一閃
「全く、君は一体なんなんだか?」
いつの間にか攻撃を抑えられるようになった目の前の相手に対してどうしていいやらといった表情でエリッツが間合いを取る。
「俺は俺ですよ。」
そんな答えにもならない回答を行い今度はノアオが攻めていく。
相手の動きからカウンター狙いなのはわかっているので幾重にもフェイントをかけて隙を狙うが全く隙がなくこのまま打ち込んでいけばカウンターでやられる感覚を肌で感じたノアオは攻めあぐねていた。
なるべく隙のない攻撃を行うがその一瞬の隙さえもエリッツには攻撃チャンスとなり受けに回っていた時と違い確実にダメージを与えられていく。
(これが騎士学院の中で強い人か、最高だな)
ダメージを蓄積しながらもこの戦いを楽しむノアオは一旦距離を置いて両手で持っていた剣を利き手の右手片方に持ち替え何かを狙うかのように構える。
エリッツはノアオから受けた隙の少ない攻撃によるカスったダメージを気にしながらも空気の変わったノアオの雰囲気に確実に倒すダメージを与えるため次の一撃で終わらせるべくカウンターの構えを取る。
お互いに構えて10秒ほどたった瞬間、2人の勝負を真剣に見ていたアルスターの息を飲む音を合図にノアオが右側を狙うべく全力全速で飛び込んで右手攻撃を行う。
その全力の速さに一瞬気圧されるエリッツだったが冷静にカウンターを狙うべく相手の攻撃を受け流す体制を取る。
エリッツとしては先程のキールとの勝負を見ているため木剣を折るほどの一撃がまた飛んで来るのではと予測したため受け切るのではなく、剣で頭の上を超えるように受け流し相手の飛び込んでくる勢いを利用し相手の胴を一撃で粉砕するカウンターをする予定だった。
しかしそのカウンターが決まることはなかった。
ノアオは右手で持った剣がエリッツの木剣に触れる直前に背中の後ろを通しその勢いを殺さないまま左手に持ち替え隙だらけのエリッツの右腕を破壊する一撃を叩き込んだ。
エリッツはその攻撃に反応することができず右手が折れる音がすると共に吹き飛ばされていた。
何とか倒れることはなかったがそのダメージから膝をつかずにはいられなかった。
「ふぅー、ほんとに強くて焦ったぜ、でも勝負ありっすよね?」
自分の受けたダメージを気にしながら大きく息を吐いてノアオが尋ねる。
「そうだね、さすがに利き手が折れた状態ではこれ以上戦えないね。」
痛みを感じながらもまだ幼い少年相手に敗北した現状をはっきり受け止めるエリッツ。
「勝負あり、勝者ノアオ!」
先程の宣言と同様にハッキリとカルナが勝者の名を告げた。
「まさか一閃の第2撃を使うことになるとは思いわなかったっす。一応今のは双背撃って技っすね。」
勝負のあとの握手をしようと左手を出しながらノアオがエリッツに声をかける。
「技に名前があるんだね、聞いたことない技だけど誰かに教わったのかい?」
ノアオの左手を受け取りしっかり握手を返すエリッツ。
「いえ、あれは弟と考えた我流の技っす。ちなみにキールさんに放ったのが一閃の第1撃 剛進撃って技で名前の通り勢いと力で破壊する一撃っす。」
技の説明をしながら握手を離し最高に楽しかったと言わんばかりの笑顔を見せる。
「君って子は本当になんなんだろうね?」
その強さにやっぱりわけが分からないといった感じを見せながらノアオの笑顔を見て晴れやかな気持ちになったエリッツだった。