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生徒会長がくれる道標


「………………お、せいとかいちょーだ」


 相変わらずふわふわした上総が言う。

 下校途中、校門に寄りかかり待っている姿に私は面倒くさ……とため息をつく。


「来たね……へぇ、本当なんだ。高垣兄弟と仲がいいって。妹もかぁ。レアじゃん」


 ジロジロと見られた高垣兄弟だが、堂々としている。

 生徒会長である有栖川朱寧を見て、上総はニコニコしているのだ。

 彰は相変わらず私の隣で立っているのだが、何となく雰囲気的に手は繋がなかったらしい。偉いぞ。

 私の兄は変わらず手を握っているが。恋人繋ぎだ。おかしいぞ。


「いやさぁ、碧の側に斎藤くん以外の友達が幅きかせてるって聞いたらね、 なんなら注意しないとかな? って思うじゃん」


 予想以上に仲がいいみたいだけど、と高垣兄弟を見る。

 私に向けるような笑みを兄が高垣兄弟に向けているからだろう。

 今までにない変化なのだ。だからかな、有栖川朱寧が見に来たのは。


「………………ふーん、どうしよっかな。俺は碧が欲しいんだけど。できたら妹も。でも、君たち兄弟が妹を欲しいなら手放せるよ、うん。全然平気。だから、碧は俺にくれよ。妹がいたら満足だろ? 碧も安心だろ? 妹の子守り先が出来てさ」

 

 あ。こいつ私も一緒にとか言ってたのは完全にリップサービスだったんだ。

 兄への点数稼ぎ。薄っぺらなハリボテ。

 きっとゲームでは、サポートキャラの私とも沢山話をして兄程まではいかないけど好意を寄せてくれといたからこそ、私を含めたあのラストのスチルに行き着く。

 ただ、今は高垣兄弟が私たち兄妹の側にいて、ゲーム中の私のように絆がない。

 だから、簡単に私を切り離せるのだ。それが一番してはいけない選択肢なのだが。


 攻略対象者と高垣兄弟の違いは、単に私に向ける愛情の違い。

 ゲームで各キャラとのハッピーエンドがあるのだ、間違えなければ、焦らなければ攻略対象キャラだって今の高垣兄弟のように兄からの優しい笑みを向けられただろう。

 兄が1番必要としているのは、私を同じだけ愛してくれるか。

 自分への気持ちは二の次で、私を愛してくれる人じゃないと一緒にいる資格は無いと言い切るほどの狂愛ぶりだ。

 狂おしい程に愛してくれる私の隣に、兄が自分以外の他人を置くことを良しとしたのは正直驚いた。

 ゲームでも、側にはいたが攻略対象者が紫に触れる事は許さなかったのだろう、スチルでも触れているのは碧だけだ。

 だから、兄からしても高垣兄弟の私に対する急激な溺愛は予想外でいて、喜ばしい事ではないのだろうか。

 だって、2人は兄に恋をしていないのだから。

 恋人へ向ける強い感情じゃない、仲間意識というか、同じ体温を感じあえる同士というか。

 

 見ている限り、彰は多分千川黄伊が好きだったのだろう。ゲーム通り。

 私を監視するといいながら、チラリと千川黄伊に視線が行っていた。

 でも、いつからかその視線は私にのみ固定されて私のみを愛しだした。


 上総は彰ほど一緒にはいないから誰が好きかは分からない。ゲームでは斎藤白朗だったが。

 わからなくても、上総が向ける私への愛情も揺るがないのだ。好きで好きで愛おしくて。それが触れる手から、唇から溢れるほど伝わってくる。

 見つめられる眼差しは蜂蜜みたいにまったりと甘くて擽ったい。

 そんな愛される私を嬉しそうに兄は抱き締めるのだ。

 手を繋いで、抱き締めて。額を合わせて微笑み合う。

 3人はまるで愛おしい恋人にドロドロの愛を与えるように私に接するのだ。


 それが、わからないのだ。

 有栖川朱寧は、私あっての碧だと理解出来ない。理解するまでの絆がないのだ。

 ゲームで様々なイベントを通して碧を、紫を知って愛を深める。それを全て吹っ飛ばした。

 自由で自己中で、己の希望は全て叶うと疑わないその人は、自信しかない優越感を浮かべた顔で笑って手を差し出している。

 碧に。なんて、愚かなんだろう。



「………………生徒会長」


 ああ、兄が生徒会長と呼んでる。好感度が低い証拠だ。


「なんだ? 」


「俺の絶対は紫です。 それ以外はいらない。 いや、今は上総と彰もいりますね。俺達は紫を愛して甘やかして、甘やかされて。その為に存在していると言ってもいいんです。俺達と同じだけの愛情を紫に差し出して、受け取ってくれたら初めて俺は貴方を認識します。愛する事ができる人かもしれないと。紫に向ける愛情の欠片しかあげれないけど、それで満足してくる人を俺は愛せる。何より絶対は紫で1番は紫。それ以外はみんな一緒なんです。だから、上総や彰に紫を預けるなんて言う人は近付かせませんよ。俺の全ては紫のものですから、紫が好きな俺達には指1本触れさせません」


