今一体誰のルートなんだろう
よく、お話で悪役令嬢に転生して、死を回避する為に必死に行動する! というのがあるだろう。
自分の好感度を上げて物理的に強くなり、なんとか回避する為に奔走する。
そんな悪役令嬢に惹かれていった攻略対象に好かれていって、デロデロに甘やかされてヒロインにざまぁする。
そんな話は私も好きでよく読んでいた。
色々あるよね、気付いたら囲われていてとか、ヒロインも含めて仲良くなったり……とか。
話の王道ではさ、兄がざまぁされて高垣兄弟がチヤホヤされるとか。男だが。
そこにはモブも入ってて、重要ポジションになってたり。
たぶん私、ゲームの流れ的に今がそうなのかな。
ゲームの道筋とかなり変わっている今、多分これ、ターニングポイント。
「よし、いいな……騒ぐなよ……いいな」
ハァハァと息を荒くした男に後ろから押さえつけられている。前は壁で、後ろには男。
興奮しているのだろう、私のシャツを思い切り引っ張り肩が露出している。離せや。
「よ……よし、触るぞ……触る……」
前に手が伸びてきたが、壁……とうか窓に体が押し付けられていて隙間はない。コイツどこ触ろうとしてんの? 童貞か?
残念ながら生まれ変わった私はある程度の経験をしている。紫としてはないけれど。
そんな私が今の状態で泣き叫ぶことも無く冷静なのは、目の前の窓から見える兄と高垣兄弟の姿があったから。
流石にその前はかなり焦っていた。
押さえつけられて焦る私を兄の代わりにしようとした正真正銘のモブから逃れられずヤられる、まじで?……と困惑していたのだ。
不意に窓にガシャン! と更に体を叩きつけるように押し当て鳴ったその音で、こちらを見た3人の顔つきが鬼になる。
グイッ……と引っ張られ、胸を鷲掴みにしたコイツ、兄の代わり?確かに似てるけど、兄に乳は無いわ。
というか、前窓なんだけど。コイツやばいな。
そう冷静に思ったのは、3人が凄まじい勢いでこちらに走ってきているから。
「………………あ、やばい。窓割れる」
「は? ……………………え?! 」
ガシャァァァァン!!!
予想通りにひび割れた窓から無理やり体をねじ込ませて入ってくる3人。
呆然と3人を見るモブな人、とりあえず手を離せ、乳触んな金とるぞ。
「紫!! 」
「触んな穢れる」
「うちの子に汚い手で触らないでよね?! 」
3人の必死な姿にモブはビクリと震える。
すぐさま取り押さえられて兄の無表情にモブは泣きそうになっているが、自業自得だろう。
殴られたモブが逃げようとすると、高垣彰によって踏まれて動けなくなっていた。
「紫ちゃん、大丈夫? 気持ち悪かったね! ほら、これ着て」
「…………ねぇ、秋堂先輩。顔無くなるよ」
「無くなればいいよね? うちの妹を汚い目で見て触るヤツなんか、目を潰して手を切り落とせば良いかな。記憶飛ぶまで殴り続ければいい? 」
「うわぁ……」
ぶん殴る兄を見た私は顔を引き攣らせる。
血が飛び手や顔に跳ねたのをそのままに、無表情で殴っているのだ。
うん、カオス。
「…………おにいちゃん」
「紫?! ごめん!!大丈夫……?俺、触ってもいい? 」
座り込む私の隣にいる高垣上総。彼も私に触れていない。
たぶん、今男に触れられて怖くないかと思案しているのだろう。
ボタンが弾けて前が全開な私は、借りたブレザーで隠しながら手を伸ばした。
「…………そんな心配しなくていいから。早く抱き締めて」
「!! 紫!! ごめん!! 」
「…………いーよ。ちょっと怖かったけどすぐ来てくれたから」
襲われるのは初めてだ。
やっぱり怖い。こんな怖いのを兄は毎回感じているんだ。やっぱり早く助けてあげないと。
小さく震える私はギュっと、兄にしがみつくと高垣上総から優しく頭を撫でられる。
ちらりと見ると、それはそれは心配しています! と顔全体で言ってて思わず笑った。
「…………助けてくれてありがとう、3人とも」
「怪我はない? 」
少し離れた場所から聞いてくる高垣彰に頷く。
怪我は無いようだ、痛みはない。
まだモブを抑えている高垣彰は、兄に声を掛ける。
「…………どうする? 先生呼ぶ? 妹の姿見せないように女の先生がいい? 」
このままにはしておけないと、高垣彰は言う。
兄が襲われた時は上手く切り抜けていたが、今回は私であり服が破けている。3人は胸を触られている所も見てるし、窓際で他の人ももしかしたら見てるかもしれない。
相手もフルボッコである。明らかに隠せない。
高垣上総は私は勿論、兄にも心配です! な眼差しを向けている。知っているのだろう、兄が何度も襲われていることを。
「…………呼んでくれるかな。紫の体に怪我があるかも診て欲しいし。窓に体ぶつけてたみたいだから」
