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プロローグ

 真夏の日差しが容赦なく照り付ける。

 海上だからだろうか、陸にいた時よりも暑い気がする。

 久方ぶりのフェリーでの移動は都会に慣れ切った身には辛い。

 潮風でも浴びるかと甲板に出てくれば、これだ。


「あっち……」


 額の汗を拭いつつ、気だるげに呟く。

 甲板に人影はまばらで、カップルが楽しそうに景色を見ている。

 カップルに限らず、物珍しげにしている人たちは恐らく観光しに行くのだろう。

 里帰り――と言うには記憶はおぼろげだが――のために乗っている自分とは正反対。


「はあ」


 ため息が漏れる。

 まさかこんな形で帰ることになろうとは。


(いかんいかん。ポジティブにいこう)


 ため息を吐くと幸せが逃げる。

 どうせなら楽しめば良いではないか。

 我が故郷――海月島うみつきじまは漁業が盛んであり、時折送られてくる海の幸は絶品であった。

 肉料理はもちろんのこと魚も大好きな身としては非常に嬉しい。

 残念ながらうちの家系は漁師ではないが、おすそ分けの形で貰えるとは母談。


(いいぞいいぞ。他には何かあるかな)


 食べ物以外であれば……そうだ、空気が美味しい。

 そう大きくはない島だ。車を所有している家の方が少ないとか何とか。

 体にはきっと良いに違いない。

 そもそも、今回の件に両親が賛成したのもそれがある。

 更に、昨今の禁煙ブームに乗る形で喫煙率が著しく下がったとも聞く。

 健やかな成長が期待される。


(後は……)


 思い出に浸るように眼をつぶる。

 島で暮らしていたのは七年前、はっきりとは覚えていないが仲の良い友達が何人かいた。

 従妹である天海七海あまみななみはもちろん、チラホラといたのだ。

 女の子が多めだった気もするが、どうも海月島全体で女性が増える傾向にあるらしい。

 俺の世代から比率が偏っていたと言うのだから、ある意味当然なのかもしれない。

 彼女いない歴=年齢なので、都合の良いバラ色の未来を想像してしまう。

 年下、同い年、年上、年齢にこだわりはない。可愛い系、綺麗系、もちろんこだわりなし。

 とにかく、一緒にいて楽しい人が良いなと漠然とした希望だけがあるわけでして。


(まあ、そんな上手くいくわけないけどな)


 想像の中の自分に苦笑する。

 まだまだ若造だが、人生がそこまで単純でないことぐらい薄々わかっていた。

 ……薄々なところが若さかもしれないが。

 何にせよ、これから一年半はここで青春を送ることとなる。

 バラ色の未来はまだしも、楽しい時間になれば良いなと切に願う。

 夏休み真っただ中なため、学校に通うのは二学期の頭からになるのだが、はやい内に友人を作っておきたい。

 自慢できることではないが小心者なので、心のよりどころが欲しいのだ。


(うん、情けない)


 自身の情けなさに涙がちょちょぎれる思いだ。

 などとくだらないことを考えていると黄色い歓声があがった。

 どうやら、島が見えてきたらしい。

 眼を開ける。

 視線の先には海月島。


(さてはて、どうなるのやら俺の人生は)


 俺――天海海斗あまみかいとは、そう言いつつも口元を緩めるのであった。


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