呼び出し
6時間目は自習で千川黄伊から質問攻めされ、周りもギラギラとこちらを見る居心地の悪さをなんとか受け流す。
なんで? 仲良いの? 兄貴の方は碧さんと仲良いよね! なんなの、どうなってるの!! 僕は何だったわけ? 1番仲良いのは僕じゃん!! なんで軽く抱き着いてるわけ?! てか、メッセージ返してよ! 聞きたいこと沢山あって……あー!もう!!
そんな意味のわからない叫びを1時間分たっぷり聞かされた。
スマホがないから何も出来ない、なにこの苦行。メンヘラかよ。
そんな苦痛な時間を過ぎ去りHRも終わったのに、千川黄伊はまだ懲りずに話し掛けてくる。
ものすごく面倒臭い。呼ばれた高垣彰の付き添いで職員室までは一緒に行こうと思っていたのに無理そうだ。
そして、私と高垣彰の関係を気にしているのか大半の生徒が残ってチラチラ見てくる。暇人か。
多分、高垣彰を好きな人といるのだろう。顔色がわるい。
「お迎えに来たよ。紫、職員室行こう」
「お兄ちゃん」
ガラッと開いた教室の扉に全員の視線が集まる。兄がいる。その隣には高垣上総の姿も。
千川黄伊はカッ! となって兄の前に行き高垣上総を指さす。
「碧さん!! この人の弟が紫に抱き着いてました!! なんでそんなヤツの兄と仲良くしてるんですか!……そうか、紫を懐柔して碧さんにつけこむつもりなんだ!! もう離れてください!! 」
かなりイライラしてるのだろう、叫ぶように言う千川黄伊。
兄と高垣上総はキョトンとして千川黄伊を見たあと、つけこむ……と小さな声で呟いた。
そりゃキョトンともなるだろう、いきなり叫ばれても何言ってんだって感じだ。
そんな2人の少し離れた場所には斎藤白朗もいた。
ゴールデンウィークまではすごく仲良かったはずなのに、学校が始まり数日したら高垣上総と居る時間が増えた兄に混乱したのだ。
だが、兄に不思議なことはない。より私を大事にしてくれる人のそばに行った。ただそれだけなのだ。
「抱きつく……」
兄が呟き私を見ると、高垣上総が私の頬を撫でながら聞いてくる。
「彰に抱きつかれたの? 」
「うん、教室で。だから、こらって怒ったよ」
「ふっ……そっか」
「あはっ! 可愛い! 俺も」
「こらっ」
小さく笑う兄と、満面の笑顔の高垣上総。可愛い可愛いと言い、ギュっと抱きついてくる高垣上総に、同じように怒ると顔を赤らめてワクワクしだす。
「可愛すぎて興奮しちゃったから、チューしていい? 軽く! ちゅっ! って」
「こら! 」
「怒られた! 碧!! 」
「はいはい、良かったねぇ。紫、彰迎えに行くよ」
「うん」
3人で穏やかに話すのを見るクラスメイトの驚きの顔。
「碧……先輩……なんで」
「うん。俺達は仲が良いから変な勘ぐりはいらないよ。あと、紫にメッセージ……しつこいね? 昼休みも潰すくらいにメッセージ送るのはやめて。迷惑だよ? 」
ポケットから出した私のスマホを見せると、千川黄伊が目を見開いた。
「昼ご飯を食べれないくらいにメッセージが来るみたいだから預かったんだよ。流石に放置出来ないからね」
激おこな兄に青ざめる千川黄伊。それは斎藤白朗もだった。
チラッと斎藤白朗を見てから私の腰に手を回して歩き出す兄と、逆隣を歩く高垣上総をクラスメイトは静かに見送った。
「……………………どうしよう、嫌われた」
「これでメッセージも減るね。シロも聞いてたみたいだから良かった」
「えげつなーい」
「え? じゃあ上総は紫への迷惑放置しちゃうの? 」
「そんなわけないよー」
にっこり笑う高垣上総に同じく笑う兄。
2人ともいい性格してる。
「さてー、職員室入ってもいいかなぁ? 」
「入った方がいいかも……小林先生ね、あの時妙に………………彰…………に突っかかってた、から」
「「!!…………うちの妹尊い……」」
2人は目見開いて私を見る。たぶん、いや、絶対顔が赤い。
実は高垣彰…………彰を名前で呼ぶのは初めてなのだ。
仲良くなり、くっつく高垣兄弟だが、タイミングが合わず名前は呼べてなかった。
本人が居ない場所で呼ぶのもどうかと思ったが、呼んでみたら思っていた以上に恥ずかしい。
「かわっ…… かわっ!! ねぇ、俺も! 上総って! …………いや、お兄ちゃん! ……は被るか。にぃに! ほら!! 」
なにこれ、羞恥プレイ?
真っ赤になっている私を見て笑っている2人にキッ! と睨んだ。
「彰を! 迎えに行くの!! 早く!! ……………………お兄ちゃん、にぃに」
バタッ……と倒れるにぃに……上総は悶えている。
妹さいっこう!! と顔を抑えながら言い、兄もしゃがみこんで膝に顔を埋めている。
「ねぇ、どうしよう。もう隠した方がいいかな。俺達3人いたら紫は満足するよね。変な虫増やす前に隠そうかな……」
あ、兄の思考がおかしくなってる。バグってる。 危険アラームがガンガンなってる。
「……おにいちゃん達。行かないならひとりで行くから」
「「行きます」」
スクッと立ち上がったら2人だが、顔はしまらない。
ニヤニヤしながら職員室の扉をノックしていた。
「せーんせ。彰もういい? 」
「だから! ん? 上総……」
イライラした様子で少し声を荒らげる小林青澄に話しかける上総。
ハッとして上総を見ると私たちも居て、目を見開いている。
「ど、うしたんだ。上総はわかるが碧と秋堂さんまで……」
「俺の家に行くから迎えに。 ね、紫? 」
「ん? うん」
「え! …………家に? で、でも。上総、君の弟が秋堂さんに抱きついていたから辞めた方がいいんじゃないかい? 秋堂さん、嫌がるんじゃないか? 」
「大丈夫だよせんせー。俺ら紫大好きだから抱き着くとか普通ー。むしろ、せんせー何に怒ってんの? 」
首を傾げてわざとらしく聞いてくる上総に小林青澄は小さく「え……」とつぶやき、彰はちょこちょこと私の隣に来て両手の指先で私の右手の指先を握る。え? 女子力たっか。
「…………秋堂さん、大丈夫なのか? 」
「特に問題ないです…………あ、教室であんな目立つのはダメだからね彰」
「「あ」」
「……………………………………彰……?…………紫、紫大好き!! 」
「……………………これは私が悪かった。タイミングを見誤った。練習が駄目な場所で発揮された」
「ふふ……紫、練習してたんだ」
「紫ちゃんかーわい」
嬉しさが爆発した彰がすっぽりと抱き締めて頭を擦り寄せる。ここ、職員室。うん、ごめん。ガチでごめんなさい、私が悪かったです。
「先生、妹みたいに可愛がってくれてて、ちょっと愛が重たいんだ2人とも。だから、紫は大丈夫なので彰はもう許してあげて。俺からも良く言っておくか……ら……こら!! 上総も仲間に入らないで、ここ職員室!! 家に帰ってからにして!! 」
その発言もどうかと思うんだ、兄よ。
前から後ろからギュッと抱きつかれてる私を見て注意する兄だったが、帰宅中は私の手を離さず握りしめるブラコンを発揮していた。
これこそ兄なのだ。