「ん、わかった。彰、俺行ってくるからもう少し抑えてて。すぐ戻るからね」
「ま……まってくれ……やめて……」
「うるさい」
顔を上げて手を伸ばすモブの足に力を込めて動きを止めた高垣彰が、私を見る。
眉を寄せてつり目の目が心配そうに少しだけ下がっている気がするのは気のせいだろうか。
あれから、男性の先生と保険の先生を連れてきた高垣上総は先生達の驚いた顔を見てからすぐに私の隣に来た。
保険の先生は女性ですぐさま私の隣に来て抱き締めてくれてる兄を力ずくで離し、端の方に行って話をしてくれる。
カーテンがない普通の空き教室だから、離れても姿は見えるが、小さな声で色々心配そうに聞いてくる若い先生に私は笑う。
兄に比べたら襲われるレベルが違う。いや、競うことではないが。
襲ってきたモブは停学となり、その両親から凄まじい勢いで謝られた。
今更謝られても……と思ったが、頷いておく。
じゃないと、ブチ切れている兄がモブ家族どころか、一族全てを滅ぼしかねない鬼になっているからだ。
たぶんここに高垣兄弟も含まれる。何故かあの二人は私を好きらしい。妹として。
私も窓にぶつけられて変色していたが、傷はなかった。
驚きと恐怖で当時痛みは無かったが、後から痛みがきて顔を歪めるくらいには痛い。
「まったく、ありえないよね! 紫ちゃんを襲うとかぶち殺したい」
「まったくだよね、早く見つけれて良かった」
「……………………なんでうちにいるの」
「え? 紫ちゃんが心配だからだよ」
「秋堂先輩も良いってっ言ったし、ママさん熱烈歓迎」
そう、あれから何故か3人は仲が良くなっている。
私を助けた事と、紫が好きだ! と言い切った2人に碧が嬉しそうに笑ったのだ。
兄は、自分に好意を向けるより妹をしっかりと見て好きと言ってくれる人を人間的に好む。
碧ばかりを見てそんな事を言う人は滅多に出てこないから、最初、意地悪する気満々だった2人を心の底から気に入ったのだ。
窓から見た時の3人は、高垣兄弟が兄に気に入らないから意地悪するね! と笑顔で堂々と言ってたらしい。
そんな姿にも何故か嬉しかったらしい、兄。頭は大丈夫か。
両親も、私を助けた2人はいつでも歓迎! な感じで、今も晩御飯を食べて帰るらしい。
ソファに座る私の肩に寄りかかりゲームする高垣彰をチラリと見ると、気付いたらしく、ん? と首を傾げている。
冷蔵庫の前には、高垣上総が母から渡された飲み物を持ってこちらに来るところだ。
まて、あんた達ここは自宅じゃないからね?
兄はシャワー中。暑くてたまらないのと、私に臭いって言われたら死ぬって言ってシャワーに走っていった。
高校に入学してゲームが始まり兄の周りは目まぐるしく変わってきた。
私も環境が変わるとは思っていたが、思いの外心地好い変化である。それは素直に嬉しい。女子の友達少ないけど。攻略対象うるさいけど。
乙女ゲームのヒロインな兄と悪役男子生徒な高垣兄弟が仲良くなり、私に構い倒す。
溺愛が増えた。高垣彰は堂々と監視すると言ってきた。ストーカーかな?
高垣兄弟はお互いが兄弟愛だと言って堂々とイチャイチャしている。お互いが好きすぎる。
そんな高垣兄弟、私を妹のように好きと言った。つまり、だ。
「紫ちゃん、大好き」
「紫…………すき」
「………………うん、なんとなくそうかなって思った」
両端をおさえた高垣兄弟は私にくっついて熱烈に好き好き言ってくる。
多分だが、高垣兄弟の自宅ではこうなんじゃないだろうか。お互い好きすぎるだろう。
そして、妹として兄妹に含めた私も大好き……と。うん。意味わからん。
だが、兄と同じく蕩けるような笑顔を見せる2人に、この人種はこういうものだと深く頷いた。
考えたら負けだ。
「あ……ちょっと紫をふたりじめしないで? 」
「ふたりじめって……」
「碧君、早く来て? どこ座ろうか」
「僕隣から動かない」
「彰はわがままさんかな? かーわい」
「知ってる」
「えぇ、知ってるって言っちゃった……」
「ふふ……高垣兄弟は面白いよね。なにより紫を好きだから安心」
「……………………どんな安心」
上機嫌の兄は、ぽんぽんと私の頭を撫でてから私を持ち上げてその場に座り、足の間に座らせた。
「これならいいよね? 」
「………………まあ。肩ダメになったから手繋ご」
「末っ子可愛すぎっ!」
「……………………うん、弟も可愛いかも」
「え、世の中の兄ってみんなこんなんだっけ?世界滅亡しそう、腐海にいつかのまれるよ」
「「うん、ちょっとよくわからないけど可愛いから全て許されるよね」」
「……………………兄って生き物は」
他の兄弟の愛も果てしなく深く甘くドロドロしてる事を知りました。見る専でお願いします。




