大団円
動けなくなった兄を連れて私の家に帰る。
上総が兄を支えて、なんとか動く彰の手を引き4人で帰る。
これが正解かはわからない。
だって、結果的に私は3人とも好きって言ったのだ。
なんでか3人とも喜んでいるけれど、これ、あってる?
「紫ちゃん? どうしたの? 」
「うーん……」
「えっ……もしかして、好きって言うの嘘?! 」
上総の言葉にビクリと肩を揺らす兄は、ゆらりと顔を上げた。
泣き腫らした目から、また涙がじわりと湧き上がる。
「いや! いやいや!! あってるから泣かないで!! 」
「………………本当? 紫嘘ついてない? 」
「本当、だから泣かないで」
「家でゆっくり話したい、な」
くいっと手を引かれて言う彰に兄と上総も懇願している。流石に断るほど私は無粋じゃないよ。
「…………紫。俺達が好き? その、恋愛の方……かな? ううん…… そうじゃなくても良いんだ。 紫からの愛をくれるなら」
私を後ろから抱き締めて耳元で囁く兄。誘惑するな。
「…………そう、だね? 」
「そこに、俺達も入れてくれるんだよね? 」
「………………うん、そうだね? 」
頬に手を当てて、目を見て話す上総。近い、こっちも誘惑か。
「……愛してるって言って」
「彰、直球だね?! 」
スリ……繋いでいる手に指を這わせて言う彰。誘惑……。
3人とも、一気に色気が爆発している。
人道的に、3人一気に好きって平気? 大丈夫?
あ、この世界は自由度の高い恋愛でした。問題なし? 上総、いい顔ですね。
「…………あのね、前から3人とも大好き、それは変わらないんだ。でも、それが……その……特別だってわかってからまだ1時間くらいだから、ね? あの……あんまり迫らないでください?! 」
「そんな事言われたら無理だよ紫……大好き、愛してる。全て、紫だけ」
「ねぇ、もう口にちゅーしてもいいよね? まだ駄目? 」
「……まって、僕先に目を見て愛してるって言われたい」
1番の乙女思考は彰でした。
「……紫、紫が気にしてる3人っていうの俺は良かったって思ってるよ。だって、 俺と同じくらい上総と彰も紫が好きだから。だから、みんな平等に同じだけ愛を返してくれると嬉しい。上総も彰も大好きだからね……他は駄目だけど。紫、愛していいのは俺達だけだよ。わかったかい? 」
「わ! わかった!! 」
兄の目が限りなく鬱ルートに近かった!! あっぶねぇ!! まだまだ危険は隠れてる!!
「………………嬉しいな、嬉しい」
「お兄ちゃん……」
「紫、君は今まで通り自由に俺達を愛して。抱き締めて口付けて、体を重ねて……愛し尽くして、隅々まで」
後ろから引き寄せられ、兄の顔がすぐに見えなくなる。
その代わりに感じた唇への柔らかく暖かな感触。
「お……にいちゃ……」
「紫ちゃん、俺も。愛して全てを」
今度は上総からの口付けを受ける。手早いな。
口付けはヌルリと唇を舐めてから離れていき、上総は見せつけるように唇を舐めた。えっろ。
「…………紫」
上総とは真逆の、一瞬触れるだけの口付けをくれる彰。
ぶっちゅぶっちゅとしてくる上総とは違い、恥じらう彰は、口元を手の甲で隠して赤らめた顔を少し逸らす。
「「「……………………かーわいーい」」」
思わず声が揃った3人に、更に真っ赤になった彰がぷるぷるするから、3人でギュッと抱き締めてあげた。
何が正解かなんてわからないけれど、私の正解はきっとこれなんだろう。
そう、私は納得した。しないと鬱ルートが始まるから。危ない。
「母さん、父さん。話があるんだ」
「なぁに? 」
「どうしたの? 」
「紫と付き合う事になったんだ……3人とも」
兄が私の腰に手を回して両親に報告する。兄はにこやかだ。
私の手を繋ぐ彰と、後ろから抱きつくようにして立っている上総。
本当に、自宅じゃないからね? 私にくっついて恥ずかしくないのか。私の両親が見てるぞ?
「あなた達……」
母が目を見開きワナワナと震えている。
兄は大丈夫と言ってたけど、大丈夫じゃなくない?
「あなた達、まだ紫と付き合ってなかったの?! あんなにイチャイチャしてたのに?! なによ、3人揃ってヘタレなの……ママびっくりよ……」
「ヘタレな息子でごめんね」
母の驚愕は、まさかのまだ私に手を出してなかったの?? の驚愕だった。いや、私の方がびっくりなんだけど。自分の息子とその友達にヘタレって……。
「そっかー、碧くん良かったねー。紫ちゃんが生まれてから頑張ってたもんねー」
ほよん、と笑って話す父。絶対兄は父親似だ。
「いや……いやいやいや!なんで驚かないの?! 」
「いや、紫。あなたなんで碧からの重たーい愛に気付かないのよ」
「……………………………………うぅぅ」
「いやぁ、今日はお祝いかなぁ。お母さん、お赤飯炊こうか」
「やだ、お父さんったら赤飯って……たまにはいいわね。今からは間に合わないから、明日作りましょうか。 今日は焼肉にする? それともすき焼き? 息子が増えるから日用品とか買い足さないとね」
そして私は母親似だろう。思考が似てる。
あっさり頷いた両親、むしろ遅いヘタレと言われておめでとうもないが、ああ、幸せだなぁ。




