魔都
宜しくお願いします。以前書いていた話ですが、前の作者ページにログイン出来なくなってしまったので、推敲しながら再投稿。話が変わった部分もあります。
宜しくお願いします。
馬鹿な事なった。全てを賭けたライコネンとドワンとの戦いに勝つと、戦が終わったかの様な騒ぎになった。まだ帝都は落ちていないのにだ。父であるナハトラが健在であればこんな事にはならなかったはずだ。ナハトラの次男であるリリックは長男であるヒックスと三男のライリーに帝都に降伏勧告を出すべきだと言ったが2人に取り入れられなかった。
ナハトラは存命であるが、意識を失う前の言葉が更に混乱を呼び込んだ。「跡を継ぐ者が帝都を落とす」リリックは本当にそんな言葉がナハトラから発せられたかと疑いを持っているが、その場にいたヒックスとライリーが聞いたと言うならば抗う事は出来ない。
確かにナハトラは後継を定めていなかったが、普通であれば長男のヒックスが後継なのだ。ライリーはともかく、ヒックスがそう聞いたという事はなんの得にもならない。
勝ちすぎたのかもしれない。勝てるという慢心が軍のタガを外し、後継争いがそれを助長している。ナハトラという重石のないこの軍は思わぬ一撃を喰らう要素に満ち満ちている。
もう夜だというのに帝都から明かりが消える事はない。ナハトラは帝都を魔都と呼んでいた。魔都に迫った自分達は何か大きな幻術にかかっているのだ。
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帝都から出てきた部隊に翻弄されている。敵部隊は後から加わった増援の軍ばかりを叩き、リリックが救援に迎えば引く。ナハトラ軍がヒックス達と連携分散出来れば、全軍をカバー出来るが、ヒックスやライリーは帝都への攻撃を優先するあまり敵の部隊を見ていない。加えて増援軍には流言が蔓延しており、積極的に戦うものさえいなくなってしまった。
戦意が旺盛なのはヒックスとライリーであるが、帝都を囲む外壁に取り付いたり、城門への突撃を単発的に繰り返すばかりで、防御側は集中して守れている。あの高い外壁や分厚い城門を破るには、軍が連動しなければ無理だ。
「なんて無様な戦いだ。これでは負けもあり得る。地図だ!地図を持って来い」
幾度目かの救援が無駄に終わると、リリックは地図を見た。既に何度も見たし、詳細に思い浮かべる事さえ出来る。巨大な帝都を囲む外壁に加えて、城を囲む内壁まであるのだ。時間をかければ更におかしな事がが起きるという気がしてならない。
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「ここまでは上手く行ってるが、問題はこの先だな。カイはどこまでやるつもりだ」
「ガルーダ、これは出来過ぎだ。反乱軍で何かが起こっている。面倒をかけるがナハトラの軍から捕虜を取れるか?」
「リリックの軍とは当たりたくないが、長男か三男だな、あの馬鹿2人の軍であればいくらでも取れる」
「それを聞いてから今後を決める。敵には不都合な何かがある」
そのカイの言葉を聞いてガルーダは笑った。
「何を笑う」
「いや、カイが冷静で良かったよ。上手くいき過ぎている、その通りだ。これに浮かれて、勝つとか言い出したら、一発殴る必要があると思ってたからな」
「ガルーダ、昔とは違う。私は成長している」
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「跡目争いだな。連動のない動きにも説明がつく。次男のリリックには同情するがね。無欲な男には強欲な男達の嫉妬が見えていない」
「であればやる事はひとつだな」
「リリックを狩るってか」
「いや、当社の予定通り帝都を放棄するぞ」
「カイが決められる事じゃないだろ」
「俺に決定権などなくても、攻め込まれたらそうするしかなくなる。決定権のあるお偉方の選択肢を減らすのだ」
「まあ民のほとんどが逃げられたんだ、思った以上の仕事は出来た。で、次の布石を打つんだろ?」
「打つさ、ここから大樹を再生するんだ。腐った部分は一掃しないとな」
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リリックは敵部隊は放置、増援軍は囮と思い定めた。それよりもヒックスとライリーの単発的な攻めを自分が繋いで帝都を落とす。
ヒックスの隊が東の城壁に取りつけば、東の城壁上に敵部隊が集中して物を落とすなど抵抗をする。その隙にとライリーが城門を狙えばヒックスは引いてしまう。そのまま両方が攻めればどちらかが抜く可能性もあるのに、双方が自分こそがという思いに囚われすぎている。
リリックの部隊が西側の城壁に取り付く。敵は城壁の上から木や油を落とし火矢を放ってきたが、味方の部隊には防御を優先させ無理に城壁を登らせない。
そのうちヒックスとライリーのどちらかが攻撃を開始する。それまでは消耗はしたくない。力を振り絞るのは3隊が揃った時だ。
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シカが剣を横薙ぎに振るい、切り掛かってきた敵を倒した。
「先生、アレが来なくなりましたね」
リュカの言うアレとはリリックの騎馬隊だ。統率の取れた動きは精強さを現している。あの騎馬隊とまともにぶつかる事は出来ない。
「次の局面かな。帝都に攻撃を集中し始めるぞ」
「始めからそうすれば良いのに」
「今後を見据えれば、増援軍の支持は不可欠なのさ。だからリリックは増援軍のカバーに追われた。しかし、それは都を制圧しさえすればどうとでもなる。名声、いや人としての優しさに囚われ過ぎているな。巨木は倒し方よりも先ず倒す。それくらいの思い切りがある方が上手くものさ」
「先生、そう言う事は偉くなって言わないと意味がないってハイロの代わりに言っておきます」
「そうだね。ハイロがいたら言われるな。参ったな、偉くはなれそうにもないからね」
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ヒックスが東の城壁に、ライリーが城門に取り付いた。リリックが離れない為に、ヒックスもライリーもリリックに先を越されてはならないと力を振り絞り出している。
「やれ」
リリックの声に壁に取り付いた部隊が一斉に動き出した。それまでは上からの攻撃から身を守る事を優先していたが、今はがむしゃらに登り出している。
城壁の上の敵は、東側の壁や城門に分かれて数が減っているのだ、高い壁ではあるが力押しでいける。
「オリバー」
リリックの声に、一際大きな男が応え、雄叫びを上げながら壁を登って行く。本来は親衛隊として騎馬隊を率いるオリバーであるが、地に足をつけてもその強さはリリック軍の中で群を抜いている。恐れを知らないその突撃は周囲に伝播し、遂に壁を登りきった。
登りきった部隊が鬱憤を晴らす様に暴れ回る。壁上の部隊から次々と縄が下されるとリリックも登った。
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