退却
二度三度と物見を出す大久保忠世と石川家成。しかし答えは同じ。武田本隊が大井川を渡ろうとしている事実が揺るぎない事を確認した両者は撤退を決意。全力で城取を目指し諏訪原城内を警戒させた後、急旋回。石川家成は掛川城。大久保忠世は天方城に戻っていったのでありました。敵兵が去り、安堵のため息が漏れる諏訪原城内にやって来たのは……。
高坂昌信:喜兵衛に昌元。見事であった。
武藤喜兵衛:ありがとうございます。
高坂昌元:父上。想定に問題がありましたよ。
高坂昌信:申し訳ない。此度は喜兵衛に助けてもらった。感謝致す。
武藤喜兵衛:勿体ないお言葉。
高坂昌信:勿論、昌元。其方の事も忘れてはおらぬ。
高坂昌元:……はい。これから父上の常識を超える事態が発生する恐れがあります故、手入れをお願いします。
高坂昌信:今回の想定外は……。
武藤喜兵衛:徳川が竹束を用意し、我らの飛び道具を防ぎつつ丸馬出し前の堀を埋めて来た事。
高坂昌元:これについては丸馬出し内に残した仕掛けが効力を発揮。敵の新手を防ぐ事に成功しています。後は、丸馬出し内に残った兵を叩けば良いとの指示でありましたが……。
高坂昌信:退路を断たれた敵が城への侵入を諦めなかった?
武藤喜兵衛:はい。
高坂昌元:異風筒が無かったら、こちらの被害は甚大なものになっていた恐れがあります。
武藤喜兵衛:その異風筒でありますが、故障の恐れが高く頼みにする事は出来ません。それに弾は特注であり、数に限りがあります。乱発する事は出来ません。
高坂昌信:……うむ。そうなると……諏訪原城に敵を近付く事が出来ないようにするのが最良となるのか……。
武藤喜兵衛:兵を拡充するのでありますか?
高坂昌信:殿が駿河に入る事になるため、ここに辿り着くのは容易となる。故に常駐の兵数を変える予定は無い。備えにしても今の形を変える予定は無い。
高坂昌元:それでは徳川がまた。
高坂昌信:今のままではそうなる。そうならないようにする術を手当てをしなければならない。喜兵衛に昌元。
武藤喜兵衛、高坂昌元:はい。
高坂昌信:殿直属の兵の一部をここに残す。堀の修復を頼む。穴山様には、すぐ大井川を渡る事が出来るよう田中城に入っていただく。何かあったら穴山様に連絡するよう。
武藤喜兵衛:わかりました。
高坂昌元:父上は如何為されますか?
翌日。光明城に訪問者が。
武田勝頼:ん!?高坂。何でここに居る?確か其方は……。
高坂昌信:はい。私は諏訪原城に入り、手当てをしていました。
武田勝頼:いつまでいたのだ?
高坂昌信:昨日までであります。
武田勝頼:ん!?それにしては……(早過ぎやしないか?)




