もし長篠で
諏訪原城内から無事放たれた異風筒の弾は、目標に定めていた丸馬出し内に着弾。石川隊が弾除けに用意していた竹束と石川の部隊に打撃を与える事に成功。思わぬ攻撃に丸馬出し内は大混乱。
高坂昌元:よぉし敵が怯んだ!この隙を逃すな!!掛かれ!!!
と城門を開き、飛び出したのは高坂昌元。丸馬出し内に取り残された石川隊を一網打尽にしようかとしたその時。城から戻れの合図が……。
高坂昌元:武藤様。今は絶好の機会。何故退けを指示したのでありますか?
武藤喜兵衛:あれを見よ。火の勢いが衰えておる。このまま丸馬出しでいくさを続けていたら、石川が新手を繰り出して来るのは必定。それに……。
高坂昌元:……増えていますね。
武藤喜兵衛:あの旗印は大久保忠世。この後も合流する徳川隊が居ると見て間違いない。丸馬出しが無力化された事実に変わりは無い。今、兵を損耗させるのは得策では無い。
高坂昌元:……わかりました。しかしあの異風筒……。恐ろしい物でありますね。
武藤喜兵衛:あぁもし先のいくさで奥平に使われていたらどうなっていたか……。お前の親父の策略のおかげだな。
高坂昌元:はい。
武藤喜兵衛:しかしこの異風筒を頼みにする事は出来ぬ。いつ使い物にならなくなるかわかったものでは無い。次なる攻撃に備え、城の手入れを致す。
高坂昌元:わかりました。
その頃、諏訪原城外では。
大久保忠世:突撃の指示を出したのは私である。申し訳ない。
石川家成:いえ。大久保殿の指示を無視し、いくさを始めたのはこちらの落ち度。丸馬出しを無力化した所で待つべきであった。
大久保忠世:過ぎてしまった事は仕方が無い。
石川家成:それにあれだけの打撃を被っている事を思えば、損害は軽微。立て直しは可能であります。
大久保忠世:すぐにでも攻撃を開始したい所なのではあるが、厄介なのがあの異風筒。昔から武田が持っていた?
石川家成:それでありましたら使っていたでしょう。
大久保忠世:そうなると……。
石川家成:長篠に配備した物を移したのでありましょう。
大久保忠世:攻略は難しくなってしまったか……。幸い光明城に勝頼が居る。ここに至る途中に本多榊原を残している。動く事は出来ない。その間を使って、付城を構築する。大井川向こうに渡る事は出来ぬが、掛川に至る道を塞ぐ事は出来る。
そんな中。
「申し上げます!大井川向こうに武田の本隊が現れました!!」
大久保忠世:えっ!?勝頼は北遠に居たはず。間違いでは無いのか?
「いえ。勝頼の旗印に勝頼直属の者共の姿を確認しています。」
石川家成:本当か?
「はい。間違いありません。」