たった一つの質問
「そう固くならずに席に着いてください。私はこの学園の長を勤めます、トリスタン・タリオと言う者です。よろしく。」
威厳のあるお爺さんはノアオ相手に丁寧に挨拶を行う。
「はい、ありがとうございます。俺はノアオって言います。」
不器用ながらも椅子に座り自己紹介をノアオは返す。
その後カルナは学園長のそばに座る。
「今までの試験はある程度見させて貰っていました。その上で私からの質問はただ1つ、毎年同じ事を皆さんに聞いているのですが、君がこの学園に入学したとして何か目標はありますか?」
しっかりとノアオの目を見つめトリスタンは質問をする。
「目標…すか…。多分2人には何を言ってんだって思われるかもしれないっすけど俺の目標はただ1つっすね。それは弟に勝つことです。」
真剣な眼差しを返しながらノアオは質問に答えた。
「クロノ君は君と一緒に来て見学していたあの子のことですよね?」
不思議な顔をしながらカルナが質問する。
「そうっすね。ヒューバートさんには試験を受けに来る前に話してたんっすけどクロノは想像もつかないくらい強いんすよ。まだ9歳なんて幼いながらもあの強さは訳わかんないっす。」
何もおかしなことは言ってなく真剣な態度で答える。
「ほうほう、なかなか珍しい目標ですね。
大抵の方は十騎士になりたいとか冒険者のSランクになりたいとかが多いのですが弟に勝ちたいですか、とても面白いですね。」
真剣に語るノアオに対して優しく答えてくれるトリスタンだった。
「十騎士とかSランクとかそういうのに興味が無いと言えば嘘にはなるんすけど、そんな小さな目標は目指しても仕方ないかなと思ってて、やっぱり目標は高く持つべきだと思ってるんすよね。」
グッと拳を前に突き出し真剣に答えるノアオ。
その答えにトリスタンとカルナは大層驚いた。
「そうですか、わかりました。問題はないでしょうこの場できみは合格です。ようこそストライプ騎士学園へ。学園は君を優秀生として歓迎致します。よろしくお願いしますね。」
そう言ってトリスタンはノアオに合格を告げ、詳しいことはまたヒューバートから連絡するようにすると言い、面談室からの退出を案内した。
ノアオが出ていった後の面談室でトリスタンとカルナが言葉を交わす。
「ふぅ、十騎士とSランクが小さな目標とは…彼は物知らずという訳ではないだろうに、それでもクロノ君を超えることの方がよっぽどレベルの高い話だという風に言っていたね…」
「傍で直接見たんですけどとてもそんな風には見えませんでした。普通の少年という感じでしたね。」
「もし彼の言う通りなのだとしたらあの兄弟はどんな未来を見せてくれるんだろうね。老いぼれには楽しみだよ。」
若い世代の未来を夢見ながらトリスタンは学園長室へと戻って行った。
ノアオが皆の所へ戻った時にはキールがランドとナイア相手の2対1に勝ち面談のために待っていた。
「これで僕も面談に受かれば優秀生だよ。同じ学園に通えると信じて改めてよろしくね。ノアオ君。」
ノアオに声をかけて面談室へとキールは向かっていった。
「さてランド君とナイア君は残念ながら優秀生試験は不合格だけど来週に一般試験があるから良かったら受けに来てね。そして合格おめでとうノアオ君。君がこの学園に来てくれるのを僕は全力で歓迎するよ。それではキール君はまだ試験中だけど問題なければここで解散とします。」
ヒューバートは3人に試験終了の声をかける。
その後ノアオと見学席にいたクロノを連れてアルスターとエリッツに挨拶をしヒューバートは2人を宿屋へ案内する。
「それじゃあノアオ君も合格したことだし、明日は約束通りクロノ君のために魔法学院を案内するね。」
宿屋へついて2人と別れる前にヒューバートが告げる。
その言葉に1人驚きを隠せないクロノだった。




