私の兄が主人公
短いお話となります。
特殊設定の特殊性癖なお話なので、嫌な方はすぐさまバックお願いいたします。
唐突な話だけれど、生まれ変わりを信じますか?
私はそんなこと信じない現実主義者でした。
夢は見ます。楽しいお話やファンタジーなんかは大好物で、映画も好き。小説やゲームも好き。
生まれ変わったり、幸せな事や刺激的な事が待ち受ける人生はなんて素敵だろう。
神子様や、お姫様、聖女。
冒険者? 王様? 魔法使いに賢者も素敵。
そんな物語やゲームにどっぷり浸かった私は今日も夢を抱えながら大学に向かった。
そんな私の人生が、無意味な程唐突に刈り取られた。
ぶつかる衝撃に強い痛み、流れる血液に騒がしい周り。
次第に音が聞こえなくなっていって、そして世界は暗転した。
さよなら私、そしてはじめまして新しい私。
「ちょっ……いい加減に……っ! 俺に触るな!! 」
「お前は俺のものになるんだ、いい加減覚悟決めろって」
今登校中の私の目の前で繰り広げられているのは私のひとつ上の兄が壁に追い詰められ迫られている場面だ。モブに追い詰められている兄。
そんな現場を妹の私が黙って見つめる。
ちなみにここ、人通りがある外だから。
「離し……紫?! 」
「あ…………ごめん、邪魔するつもりはなくて……」
「何言ってるの!! 紫、変な所を見せてごめん! 離ろって!! 」
嫌そうに顔を歪ませて抑え込まれていた兄の碧は、一瞬モブ男の力が抜けた時にグイッ……と押して離れ私の所に走って来る。
いや、いいよ。やめて、めっちゃ睨まれてる怖い。
「紫、体調は大丈夫なの? 今日休む筈じゃなかった? 」
「熱下がってるし大丈夫」
「そう……? 無理したら駄目だよ。紫が登校するなら待てばよかったね。一緒に行きたかったなぁ」
首を横に振って否定する私を困った子だなぁ……と笑う優しい兄。
今まさに襲われていた兄は落ち着いた笑みを浮かべて私の頭を撫でている。
彼は秋堂 碧。私の血の繋がった兄である。
そして、大事な大事な主人公様だ。
「心配させないでね」
ふわんと優しく笑う兄、碧に頷く。
兄はシスコンを拗らせている。大切な可愛い妹を好きだと愛でている。
それはもう、両親の前だろうが友達の前だろうが遠慮なくだ。
小さな頃から両親よりも甘く私の隣にいた兄は私をギュッと抱き締めると、先程兄に迫っていた男子はギリィ……と紫を睨みつけていた。
兄を好きな人から見たら、私は敵なのだろう。
この世界はゲームの世界。
それもBLを題材にするBL至上主義な世界のゲームである。
その主人公が私の兄である碧。
そして、妹の私もゲームの重要人物として配置されている。
勿論やった。やったとも。
全年齢対象のゲームではあるが、別売りに濃厚なR指定も出ている。
高校生だった私はよだれを垂らす勢いでやったとも。勿論R指定を。
買ってきてくれたお兄ちゃん、感謝してるよ、ありがとう。
BLR指定を泣きそうな顔でカウンターに置いた姿は今でも覚えてる。
哀れなまでに助けてくれと遠くにいる私を見ながら会計をする兄。
大丈夫だ、普通だ。たとえ若い女性の店員が一瞬ニヤァ……と笑ったとしても。
…………うん、腐女子仲間だな。
そんな腐女子の沼に片足所か頭までズブズブだった私の前世には優しい兄がいた。
私はつくづく兄に恵まれているのだろう、今生ではまさかの優しさの塊なシスコン主人公だ。
だがしかし、だがしかしだ。
この兄は単品では優しい。限りなく私に優しい。
だが、駄目なのだ。
このゲームが人気になったのは、従来の乙女ゲームの進め方とは違う設定と妹、つまり私の存在。
素晴らしいエンディング…………(意味深)とは真逆のR指定のバッドエンディングでは、病んでいる碧のスチルの綺麗さと振り切れた妹愛に、歪んだ感性を持つゲーマーが爆発的に増えた。
その1人でもある私は否定などしないが、その当事者になるのは問題外なのだ。
そう、兄は妹に、大切な妹以上の感情を無意識に抱いている。
彼は気付いていない。妹を愛おしむあまり、バッドエンディングはまさかの妹、つまり私を監禁する。
ゲーム内の主要メンバーではなく妹を。
限りなく尽きない愛を持って、兄は妹を独り占めするのだ。
無意識……無意識なんだろうか。ここら辺は考察班がかなり活動していたな。
そう、この世界はかなり激しい鬱展開があるゲームなのだ。
……無理無理、ゲームの中の世界だから!
見る専門、触るな危険!! ノータッチの精神でお願いします!!
そんなこの世界のゲームが開始するのは、大好きな妹、私が高校入学から始まる。
つまり、既にゲームは始まっているのだ。
「紫? どうしたの? 」
「なんでもない」
「そう? ふふ、可愛い」
頬に軽く口付ける兄。
お願い、ノータッチでお願い。刺されなくない。
麗しい兄の振り切れた妹愛はわかってるから、せめて家でお願いします。
過剰なスキンシップは生まれた時からだから流石に慣れました。
今更抵抗しません。でもお願い、外ではノータッチで。頼みます。