おやすみ
「もう電車ないから3人ともうちに泊まっていかない? お礼にご飯もご馳走してあげる。まぁ布団は1つしか無いからそれでも良かったらだけど」
一大イベント。それは友達を家に招く事。本当はもっと準備をしっかりしたかったけど仕方ないね。ちょうど掃除をしたばっかりだし……セーフなはず!
「私もいいの?」
「もちろん! 乃愛ちゃんがいなかったら絶対に助からなかったもん」
「助かるわ。でも山本さんって一人暮らしでしょ? 4人も入るの?」
「うん。家族向けマンションの一室借りてるし、布団は足りないけどソファも使えば十分だよ。帰りに食材揃えるためにスーパーだけ寄っていい? ここはもう使えそうにないし」
「さ、入って入って〜」
「「「お邪魔しまーす」」」
食材を買ってきたから、家に着くころにはさらに遅くなっていた。24時間開いてるスーパーがあるって、やっぱ都会はいいねぇ。
とりあえずご飯は明日にして流石に今日は寝る事になった。
数分にわたる譲り合いの末に、ベッドは私が使う事になった。あと明里ちゃん達とは知り合いじゃない乃愛ちゃんもベッドに。
代わりに2人はリビングで布団。まぁ狭いのが嫌だったら1人はソファっていう手もあるし、どうにかなるかな。
ベッドに入って20分。クタクタなはずの私はまだ寝付けずにいた。
窓から差し込む月明かりが、さっきの記憶を呼び覚まして不安にかられるせいだ。
というのが理由の10%。残り90%は肌のくっつく範囲に友達が寝てるんだもん! しかも今日以前は授業数回分ほど喋ったりしただけだからね!?
家に呼ぶだけでも私には早すぎるくらいなのに、なんであんないらない事言っちゃったんだろ私〜。
でもあそこで外にほっぽり出すわけにもいかないしなぁ。まぁ、人肌に触れられるというのは心強いけど。
「ねぇ、まだ起きてるの?」
「ひぇ? あ、うん。なんだか寝れなくて」
乃愛ちゃんもなんか寝れなかったみたいで話しかけて来た。乃愛ちゃんの性格的に(まだ良く知らないし勝手な偏見だけど)声をかけてくるのは意外だったから、変な返事になっちゃった。恥ずかしい……。
「そうなんだ」
それで会話が終わる。まぁ寝る時間な訳だしそれでも良いんだけれど。
ちょっと寂しいなとも思ってしまった。昔だったら、変な事言うくらいならとか、何を話せば良いんだろって思ってそのまま黙ってたと思う。
でも私はどんどんワガママになっているみたい。相手が喜ぶかは分からないけど、自分が寂しいと感じたなら話しかけちゃえって思えるようになった。
まだ友達相手じゃないと勇気は出ないけれど、それでも前の自分よりはこっちの方がずっと好きだな。
「今日は助けてくれてありがとう。乃愛ちゃんがいなかったら、私は今もあそこに閉じ込められたままだったと思う」
会話が始まったと判断したのか、さっきまで向こう側を向いていた乃愛ちゃんは、体をこっちに向き直す。
私の方を向いた顔に、寝るのを邪魔されたっていう不機嫌さが無いか、ちょっぴり不安になる。ビビってばかりだよ。ほんと。
でもむしろ乃愛ちゃんの顔は嬉しそうで、私はまた一歩自信を得た。それとも、自信を取り戻したなのか。
まぁ友達の笑顔の前では、そんな事どっちでも良い。
「役に立てたなら良かった。そういえば気になってたんだけどさ。グループワークの時になんで私に声をかけてくれたの?」
「私はあまり人に話しかけるのが得意じゃないの。だから友達が全然いなくてね。それが寂しいってずっと思ってて。それで……変な話だけど、あの時の乃愛ちゃんがなんか自分と似てるように思えたんだ。だから仲良くなりたいって、そう思ったの……って変な事いっちゃったね。忘れて欲しいな」
は、恥ずかしいよぉ。雰囲気も悪くしちゃったし、大体乃愛ちゃんを私みたいなコミュ障と一緒にするなんて申し訳ないいいいいい。
ほらーなんか乃愛ちゃん笑ってるし。せっかく仲良くなれたのに変なやつだって思われたくないよぉ。
「ごめんごめん。正直すぎて笑っちゃった。じゃあ私も自分の事教えてあげるからさ、まだ眠くなければ聞いてくれない?」
そうして乃愛ちゃんは彼女の過去の事を話し始めた。
「私ね、自分で言うのもなんだけど大体の事は上手く出来るタイプなの。もちろん苦手な事はいっぱいあるけど、私にとって必要な事は上手く出来たって意味で」
乃愛ちゃんはちょっと恥ずかしそうに目線を逸らしそうながら話を続ける。
「私は勉強も出来たし陰陽師としての才能もあるし、昔から大人には褒められる事が多かった」
しかも可愛いしね。照れ臭さからか少し顔を染めてる乃愛ちゃんを見てると、同性の私でも「おぉ〜」ってなるもん。羨ましい。
「私はそれが嬉しかった。神社の娘って言ったでしょ? だからそういう事で困った人は、昔から私の父を頼ってたの。それを私が手伝うようになってから噂はどんどん広まった。あの神社に頼めば、どんな恐ろしい呪いや災いも祓ってくれるって」
ふんふん。それは良い話に聞こえるけどね。
「私はその時まだ子供だったから、友達と遊びたいとか家族で遊園地に行きたいとか、後はなんだろ……忘れちゃった」
だいぶ昔の事なんだね。小中学校とかかな?
「まぁそれでも最初は良かったんだよ? 人助けになるし感謝はされるし、寄付も増えるし。でも少しずつ偉そうっていうか、助けるのが当たり前みたいな人も増えてきてさ」
うわぁ。こっちの業界にもいるんだ、クレーマーって。まぁそういう人はどこにでもいるよね。
でもその時の乃愛ちゃんはまだ子供なんだし、もっとキツかったと思う。
「学校でも一緒。いや、長い付き合いな分もっと酷いかな。勉強が出来たから友達の宿題とかテストを手伝ってあげてたの。最初は友達の範囲内で助けてただけなのに、その子達はどんどん私に頼りきりになっていってねぇ。酷い子だとテストで良い点取れなかったから責任取ってとか言ってきた子もいたんだよ」
何それ。私まで腹が立ってきた。でもそういうのは別に珍しい話でも無いというのも分かる。
私だって明里ちゃんや高橋さんに助けてもらってばかりだし。
「だからさ、なんか周りの人がみんな下心あるように思えちゃってさ。それから周りの人を遠巻きにするようになったの。授業でも見たでしょ?」
あれは追い払って当然だと思うけど。ナンパみたいだったもん。
「まぁ長々と話しちゃったけど……だから……中間世界で手伝ってくれた時は嬉しかった。私は怖いって思われる事が多いんだけど、それでも話しかけてくれてありがとう。それが言いたかったの」
そう言って、乃愛ちゃんは初めて満面の笑みを見せてくれた。
あの時に勇気を出して話しかけて良かったなぁ。本当に。
「そう思ってくれて良かった。話してくれてありがとう」
「どういたしまして……ふわぁ。ごめん、なんだか眠くなっちゃった。おやすみ」
「おやすみ」
ずっと怖かった。私のワガママで迷惑をかけてないかって。
でもそれが人のためになるなら、次からも私は同じ事が出来ると思う。それを教えてくれた乃愛ちゃんのおかげで。
なんだか優しくなった月明かりに照らされて、私もその日はぐっすり眠れた。