滅亡の序曲
宜しくお願いします。以前書いていた話ですが、前の作者ページにログイン出来なくなってしまったので、推敲しながら再投稿。話が変わった部分もあります。
宜しくお願いします。
軍勢の姿が目視出来た。各々が違う粗末な装備に身を包んだ姿は、以前であれば蛮族と鼻で笑われたであろう。その蛮族達が次々と討伐軍を破り膨れ上がった今、誰も笑う事が出来なくなった。
3ヶ月前に辺境から起こった反乱軍は、いつものように討伐軍に蹴散らされると誰もが思っていた。
最初の討伐軍が破れた時は、今回はやるじゃないか等と他人事に思っていた都の人々だが、3回目の討伐軍であった「破剣」ライコネン軍が破れ、「ダナンの盾」と言われたドワンが守る砦が抜かれると恐慌に陥った。
「周囲に重税を貸して自分達は贅沢三昧。帝都以外が反乱軍を支援している事にも気がつかない。帝への敬意なんて、本音では自分達ですら持っていないくせに」
「カイの言う事を聞いてると、お前が反乱軍の首魁に思えるよ」
「私がそうなら、既に帝都は更地になっている」
「だが帝都を護るんだろう?」
「この国は腐っている。それでも300年続いた事で根を張った秩序というものがあるのだ。帝が討たれ、騒乱の時代がきて、英雄が平定する。そんな事を繰り返して何になる。また多くの命が失われる事になる。そしていつかはこの国自体がより大きな国の属国に成り下がるしかなくなるのだ」
「その秩序が気に食わなかったんだろ? 国の為にお前らは耐えろと言われてもな」
「それは政治の問題だ。国と政事は分離して考えるべきだ」
「学のない俺には国をぶっ潰せと同じに聞こえるがね」
「そう聞こえたとしても、ガルーダはともに戦ってくれるんだろう?」
「まあ、俺は馬鹿だし、カイのダチだからな。だが先ずはこの戦だ。罪人の寄せ集めだから、下手すれば反乱軍に吸収されて終わりだぞ」
「反乱軍に罪人軍、どちらが勝っても良い事は無さそうだが、互いに消耗するのは良い事だろ?」
「はなから勝つ事は考えてないってか」
「勝つ事は考えた、考えた結果、勝てないだけだ。しかし、勝てなくても良いって思えれば。やりようはある」
大陸歴239年、「辺境王」と言われたナハトラの反乱軍は帝都まで迫っていた。核となるナハトラの軍が精強であった事に加えて、圧政に耐えかねた周辺の街が支援をした事で、糧食に困らなかったナハトラの軍は、帝都から派遣される討伐軍を破る毎に肥大化し、帝都の剣と盾たる2人の将を破ると、帝都が見える位置に軍を展開した。
迎え撃つは、それまで碌に戦闘経験のないカイという武官と罪人の軍。勝利を期待されているわけではない、帝都の住民が逃げ延びる時間を稼ぐ事が主目的とされていた。
カイの軍は反乱軍の中でも、後から増えた増援軍ばかりを攻撃した。核となるナハトラ軍とはまともに戦わない。それが反乱軍に疑心暗鬼をもたらした。
もう帝都が見えているのだ。最初は必死だった増援軍は戦後の利を見て行動しているのに、自分達ばかりがやられる。ナハトラは気前良く戦勝後の待遇を約束し軍を大きくしたが、ここまで来て死ねば後から加わった者達には何も得るものは無い。
「ナハトラ軍は何故、前に出ないのだ!我々ばかりを戦わせて消耗を強いるのは、約束を反故にする為に力を削いでいるに違いない」
その流言があっという間に反乱軍に拡がると、反乱軍の不協和音は目に見える形で現れた。
元からのナハトラ軍にも動けない理由があった。それは高齢のナハトラの体調が良くない事で、ナハトラの3人の息子達が帝都の一番乗りこそ後継の証と互いに牽制しあっている為だ。
ーーーーーー
罪人の軍というが、殺人などを起こした凶悪犯はほとんどいない。その様な者達は直ぐに処刑される事が多く、ここにいる大半は窃盗や詐欺などの罪をおった者達や、それ以外には高官に逆らったり、政事を批判した者達が多い。密告が奨励された事もあつて人数だけは非常に多い。
罪人が集められた刑務房とは違い、軍では十分な食糧が与えられ、生き残った後の特赦が約束されている。離反者を防ぐ為に毎夜の点呼がある他は罪人を縛るものはなく、それどころか敵を殺す毎に賞金が設けられたりしている。
5日目の夜。初日、2日目はかなりの人数が減ったが、3日目からはあまり減らなくなった。シカは焚き火に当たりながら今日の戦いを思い返していた。
「先生、ご飯持ってきました」
リュカがお椀を差し出してきた。シカの私塾に通っていたリュカとライカとハイロ。シカが帝への不敬罪によって捕らえられた時、彼等は官吏に抵抗し一緒に捉えられてしまった。その後ライカとハイロは直ぐに解放されたが、シカとリュカはそのまま投獄となり、挙句にこの軍にまで参加させられている。
「今日も生き残りましたね」
「リュカは私が弱いと思ってるな。リュカもそうだけど、ライカに剣を教えたのも私だぞ」
「先生に何かあったらライカとハイロに怒られます」
「リュカこそ大丈夫でしたか?」
「私は強いですから。でも、それ以上に敵に戦意がありません」
「そうだね。罪人の軍なんて、とんでもない事をするとおもっていたが、この軍の指揮官の狙いは時間稼ぎで、それは果たされつつある。だけどそれ以上の事は出来ない。指揮官がこの戦いの終着点として何を描いているのか、俄然興味が湧いてきました」
「考えすぎてぼーっと敵の前に飛び出さない様に気をつけて下さいね」
ーーーーーーー
帝都の中は大騒ぎだ。避難ならば身一つで逃げれば良いものを、アレもこれもと運ぼうとするから通りは馬車や荷車でいっぱいで、脱輪や衝突が起こり前に進まない。そんな中を着流しだけで悠々と歩いている者達がいる。
「カリードの旦那、何も持って行かないんですかい?」
「持ってるさ。お前さんには見えていないだけだ」
「こんな時に謎かけはやめて下さいよ。やっと帝都に店を構えられたのに」
「だけど何も置いてなかっただろ? こうなる事はわかってたからな」
「わかってたなら、なんでココにいるんですか」
「ここから時代が動くんだ。その場所にいたいって思うだろ」
ーーーーー
この戦いは「始まりの戦い」と呼ばれる事になる。帝都に反乱軍が攻めてきた事で停滞していた時代が動き出した。ここから始まる騒乱の端緒となったから「始まりの戦い」と言う者も多いが、以降に頭角を現す者達が集まったから「始まりの戦い」と呼ぶ者も多い。
読んで頂きありがとうございます。
誤字や脱字、意味不明な文章に説明不足なところなどがあったら、是非教えて下さい!
また、評価を頂けると励みになります。宜しくお願いします。