実技試験
「まるで私が負けるかのような言われようですね。」
「いえ、そうと決まった訳では無いんですけど…」
強く詰めてくるキールに対して、焦って言い訳をするヒューバート。
周りの人達も何を言っているんだという目でヒューバートを見ている。
それもそうだ、圧倒的実力で全部のテストにトップでクリアしたキールがまだまだ幼い少年であるノアオに負けるなどと誰も想像できないのだから。
「何を騒いでるんだろうね?」
遠くから眺めるエリッツは様子のおかしい試験待ちの状況に不安そうな顔をして見学していた。
「恐らく兄さんかヒューバートさんあたりが余計なことを言ったんだと思います。そういう風に見えませんかね?後ろのお兄さんは」
そう前を向きながら後ろにいつの間にか後ろに座っていた男性に声をかけた。
「気づかれるなんてなかなかやるね君は、エリッツは気づいてないみたいだったけど。」
座っている姿なのに優雅な立ち振る舞いが見えるその男性はこの場にいるのが似合わなく、まるでティータイムを楽しんでいるのが本分のような男性は余裕の回答をする。
「アルスターさん、いつの間に。いつも声をかけてくださいと言っているじゃないですか。」
「いつ見てもエリッツ君の反応が面白くてついね。」
気心が知れた仲なのかごく自然な感じで2人は会話している。
「それにしてもキール君はやはり優秀なようだね、ほっておいても合格するんじゃないのかな?後は気になるのはあの小さい子だけどなんだか不思議な感じがするね。直接剣を交えないと実力を測れなさそうだね。」
見ているだけでは実力を測りかねているようで不思議な様子でアルスターは試験の様子を眺めている。
「そうですね、兄さんの実力は実際に戦わないと分からないと思います。」
次の試験が始まりそうな様子を眺めながらしっかりとクロノは答えた。
「何を騒いでいるか分かりませんが次の試験に移りますよ。次は実技試験です。今までの試験の成績を鑑みて候補生同士で戦って頂きます。まずはキール君対ノアオ君です。」
裏から戻ってきたカルナが皆に聞こえるように告げる。
「キールさんが怒るのも無理ねえよな、こんな小僧に負けるって言われてんだからさ。でも頭に血が上ってもいい勝負はできないからさ、少し落ち着いてやろう。」
木剣を振りウォーミングアップをしながら先程までと打って変わってやる気に溢れたノアオがいた。
「そうだね、実際にスカウトする人がそういうくらい君は強いと言うことだね。侮ってかかると痛い目を見そうだ。よろしく頼むよ。」
冷静さを取り戻してキールもウォーミングアップを始める。
「ルールとしてはどちらかが参ったというか、私の判断で試合を止めることで勝敗を決めます。2人とも準備はいいですね?」
カルナが2人に交互に確認を取りながら合図の準備を行う。
「それでは、開始!」
その声と共に素早く間合いを詰めたのはノアオだった。
キールとしては想定よりも早い動きではあったが対処出来ない程では無いと思い、冷静に相手の攻撃を受けきって一撃を決める。
そのつもりで斜め左から胴を切り上げられるその一撃を受けようと木剣を構えたところで記憶が一瞬飛んでしまった。
次に意識が戻ったのは破壊された木剣と共に吹き飛ばされた自分の体が仰向けに倒れているのを理解した瞬間だった。