表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/24

こっちへおいで

 やばいやばい。私はスーパーまでの道を走って戻りながらスマホを取り出す。中間世界では電波が繋がる場合と繋がらない場合があるけど、今回は運良く繋がった。


 とりあえず高橋さんと明里ちゃん、後は超常課に連絡を入れた。電話している内にスーパーの入り口が見えてきた。


「ヒィ!」

「大丈夫ですか!? 山本さん、聞こえますか?」


 電話がまだ繋がっていた超常課の職員さんが、私の悲鳴に驚いて安否を確認してくれた。


「は、はい。無事です。でも、その、スーパーのガラス越しにいくつもの手が……私に手招きをしていて……」


 スーパーの中は真っ暗になっていて、周りの街灯の光すら暗闇に吸い込まれて一切何も見えない。ただ暗闇の中から無数の手だけが浮かび上がっている。


「わ、私はどうすれば」

「おそらくそれは罠でしょう。中間世界に入ってきた場所が使えないなら他の出口はどこか分かりません。そもそも出口が無い可能性もあります。現在救助を送っていますが……」


 職員さんも対処法を考えあぐねてるみたいで口ごもる。


「あの、それなら救助が来るまで隠れていても良いですか?」

「そちらへの行き方が分からない以上、救助には時間がかかる場合がありまして……その前に中間世界が異界に馴染んでしまう危険があります」


「馴染む?」

「はい。中間世界は文字通り異界と現実の間に存在している場所です。なのであまり長い間中にいると、世界ごと異界側に行ってしまうケースもあります。運任せにするには危険ですので、どうにかして出口を探した方が良いでしょう」


「分かりました」

「それでは最後に、そこに入り込む直前の行動を教えてください。救助を送り込もうにも、どうやってその世界に入れば良いのか現状分かりませんので」


 それを説明すると、不必要にスマホの充電を使わないように電話を切る。もし何か分かれば報告して欲しいとも言っていた。


 アンラッキーだなぁ。まだなんの超常現象か特定できてないのに遭遇するなんて。

 上を見ても星は見えないし、街の通りも少し離れた場所は街灯があるにも関わらず闇に包まれている。とりあえず出口を探すために歩き始めた。


 無人の街を歩くうちに、全ての建物のガラスから手招きしている手が見える事に気づいた。おかげでどの建物にも入れなくなった私はひたすら前に歩き続ける。


 私、ここから出られるのかな。どこまで行っても誰もいない孤独感がますます私を不安にする。

 なんの情報も無いし助かるかも分からない。おまけに1人ぼっち。その不安感が私を普段以上に追い込んでいた。


「久しぶり」


 ふと、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

 振り返ると小学校の頃に仲が良かった女の子が私を呼んでいた。スーパーで思い出していた、あのお泊まり会の子。


「元気にしてた? せっかくだし遊びに行こうよ。良い場所知ってるんだ。一緒に行こ」


 ニコニコしながら私に手を差し伸べる。でも私はその手を取れなかった。だって、その子の見た目は私の記憶にあるまんま。

 小学校の頃と同じ格好をしていた。そんな訳がない。どんなに小さくたって大学生ならこんな見た目じゃないと思う。


 私は逃げ出した。でもその子は一定の距離を保ったまま後ろを付いてくる。


「逃げなくて大丈夫だって。私たち友達じゃん」


 悪いけど、私に小学生の体のまま大学生の全力疾走に追いつけるような恐ろしい友達はいない。別にその子は走るのが得意って訳でも無かったし。


「あらどうしたの、そんなに慌てて。少しこっちで休んで行きなさいな」


 左側からお母さんの声がした。お母さんが何も言わずにこんな所にいる訳ない。一応確認してみると、案の定笑顔でこっちに手招きしていた。


 無視して走り続ける。はぁはぁ、もう疲れた。普段運動していない弊害がこんな所に……。

 今度は右側のビルから明里ちゃんと、高橋さんが出てきた。


「こっちおいでー。出口があるわよ」


 そう言って2人は私に手を差し伸べる。

 助かった。

 そう思ったけど嫌な予感がする。職員さんは救助できるようになったら連絡してくれると言っていた。


 でもスマホにはなんの通知も来ていない。少し怪しい。でももう逃げるのも限界。こんな所にずっといて、いつ異界側に馴染んじゃうかも分からない。

 ワンチャンにかけて付いて行くのも……。


 その手を取ろうとした瞬間。


「そいつらに付いていっちゃダメ!」


 今度はまた別の声がする。訳も分からないうちに次から次へと現れる新しい相手に、辟易しながら振り向くと乃愛ちゃんだった。


「そいつらから離れて。人間じゃないから。化けてるだけ」


 呆気にとられているうちに彼女は私の手を掴んで引き寄せる。私をどっかに連れて行こうとしないのなら本人なのかな。彼女はポケットから折り鶴を取り出したかと思うと、それを上に投げ飛ばした。


