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自宅でも油断ならない


「紫、ねぇ紫」


「ん? 」


「こっち来て一緒に映画見よう。スマホじゃなくてお兄ちゃんをかまって欲しいな?」


 もうすぐゴールデンウィークになる。

 私とずっと一緒にいれると数日前から機嫌が良い兄。うん、相変わらず愛が重い。

 友達と話してると言ったら分かりやすくムッとした。


「だれ……男? 女? 好きな人とかじゃないよね」


 ジリジリと近付いてくるのを目の端で捉えると、無表情……なんてことはなく、眉を下げて不安そうに見てくる。天使!!


「……友達」


「そっか……じゃあ、終わったら構って? 」


「う……うん」


 腐の沼。紛れも無く腐の沼。ただし、相手は妹。妹に色目を使うんじゃありません。

 わかってる、ゲームの兄同様に成分、9割は妹でできている。なんという不毛。


「…………お兄ちゃん」


「なに? 」


「いや、座りなよ」


「あ……うん」


 四つん這いでジリジリ来ていた格好のまま止まっていた兄。ソファで四つん這いって……。

 座り直したと思えば、今度は近い。

 ピタッと隣に座り隙間がないくらいにくっついている。

 だが驚く事は無い。これは通常である。

 これに肩や腰に腕が回るのだ。妹だぞ、相手は。


 そんなにくっつく兄だが、スマホを覗き込むことはない。紳士的な所もあるのだ。

 黙って座って待つ兄、手持ち無沙汰に私の肩に頭を乗せてぼーっとしているが、次第に両手でスマホを持つ私の腕に腕を絡めてきた。

 これ、私限定で無意識なんだよなぁ。

 チラッと見るが、ぼーっとしているだけ。このままにしていたら、確実に寝る。


「…………映画見る?」


「いいの? 」


「学校でも話せるし、いいよ」


 スマホから兄に顔を向けると、蕩けるような笑みが私に向けられる。

 両親よ、こんな兄を普段から見て何故にお兄ちゃんは紫ちゃんが大好きねで纏めるのだ。


「じゃあ、何見る? 」


「決まってないの? 」


「紫と決めたいなって」


「……わかった」


 くいっと腕を引かれてソファから立つ。

 兄の言う映画は、ここでは見ない。兄の部屋に見に行くのだろう。


「リビングで見ない? 」


「嫌。紫との時間を邪魔されたくない」


「邪魔って……お母さんじゃん……」


 呆れながらも頷いて手を引く兄の後を着いていく。

 わかってる。兄は危険人物。

 単品では問題なく可愛いく優しい兄だが、本編に入ってからは本当に危険。

 わかってるけど、ゲームをしている時から私はこの兄が大好きなのだ。

 攻略対象者を相手にキャッキャウフフするのではなく、私は兄が好きだった。

 

「…………仕方ないよなぁ」


「なにが? 」


「なぁんでもない」


 兄と妹の禁断ルートはバットエンドだけ。

 ハッピーエンドは程遠い。

 私のギャッ!! となるエンドを回避して兄が幸せになる終わり方はないんだろうか。

 大好きだから、幸せになって欲しいのだ。


「紫、何見る? 」


「うーん……」


 夕方から兄の部屋で兄妹2人映画鑑賞。

 始まるラブストーリーは切なく甘い。

 座る私の膝に頭を乗せて、横になる兄の髪をサラリと撫でる。


「紫? 」


「ごめん、邪魔したね」


「全然……もっと触って」


「…………………………エロいからやめて」


 下から私の手を握って赤らめた顔で笑う兄。

 だから、妹に向ける顔じゃないんだなぁ。

 指を絡めた兄の頬に私の手を触れさせる。そしてそのまま私の手に口付けをしてきた。


「……紫、もっと触って」


 唇が手に当たってる状態で喋るんじゃない。

 2人っきりになったら、この兄は妹に甘えていると言いながら良く触れてくる。

 体の至る所を自然に嫌な気持ちにしない程度に。

 ここまで過剰ではないけれど、ゲームの中の2人もよく体をくっつけているのはあった。

 碧が攻略対象者にはしない甘え方。だから紫に嫉妬しながらも紫へ助けを求めるのだが。


「お兄ちゃんさ、恋人作らないの?」


「………………なんで」


「いや、私にじゃなくて好きな人に甘えた方がいいんじゃないかなって」


「俺、紫が好きだよ」


 起き上がり私の手に口付ける。

 真剣に私を見る目にたじろぎ後ろに下がるが、ここは兄のベッドの上だ。下がった所であまり意味が無いのはわかってる。

 下がる分だけ兄も近付き、空いてる方の手が私の頬を捉えた。


「俺は紫以外いらない」


「………………お兄ちゃん」


「紫はお兄ちゃんが嫌い? 」


「そんなわけないじゃん」


「好き? 」


「う……………………うん、まぁ……」


「…………今はそれでいいか」


 残念そうに眉を下げて笑った兄は私から手を離してギュッと抱きしめた。

 兄のこの狂うほどの愛は何処にカテゴライズされるのだろう。

 物凄く重い兄妹愛なのか、それとも恋愛なのか。

 盲目的に向けられる愛は、ゲームをする沼の住人にも話題となっていた。

 大好きな妹がいるが、碧にはちゃんと彼氏が出来る。

 妹を巻き込んだ壮大なラストではあるが、妹にしか向けなかった愛を他人に向けるのだ。

 妹とは違う、なんだろうこの暖かな気持ちは……と顔を赤らめながら。

 そして、8割のラストは妹を含んだアッ……というやつだが、残り2割に妹はいない。

 様々な複雑なルートの中にある2割は、妹への愛を消すことなく彼氏に向き合った碧は紫のいないラストを迎える。


 そんなラストもあるのだ。

 私を抱き締める兄が、私を手放し彼氏を選ぶラスト。

 1番幸せなラストなのだろう。そのスチルの笑みが少し寂しそうでも、いずれは妹を忘れる。

 そんな風に沼の住人達は考察していた。

 だから、恋人を作らないのかと聞いたけど、まだ早かったみたい。

 まあ、ゲーム序盤だしね。焦りは禁物。


 そう映画を見ながら思っていた。

 隣に座る兄がこっそり私を見て、腰に回している指先にほんの少し力を込めていた事に気づかずに。

 

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