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宿泊研修とサポートキャラ


 ゴールデンウィークはその後穏やかに終わった。

 碧の病的なまでの紫大好きが軽減される事は無かったが、それでも何か大きな問題はなく終わったのだ。

 だからだろうか、その皺寄せが今来ているとしか思えない。

 


「ねぇ、休み中って何してたわけ? 」


「別に普通。特に変わりないよ」


「紫じゃなくて碧さん!! 碧さんの話!! 」


「知らんわ! …………いや、家でダラダラしてたよ」


 知らなくはなかった。私にしがみついてた。

 私、紫はゴールデンウィーク明けの学校で同じクラスの千川黄伊に捕まっていた。

 ゴールデンウィークのエンカウントが発生しなかった弊害なのか、朝から兄の行動を逐一チェックしようというのだ。

 1日目は何した? 2日目はどうした? どんな服装、何時に起きた? ご飯は? シャワーは何時?

 ストーカーかよ!! そんな24時間仕事のように兄を監視してないわ!!


「ねぇ!! 誰かと出掛けたりした? 教えてって!! 」


「あんたさ、プライバシーって知ってる? 」


「知ってるけど? 」


「知っててこれか、こわ」


 机に座る私の前に立ち、机に手をついて顔を寄せてくるから、頬に手を当ててグイッと離す。


「痛い!! 」


「近いって」


 離したら離したらで、痛いやら酷いやらうるさく騒ぐ千川黄伊。子供だ。

 面倒な人だなぁとため息を吐き出すと、頬をふくらませる。

 かなり面倒臭いヤツだが、沼の住人には結構人気があったキャラの1人だ。

 可愛く甘えて、でもふと見せる男の眼差しにメロメロになる。

 そして、可愛く笑う年下はベッドで兄をガンガン攻めるのだ。

 そのギャップにもはぁはぁと息を切らして涎を拭う沼の住人が増殖していた。

 この攻略対象の中で、実は兄が攻めになるのは同級生の斎藤白朗のみである。

 水泳部の色黒細マッチは完全な猫である。

 後半にいけば行くほど、兄にメス顔……失礼、雌化……雌のような……可愛い照れ顔を見せるのだ。

 唯一の受けに、兄の歪んだ高圧的な笑みを

 見せて、妹に向かう独占欲と支配欲を解消するかのように斎藤白朗を抑え込む。

 滾るぅぅぅぅ!! と私も喜び涎を飛び散らかせたものだ。




 

「じゃあ、6人組を作ってください」


 ゴールデンウィークが終わり待ち構えているのは宿泊研修。

 少し長い山道を歩き中腹にある宿泊場所で1泊するのだ。

 途中昼食は弁当を配布されるが、夕飯は各自で自炊になる。

 前持ってメニューを決めて前日に買い物をすませ、それを学校側で、各班クーラーボックスに入れて先生が車で運んでくれる。

 なかなか手の込んだことをする。

 イベントでは無いが、この宿泊研修はモノローグでの登場がある。

 兄が居ないため直接的ではないが、妹、つまり私がいる。

 千川黄伊と同じ班になり、色々兄について聞いてくる。

 それに紫がやっぱり兄は好かれて私はその情報を聞き出すための道具にすぎないんだと、高校生らしからぬ事を思い泣き出した紫に千川黄伊が慌てる。

 そして、謝り友達に友達になってサポート開始……というまた紫には微妙な感じで関わるのだが……。


「おっ!! 紫! マシュマロうまいよー! 」


「むぐっ!! トロ甘……」


 持ち込んでいた友達のマシュマロに串を刺して軽く炙ったマシュマロを私の口に入れる千川黄伊。

 にひひ! と笑ってマシュマロから外した串を軽く振っている。


「美味くない? 」


「………………おいしい」


 もぐもぐと口を動かし飲み込んでから言うと嬉しそうに笑った。

 ゲーム通りに同じ班になった私と千川黄伊だったけど、今日、朝に兄の様子を聞いてから一回も兄の話は出てこない。

 ちなみに兄は、ギリギリまで1泊を嫌がり泣きそうになりながら、あまり周りと話しないでねと懇願してきた。

 恋愛に性別は関係ないからだろう、兄は男にではなく全員を対象にしていた。むりです。





 できたビーフシチューをご飯と共に頂く。

 実は母と良く台所に立つ私は料理が得意だ。

 生まれ変わる前はまるっきりしなかった料理、今回は楽しいから料理が好きだ。

 ただ、兄がいる時に作ると、ダイニングテーブルからずっと笑顔で見てくるからまるっきり落ち着かないのだが。


「紫って料理出来たんだ……」


「意外? 」


「かなり……」


「それなりに作れるよ」


「………………碧さんは? 」


「食べる専門」


「じゃあ! 紫の作ったヤツ食べるの?! 」


「え? まあ、食べるね 」


 朝ぶりに話した兄の話題。

 おや? と顔を向けると赤らめた顔で勢い良く聞いてきて、私は顔を歪ませる。

 こレはもしかして……


「紫! 料理教えて!! 」


「だが断る」


「返事早すぎでしょ!! 」


 予想通りの料理教室の催促に嫌そうな顔を隠すこと無い私に千川黄伊は頬を膨らませた。

 ゴールデンウィークの点数稼ぎが出来なかったからか、必死な千川黄伊に面倒になった私は頑なに繋がらなかった携帯のアプリを繋いで仕方なしにレシピを教える事で手を打った。

 何が嬉しくて千川黄伊の家で料理教室をしなくてはいけないんだ。いやだわ。


 何とか納得した事でため息を吐いた私の受難はこれで終わりはしなかった。

 1つレシピを教えたら、数十倍の質問が飛んでくる料理音痴の千川黄伊に、後々面倒臭い! とブチ切れた私が千川黄伊におすすめの料理動画を送るようになるのは今から1週間後の事になる。



「………………あれ、結局サポートキャラになってない? 」


 宿泊研修が終わり、早めに帰宅した私は久しぶりの1人時間を満喫中。

 飲み物を飲んで、スマホをポチポチしていてふと気付く。

 今まさにポテサラのレシピを書いているからだろう。

 あれ? と首を傾げて手を止める。

 始まりや内容は違うが、斎藤白朗に続き千川黄伊の連絡先も手に入れている。

 斎藤白朗は頻繁に連絡はこないが、ちょこちょこ兄の情報収集の連絡が来るし、千川黄伊に至っては、今日連絡先を交換したにも関わらず普通の雑談もガンガンくる。お前は何がしたいんだ。


「………………なんだ? この状況は」


 眉を寄せてむむむ……と唸った宿泊研修終了日の昼、私は意味のわからない立場に首を傾げた。

 


 



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