兄の進む道
「君がノアオ君で合ってるかな?」
いつも通り魔獣狩りを終えてきたノアオに見知らぬ青年が声をかける。
「あんた一体何者だ?」
ノアオはその青年を怪しみながら返答する。
その青年曰くこの国で優秀な戦士を育てるための教育機関であるストライプ騎士学院へスカウトする若者を探しに来たらしい。
この村の噂がそんな遠くにまで及んでいるとは意外だったがノアオはあまり興味を示す様子はなかった。
「この村で過ごすには充分だし、そんなところに通う金もねえんだ。わざわざ遠いところから来てもらって悪いけどお断りさせてもらうよ。」
実際、トリノの家は普通に生活するには問題ないが贅沢できるほどの裕福な家計ではなかった。
そのためノアオは両親に育ててもらった恩を返すべく一生をこの村で過ごそうと決めていたのだ。
「いきなり断られるとは意外だったね、基本的にはみんな大喜びする人ばかりなんだけど。」
困ったようにその青年は頭をかいた。
「そういえば名乗り忘れてたね、僕の名前はヒューバートだ。よろしくと言っても断られているのだけれど。
そのうえで1つお願いがあるのだけれど君の実力を試させてくれないかな?」
名乗りながらもやるべきことはやらないとといった面持ちで勝負を持ちかけてきた。
「おもしれえ、うちの親父はそれなりに強いけどあんたはそれ以上に強そうだもんな。是非頼むぜ。」
お互いに木剣を持ち距離を取り、トリノの開始の合図を待つ。
「始め!」
合図と同時に飛び込んできたのはヒューバートの方だった。
こういうのは相手の力量を測るために最初は様子見をするだろうと高を括っていたノアオは油断していた。
動きが固まっているノアオ相手にヒューバートは右上から木剣を振り下ろす。
ヒューバートとしても断られた以上出来ることは圧倒的力量で勝って騎士学院の入学レベルには達していないと判断することだった。
そう判断しようと思ってこれで終わったと思っていた。
次の瞬間手に持っていたはずの木剣は宙を描き自分は倒されうつ伏せに倒れている背中にノアオの木剣が押し付けられていた。
宙を描いた木剣はノアオの手元に収まり何も出来ないまま敗北した。
(あの瞬間終わったと思ったのに剣が弾かれた瞬間気がついたら倒されていた)
「ヒューバートさんだっけ?まさかいきなり来ると思ってなかったから少しビビったぜ。身体能力は親父よりは強いけど剣技は親父の方が上だね。」
そう言って一瞬で勝負を決めたノアオは何も無かったかのように家に帰っていった。
「お兄さん大丈夫ですか?ノアオ兄さんはあんまり手加減とか得意じゃないので怪我してなければいいですけど」
黒髪、黒目の少年が倒れている私に手を差し出しながら声をかけてくれた。
「僕はクロノです。ノアオの弟なんですけど、お兄さんのレベルだと100回やってもノアオ兄さんには勝てないので気にすることないですよ。」
屈託のない笑顔で残酷な事を告げてくるこの少年はノアオ君の弟のクロノ君らしい。
「弟さんなら頼みがあるのだけれど。」
そう言いながらヒューバートは当初の目的であるノアオの騎士学院への推薦に付いて何かいい方法はないか聞いてみた。
一度は断られたがあの実力なら騎士学院でもそのうちトップレベルになれるだろう、ならばここで連れて帰らねば私の来た意味はないと熱く語る。
「うーん、そこまで兄さんに惚れ込んでいるなら方法もないこともないでしょうけど、まずは問題点を解決していきますか」
笑顔でクロノ君は解決策を見つけ出そうと協力してくれることとなった。