奇貨おくべし②
宜しくお願いします。以前書いていた話ですが、前の作者ページにログイン出来なくなってしまったので、推敲しながら再投稿。話が変わった部分もあります。
宜しくお願いします。
リリックは至正殿を目指した。帝が政務をなす所であり、5年前にナハトラに同行し帝に謁見した場所でもある。
向かう先に倒れ伏した人が方々にいる。ヒックス或いはライリーであろうか。
至正殿の扉は開け放たれていた。中には既に茶色の鎧がひしめいている。ヒックスの軍だ。
「オリバー、突っ切れ!」
リリックの声にオリバーが速度を上げて突っ込んでいく。ヒックスが帝を弑す事は止めねばならない。
オリバーの背を追いかけるようにして前に出た。見れば、御簾の前にヒックスが立っており、御簾越しに椅子に座った人影が見える。
間に合ったと安堵する一方で、濃密な血の臭いに戸惑う。周囲を確認すると、そこかしこに首の無い死体。
君側の奸を取り除く事が目的ではあるが、非を認めさせ、断罪することが必要なのだ。早まったなとヒックスに目を向ける。
「リリック、ここに来る前にも多くの死体を見たな。あれもここも俺ではない」
嘘はない、そう感じた。であれば、、御簾の向こうに目が向かう。
「上げよ」
その声に、御簾がゆっくりと上がり始めた。
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リュカはシカを見失った。自身の道を行けと言われても何もないのだ。領主の子弟であるライカやハイロとは違う。しかし、ライカやハイロに同じ事を告げた時もシカは頑なであった。例え、今からシカを見つけても同行が許される事はないと思う。
身寄りのないリュカにとっては、シカと共にある事が自分の道であった。今のリュカに思いつく先は、兄弟子であるライカかハイロを頼ることしか思いつかない。
何処に行くにしてもこの格好では駄目だ。血が飛んだ胸当てを外す。また大きくなった気がする。自分が女でなかったら、シカは一緒にいてくれたのかもしれない。
胸当てと一緒に剣を置いて行こうかと思ったが、剣を手放すことは出来なかった。
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「脱出するんですかい? 待って下さい。俺も良さそうなのを身につけますから」
カリードが死んだ兵士から剥ぎ取ったボロボロの兜と胸当てを身につけると、ヒースはどこで拾ったのか煌びやかな鎧を出してきた。
「お前はそのままで良いぞ」
日頃から粗末な格好であるヒースは、そのままの方が敵に紛れるだろう。ヒースは折角、拾ったのに等とブツブツ言っている。
「脱出はしない。見たいものがあるだけだ。その鎧が大切なら地下に入れておけ」
ヒースの商家は小さく、看板すらつけていない。加えて、何もないことを示すように戸を開けたままにしている。それでも略奪をする為に来るやつはいるはずだ。
紛れるために小走りで目的地に向かう。帝都内に兵は大勢いるが、いずれもが血眼に金目のものや女を漁っている。
一際大きな建物が見えた。帝都一番の商家、いや商家だった所だ。煌びやかな看板や飾り付けられた扉は既に破壊され、以前の威容はみる影もない。内部からは音がするからまだ漁っている者もいるだろう。
「いい気味って思ってます?」
茶化すようなヒースの言葉。この商家を中心とした商人の連合が新参者が帝都に来ることを拒むため、カリードは多くの苦労をした。金銭もばら撒いた。損とわかっている商いもした。
「溜飲は下がる。ただ、それ以上に怒りがある」
「旦那の手でやれなかったからですかい?」
「いや、日々の努力がこんな事で潰される。その理不尽さへの怒りだ」
「大きくなるチャンスですぜ」
「そうだな。そうだがな」
カリードが横を見れば看板が打ち捨てられている。看板は縁取りや文字の金箔が剥がされていた。
この商家は他の都市にも支店がある。主人であるヒャクライも帝都が落ちる前に脱出しているに違わず、この看板を支店に届けるだけでも、感謝され多額の礼金がでるはずだ。そんな事もわからない連中であるが、それがこうやって大店さえも呑み込む。
「帰るぞ」
カリードはヒースに声をかけた。ヒースは商家の中をじっと見ている。
「旦那の商家には地下があります。この商家も何か隠してるんじゃないですかね」
「サイファがお前を俺につけた意味がわかったよ。ヒース、お前は良いな、そのまま思ったことをいつでも俺に言え。ただし家探しは後だ」
「中にいる奴らくらいは余裕ですがね。旦那が言うなら後のお楽しみにしときます」
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