 するとなんと鶴は自分ではばたいて偽物の明里ちゃんまで飛んでいき、触れた瞬間に明里ちゃんは黒い霧のような物に変わって消えてしまった。


「こっちよ」


 そのまま乃愛ちゃんは私を路地裏に連れ込む。こっちはまだ偽物達はいないようだった。


「今のは私の式神。まぁ使い魔みたいな物だと思えばいいわ。にしてもあなたも巻き込まれていたなんてね」


 私たちはお互いの状況を説明し合った。それによると乃愛ちゃんも運悪く巻き込まれていたみたい。私は自分の能力、超常課という組織が助けに来ているけど、脱出方法を探っている途中で時間がかかりそうな事を伝えた。


「なるほどね。それじゃあ私の番ね。ここの事を教えてあげる。あなたの仲間にもスマホで送ってあげるといいわ」


 乃愛ちゃんによると、昔の暖かい記憶を思い出しながら、どこかの扉を開くとこの場所に迷い込む事があるみたい。この扉というのは文字通りの扉。例えば私が通ったスーパーの自動ドアとか。この周辺の扉なら、どれでも起こりうると聞いてゾッとした。

 ここに入ると今まで出会った人がランダムに出てくる。そして被害者を連れて行こうとするみたい。


 連れて行かれる先は思い出の中。そこで被害者は色んな思い出の世界をループし続ける。何回も、何回も、何回も。

 そして全ての暖かい記憶がトラウマになるまで出てこられないと言っていた。でも幸せな記憶が、全て悪夢に変わってしまった被害者は絶望して……。


「その先は察しがつくでしょう? 脱出法は1つだけ。あそこを見て」


 乃愛ちゃんがさした指の先には月が見えていた。それも吸い込まれそうなほど大きな月が。繁華街の雑居ビルに挟まれた大通りの先に見える空の3分の1ほどを覆っている。

 なんであんな物に気づかなかったんだろう。


「あの月は段々大きくなっていくの。そして空全体を覆うようになったら時間切れ。私達は仲良くここに閉じ込められる。脱出するにはあの月に向かって行く必要があるの。見たら分かると思うけど本物の月じゃないよ。あの月は宇宙に浮いてる訳じゃなくて、この先にあるの。だから触れられる。時間になるまでにあの月の下にあるドアを通れば元の世界に帰れるわ」


 気づかなかったのはそういう事か。その説明の間にも、心なしか大きくなったように見える。


「それじゃあ3つ数えたら、ここから出るよ。3、2……1!」


 その合図と共に大通りに飛び出した。

 知っていれば怖くない。あいつらに捕まらないように走るだけ。そう思っていた私は驚いた。だって、今や道路は化け物に埋め尽くされていたから。

 明里ちゃんだけでパッと見える範囲でも7人はいる。


 他にも知らない人がいっぱいいたけど、こっちは乃愛ちゃんが過去に関わってきた人かな。老若男女と色んな人がいて、私の対人関係の少なさに涙が出るね。およよ。


「私に任せて」


 乃愛ちゃんが折り紙(特別製らしいけど)に息を吹きかけただけで、50枚以上の紙が勝手に折られて折り鶴になった。そのまま1枚で敵を一体、霧に変えていく。

 敵を倒す速度が早いおかげで、私達は走っていても敵の壁にぶつかる事は無かった。


 乃愛ちゃんのとんでもない強さにビックリだよ。前の武士型の超常存在でも、乃愛ちゃんなら1人で倒せたんじゃないかな。

 何よりすごいのは能力をずっと使い続けていても大丈夫なところ。私や明里ちゃんは数十秒も連続で使えば、しばらく休憩しないと何も出来ない。なのに彼女はもうどれくらい敵を倒し続けているんだろう。


「ハァ……ハァ……ハァ」


 そんな事をしばらく続けていると、段々乃愛ちゃんの息が荒くなってきた。走るスピードも少しずつ遅くなる。


「大丈夫?」

「うん。まだやれる。私がやらないと……私が戦わなきゃ……」


 そんな事を言いながら更に式神を使う乃愛ちゃん。なんでそんなに責任感が強いんだろ。

 でも流石に頼りすぎたかな。


「大丈夫。今度は私の番だよ。任せて」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