三題噺03 「鎖骨」「妖怪」「三途の川」
「ねぇ、妖怪女転がし」
「そのあだ名やめろ」
こいつは私の腐れ縁。昔はこいつと付き合っていたのだが、女癖が悪く無理になって別れを切り出した。今ではいろんな女を毎日とっかえひっかえしてるらしい。
「今度のクリスマスはどの女とヤるの?」
「俺を何だと思ってるんだ。それに、クリスマスはそういうことはしないって決めてるんだ。勘違いされても困るからな」
あらま意外。てっきり誰と遊ぶのか決まってるのかと。
「お前こそ、俺の家に飲みに来るのやめろよ。」
……別れたのはいいが、私の家は遠く、講義のあとに便利な飲み部屋として勝手にこいつのマンションに上がり込んでいる。
「いいじゃない、便利だよ、この立地。少し散らかってるけど。ビールも全部私が持ってきてるんだからさ、飲もうよ」
視界がぐにゃりと歪んだ。ちょっと飲みすぎたかな。これ以上飲むと三途の川を超えそうになるのでそろそろ控えないと……。
「うぐぅ……ちょっとベッド借りる……」
「水いるか?」
手渡されたコップ一杯の水をゴクリと一飲みすると、少し硬くて男の匂いがするベッドに倒れ込んだ。なんだか懐かしいような気がする。
「これ、やっぱり好きだな……」
つい思ってもいないことを呟いてしまった。
しばらく横になっていたが、思ったより意識は残っており、目を閉じていても眠くならない。まぶたの外は照明で明るい……と思ったら、少し暗くなった。気になって目を開けると、ヤツの顔がすぐ目の前に現れた。私を覆うように両腕が私を囲んでいる。
「お、おい……」
「なあ、やっぱり縒りを戻さないか?」
何を言ってるんだ、こいつは。
「クリスマスを空けたのはお前のためなんだ」
何を言っているのか分からない。脳が理解するのを拒否している。少しずるいと思ったのは秘密だ。デコルテを露わにしている無防備なシャツは彼の手から守ってくれはしない。彼の指先は、ゆっくり私の鎖骨を撫でた。
「っ……!」
丁寧で手慣れているその手つきは、相当の数の女を転がしている証拠だろう。彼の唇が私の鎖骨に触れる直前。
「うわっ!」
「あの! 私別にそんなつもりでこんなところに来たわけじゃないから!」
肩を掴んで突き飛ばし、さっさと荷物を掴んで玄関に向かった。
「おい! ちょっと待てよ」
「待たない!」
酔いは完全に冷めていた。