへん? こっちに行くと大仏が見れるらしいで」
地図アプリを開いている明里ちゃんがそう言った。それからお土産屋さんを覗いてみたり、池を泳いでる鯉を眺めていたりするうちに、空はあっという間に赤くなっていた。
今まで休日は大体趣味か、家で1人で動画を見たりして過ごしていた。そんな私にとって、休日は長くは無いけど短くもない。そういう感覚。
そうやって出来た私の体内時計ではまだお昼。1日って、こんなに早かったっけ。
でも満足感はいつも以上。
「ねぇ、みんな」
いつの間にか、私の口は勝手に動いていた。
「今日はとっても楽しかった。だから、またみんなでどっかに行きたいな」
それを聞いたみんな、特にこの計画を立てた明里ちゃんは嬉しそうだった。
「うん! また行こな!」
帰りの電車。3人はちょっと眠そう。明里ちゃんと高橋さんは寝不足だし、乃愛は家が遠いもんね。
ボーッとスマホを眺めていると、業務伝達に使われている超常課公式アプリから通知が来た。
このアプリには2つの機能がある。一つ目は扉が開くと、分かる限りでの情報が表示される機能。
もう一つは扉が開いた場所や、パトロールが必要な位置がアプリ内の地図に反映される機能。そして他の職員が、どこにいるのかも分かる。
通知の内容を見ると、居住施設で扉が開いたという内容だった。1番近いのは私達。住民が巻き込まれているとの事で、無視は出来ない。
遊んだら、その分働けって事ですか。私は3人の肩をゆすった。




