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ゴールデンウィーク 2


 ゴールデンウィーク3日目。

 補習を終わらせた私は、何か言いたげな兄の視線を全身に浴びていた。

 困ったような怖がるような雰囲気で私を見るのに、私が見たら視線を逸らす。

 傍によるとピクン! と肩を跳ねさせるのだ。

 昨日1日様子を見ていたが改善されない。

 だから、今日は兄の部屋に突撃する事にした。

 入浴を終わらせてもう寝るだけ、準備万端。

 いざ、ゆかん!!



「話があるよ!!」


「わぁ!! 」


 バァン! とノックすること無く開けた私に飛び跳ねるくらい驚く兄。

 パジャマの上を脱いでいて、何してんだ? と首を傾げると、倒れたコップに零れてるお茶。

 濡れたのか、おっちょこちょいめ。

 しかし、今はそんなのはどうでもいいのだ。

 ズカズカと入ってきた私に焦る兄だが、そんなの知らん。

 グイッと引っ張りベッドに座らせた私は、兄が逃げないようにその膝に座る。

 目を見開き私を見る半裸な兄。

 スチルで肌色はよく見てたから今さら兄の肌色を見た所で気にしない。

 頬を両手で抑えて目を合わせると、眉をひそめているのを自覚している険しい顔のまま兄に話しかけた。


「なんで無視するの」


「し! してないよ!! 」


「じゃあ、なんで目をそらすの」


「……それは」


「こっち見て」


 視線を外す兄に呼びかけるが、こちらを見ない。

 ムッとした私は今まで言ったことない言葉を言う。びっくりしてこっち見ればいい。


「見ないならチューするよ」


「えっ!! 」


 効果はてきめん、すぐさまこちらを見た兄に、ニヤァ……と笑う。

 あっ……と小さく声を出してるけどもう遅い。


「それで、なんで? 補習からおかしいよね」


「…………それは……」


「それは? 」


「見てた、でしょ? 俺がその……襲われてたの」


「………………まぁ」


「こんな情けないお兄ちゃんで紫は嫌になってない? 嫌いになった? 幻滅……してない? 」


「………………………………はぁぁぁぁぁ」


 兄の肩に腕を回してべちゃっと寄りかかると、慌てたように背中に腕を回す兄。

 何を考えていたのかと思ったら。


「お兄ちゃん」


「は……はい」


「私の中でお兄ちゃんが襲われるのは最早普通になっています」


「え……襲われるのが普通は嫌だな……」


「まあ……嫌だよね。だから、私が出来る限り助けに行くから、お兄ちゃんはそんな心配してないで守られてなよ……まあ、この間は補習で行けなかったけど」


「紫……」


「あのね……お兄ちゃんに目線そらされるのは……その、悲しい……よ? 」


「っ!! 紫ごめん!! いつも助けて貰って情けなくて……紫に合わす顔なくて……でもそうだよね。紫、嫌だよね……ごめん」


 ぐっ……と抱き締めてくる少し震えてる兄の頭を優しく撫でた。

 あーあ、これだから。

 弱い所を認めて悩んで、素直に話して。そして


「…………紫、大好き。だから、お兄ちゃんの側にいて」


 天使の微笑みで私だけを見る。だから、この兄に沼るんだよね。

 ゲームをしている時も、紫にだけ向ける天使の微笑みは、今私に向けられる。

 好きなんだもん、困るじゃんこんな笑顔で見られたら。

 助けに行っちゃうじゃん。泣きそうに歪んだ顔を見ちゃったら。


 仕方ないなぁ、この兄は本当に。


 グイッと頭を引き寄せて肩に額が着くように抱き寄せて頭を撫でる。

 目を見開く兄が横目で私を見ると、じわじわと顔を赤らめて蕩けるような笑みを浮かべて私は抱き締める腕に力を入れた。


 前の世界の常識はやっぱり私の中にあって、実の兄とこんなに近い関係はどうなの? と悩んだこともあったけど、どうあってもこの兄は離れてくれない。

 なら、仕方ない。諦めてあげる。

 兄が私への愛の欠片を与える事が出来る人を見つけるまで側にいて頭を撫でてあげる。

 その欠片を見つけたら、きっとわがままな私は寂しくなるけれど、それでも。

 兄のめちゃくちゃな1年間で区切りをつけて、手を離してあげる。

 兄が掴んで離さないのは、私が掴んで離さないからでもあるから。


「お兄ちゃん、大好きだよ」


「………………どうしよう、嬉しすぎて死ぬかも」


「死なない」


「死ぬかもしれないから今日は一緒に寝よう」


「寝ない」





 

 結局、映画を見て寝落ちした私達は、兄の希望通り一緒に寝て朝を迎える。


「あら、一緒に寝てるわ。おやすみだからまだいいかしらね」


 そっと部屋を開けた母親は、妹を抱きしめて眠る兄の笑顔を見る。

 妹の胸に埋まるように顔を擦り寄せて眠る兄の無防備な姿と、そんな兄の髪に指を絡ませている妹。


「…………紫ちゃんがお兄ちゃんに落ちるのも時間の問題かしらねぇ」


 うふふ……と笑う母親。そして、自分達の父親が母の弟、つまり兄妹だということを2人は知らない。


「新しいお嫁さんや旦那さんもいいけれどね。どうなるのかしら。ね? 」


「わぁ、可愛いね2人とも。僕は……そうだね、紫ちゃんが家を出ちゃうのは嫌だから碧くんに頑張って欲しいかなぁ」


 ひょいと顔を出した父親を見上げて笑う。

 姉弟の笑みは夫婦の微笑み。紫が昔気にしていた兄妹での愛を交わし幸せになった実例がここにあった。 


 


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