表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄の幸福  作者: 志村菫
3/23

兄に会いに行く

 家に帰ると、引越社の段ボールに囲まれて、母さんが荷造りをしていた。リビングにはテレビとソファーだけを残し、後は生活できる最低限の物だけが残りつつあった。


 ソファーに腰掛けて、琢磨は楽しそうに子機を握りしめ、一足先にドイツにいる父さんと話している。


「ねぇ、お父さん、お昼何食べたの?」

「毎日ソーセージ?」


 と、琢磨の持つ子機の横でふざけて言うと、ソーセージが好物の琢磨は羨ましそうに、「いいなー」とはしゃいだ。


「何くだらないこと喋ってんの。早く手伝ってよ、二人とも」


 母さんは「やる事リスト」と書かれたメモをチェックしていた。


「幸平、明日の部活は?」

「休み」

「なら少しは荷造りやってね」

「明日は用事があるから」

「何の用事?」

「ま、いろいろだよ」

「いろいろ? まぁとにかく帰ったらやってよ、分かった?」


 忙しいせいか少し苛々しているようだ。琢磨が父さんと話してる隙に、兄の事を聞いて見ようか……。


「母さん、引っ越す前に会っとかなきゃいけない人に、もう会った?」

「えっ……おじいちゃんでしょ……実家は後で行くし……えっと……何でそんなこと聞くの?」

「あのさ……」


 陽一って誰? とか聞こうか、と思ったら、


「お母さん、お父さんが代わってってー」


 と琢磨が子機を差し出した。

 「もう忙しいんだから」と、父さんと話し出すと、母さんの機嫌が少し良くなった様に感じた。やっぱり聞くのはやめよう。


 悩んだ末、やっぱり母さんには何も聞かずに、こっそりとあの年賀状の住所へ行こうと決めた。


 今日は兄の住んでいる筈の町に向かう。

 取りあえず、バスに乗って一日乗車券を買い、駅に向かう。混んでいる程ではないけど座れなかった。夏休み中という事もあり、プールに遊びに行く風の小学生たちが騒いでいた。


 その時、「おい静かにしろよ!」と注意したヤンキー男子高校生は、ひたすらスマホを触っていた。小学生たちは一瞬静かになったが、数分するとまた騒ぎ出した。ヤンキー高校生は舌打ちしながら、やはりスマホを触っていた。オレはヤンキーにいさんを見ながら、兄があんな感じだったら? と想像していた。ビミョー?


 駅に付くと地下鉄に乗った。オレの席の向いに、ギターケースを背負った金髪の若い男が座った。ビジュアル系ってやつ? ちら見していると、次の駅から乗って来た派手な、多分、年上っぽい女とイチャつき出した。兄があんな感じになってたら? とやはり想像してしまう。やっぱりビミョー……。


 電車のつり革に揺られながら、文庫本をスゴイ集中力で読んでいるメガネ男子。よく陽焼けした肌の体育会系男子……兄と同じ位の年齢の人たちが気になって仕方がなかった。


 知らない町の駅に着くと、お腹が空いたのでコンビニでチキンとパンとコーラを買った。イートインコーナーでそれを食べながら、ガラス越しに駅のロータリーを眺めていた。行き交う人の中、ひょっとして兄がいるのかもしれない。


 バスターミナルで「緑山団地行き」のバスを探した。バスは既に止まっていて、そろそろ出発する時間になっていた。そのバスに飛び乗ると、気持ちが徐々に高まるのを感じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