 今までにない強い言葉とキツイ眼差しで言い切った碧に有栖川朱寧は目を見開く。

 そして、ゆっくりと私を見た。


「…………なんなんだ、君は。碧の……高垣兄弟の執着を集める君は……一体なんなんだ」


 なんだと言われても。わたしは


「私はお兄ちゃんの……碧の唯一です。恋愛とか兄弟愛とか、そんな括りに入らない全ての愛を向けられていましたから。薄っぺらい区別に含まれない、全ての愛情が詰まってる。多分、生まれてから……にぃにや彰からの……執着? は私の何をそんなに気に入ったのかよく分からないですね」


「ちょっ……紫ちゃん?! 」


「…………紫? 」


「…………わからないけど、お兄ちゃんが私を思ってくれるのにとても似てるんだろうなとは思う」

 

 

 いつからかな。兄の私に向ける愛情を推し量らなくなったのは。

 なんの愛を向けられているのか考えなくなったのは。

 愛と名の付く全ての感情を私に向ける兄、碧。

 

 ゲームでの兄は、サポートキャラの好感度によって簡単に恋をした紫に焦がれる思いと引き裂かれるような胸の痛み、それでも止められない妹への狂おしい程の愛が狂い出す。それでも、兄が紫に向ける感情は愛だけなのだ。

 バットエンディングでも、蕩けるような恍惚とした仄暗い笑みは、壊れそうな心で必死に、私を愛し続けている。

 心が壊れそうな兄をギリギリ支えていたのも私への愛情だったのだ。

 返されない私からの愛に絶望して、それでも愛して欲しくてすがりたくて。

 そんな悲しい兄の姿が鬱ルートの最後だ。


 今だからわかる。兄は常に、私からの愛に飢えていた。

 愛されたくて、愛されたくて。愛してる気持ちの半分でもいいから私からの愛を欲しがった。

 大好き、愛してると全身で訴えていたのに目を逸らしていたのは私だ。

 この世界の恋愛は自由度が高い。

 愛に様々な形があるように、この3人は重苦しくドロドロと溶けない愛を私に向け続ける。

 きっと、生涯変わらない愛の形なんだろう。


 愛してる。愛してる。


 その言葉では足りない3人の深い愛情に、私は向き合って抱きしめ続けられるだろうか。

 いつか、あのスチルのようにならないかと今でも怖いけど、目を逸らし続けた愛に向き合う時が今なんだろう。

 

3人の過剰なまでの溺愛やスキンシップを当たり前のように受け入れている時点で、私も3人が愛おしいく大好きなんだろう。

じゃないと、ハグもキスも私は受け入れられない。



「…………それはまた、随分と愛を詰め込んだものだ。それは妹が苦しいだろう」

 

「いいえ全然。だって、沢山詰まった愛は、私の愛と混ざりあって3人に還るんですから。愛してるって言葉じゃ足りないくらいの愛を3人に」


「……随分、重いな」


「仕方ないですよ、だって兄が……高垣兄弟がそもそも重いんです」


「………………残念だ。碧だけじゃなくて妹を……紫を諦めなければ良かったな」


「私をそんなに好きじゃないのに? 」


「好きさ、それは変わらない。君が俺を嫌いでもな」


「…………嫌い、ではないですよ。貴方は私のちゃんと理解してない気持ちを導いてくれたので。愛する気持ちの行き先を教えてくれたから」


 横を見ると、両手で顔を覆って泣き崩れている兄がいる。

 私は前にしゃがんで頭を抱えるように抱きしめた。

 唯一、欲しかった妹からの愛情。みんなと一緒では駄目で、特別が欲しくて。

 でも、妹の拒否やその反応が怖い我儘で臆病で、自信のない兄の精一杯の虚勢は、私からの沢山の愛をあげるという言葉で泣き崩れた。

 それは兄だけじゃなかった。

 お互いを兄弟愛として大切にしていた2人の初恋は見事に消え去ったが、その淡い気持ちは残り燻っていた。

 愛されたいと願う気持ちを抱えていた2人は、私が与えると言ったからか、2人は目を見開いて私を見ていた。

 瞬きも出来ずに、動けずに。


「だめ? 私の愛じゃ物足りない? 」


「……………………そんなはずない。そんなはずないよ!! 紫ちゃん!! 大好き、愛してる。こんな言葉じゃ足りないくらい、好きで堪らないんだ……」


「僕も……紫、紫……」


 目を潤ませる上総に、泣き出して声が出ない彰。

 上総が彰の手を引いて私の隣にしゃがむと、兄ごと私を抱き締めた。


「大好き、紫ちゃん。碧ごと、ずっと愛してあげる。彰と一緒にずっと」


 

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