任務中!手紙のあの人は今!?
今、俺たちはソゼ大公国の通りを歩いている。警備兵二名の後をネルさんを筆頭に連なって歩いている。
周りの獣人の住人の方たちももの珍しそうにこちらをチラチラ見ている。それもそうだろう、この地を人族の人が歩くことは基本的に有り得ないこと。
そればかりか先頭を歩いているネルさんはこのソゼ大公国の王女様って言うから驚いた。交流がないから姫様もゴンヌさんも気づかなかったみたいだし。
てか前にソゼ大公国の王女、後ろにナフィベルタの王女って、知る人がいたらどんな状況だよって話だよな。
ネルさんから王宮への招待を受けたが、先に仕事を済ませたかったので断った。よく考えてみたらその国の王女の招待を断るなんて斬首ものだよな。
そして俺らはソゼ大公国を観光しながら手紙の主を探すことにした。
ソゼ大公国は獣人の国ってだけあって結構グルメらしい。特に肉料理が豊富なんだとか。確かに商店街の方からこんがり焼かれた肉のいい匂いがしてくる。
俺たちは適当に食事を買ってテーブルで食べ始めた。
「そういえばネルさんはどうしてあんなとこにいたんだ?」
「食糧、狩り、調達。」
ソゼ大公国では人材不足もあり、狩りにて食料を調達する人が減少しているそうだ。だからって王女様が護衛も付けずに狩りに行くのもどうかと思うが、
ウチにも脱走を得意とする王女様を雇っているので何も言えない。チラってみると一生懸命肉を噛み切ろうとしていた。
そんな愛くるしい王女様の向う側でジィッとこちらをみている幼き子どもが三人いた。それぞれイタチ、アライグマ、フィレットの獣人のようだが服もボロボロで
ご飯を美味しそうに眺めていた。
「ネルさん、あの子たちは?」
「孤児、裏の、孤児園、住む。」
恐らくソゼ大公国の課題のひとつなのだろう、どうにかしてあげたいけどできない歯がゆさが表情で伝わってくる。
俺は余っていたお肉をお皿に乗せて、席を立ち子どもたちの方へ近寄っていく。一応獣人の姿のおかげか怪しまれず話すことができた。
「やぁ、突然ごめんね、俺たちもう行かないといけないんだけどお肉が余っちゃってね、勿体ないから君たちで食べてくれないか?」
子どもたちは驚いてみている、こういう子たちにあげるって恩を見せると断ってしまうことがある、お願いベースにすることで罪悪感なく食べてくれると思うんだよな。
それでもまだいいの?って聞いてくるから
「食べてもらったら助かる。」
と告げるとあろがとうっていいながら食べ始めた。たくさん食べて大きくなるんだよって思いながらみんなのところに戻ると
ネルさんが微笑みながら頭を下げて
「感謝、する。」
と言われ照れくさくなった俺は手紙の主探しを開始した。後ろで姫様とゴンヌさんがニヤニヤしてたので一喝しておいた。まったく人をからかうもんじゃない、ペンギンだけど。
そしてモレットさんから手紙を渡す相手はクレリアさんというウサギの獣人とのことで早速調査を開始したのだが
街の人に聞いてみたのだがなかなかクレリアさんを知っている人に巡り会えない。思ったよりも難しい調査なのだろうか?
すでに一時間ほど調査し収穫がなかったので内心焦り始めていたころ、背後から服の裾を引っ張られる、
姫様が疲れたのかなと思い振り返ると、そこには先ほどご飯をあげた孤児の子の一人、フィレットちゃんが立っていた。
「あれ?さっきの子だよね?どうしたの?友達とはぐれちゃった?」
さっきまで一緒にいたふたりの子供の姿が見えない。てっきりはぐれたのかと思ったらその子は首をブンブン横に振って
「お兄さんたちウサギさん探してるんでしょ?さっきのお礼に案内してあげる、着いてきて。」
フィレットの子、名前はモナちゃんというらしい。ちなみにアライグマの子がイリア、イタチの子がアーシャということだ、覚えておこう。
モナちゃんよると孤児園のそばにウサギの獣人が住んでいるみたいだ。なるほど、孤児園の傍じゃ街の人たちはピンとこないか。
改めてお礼をしようと俺たちを探していたら、俺たちが人探しをしていたことに気付いて知らせに来てくれたらしい。他の2人はどうしたのか尋ねると
イリアちゃんは洗濯当番で、アーシャちゃんは子守担当で来られなかったみたい、ちなみにモナちゃんは今日はフリーの日だったらしい。
裏通りを歩いていくと、なかなか寂れたような街並みで着いてきたネルさんもこの光景を悔しそうな表情で見つめている。
そして孤児園らしき建物が出てきてその横にこじんまりとした一軒家が建っていた。大きくもないが小さくもないアンティーク感が漂う家だ。
モナちゃんによるとここにウサギの獣人が住んでいるらしい。俺はクレリアさんだといいなと思いドアをノックすると
中から確かにウサギの獣人だが若い子が出てきた、ハズレか?いや、身内の可能性もある、聞いてみよう。
「すみません、こちらにクレリアさんという方はいらっしゃいますか?」
「えぇ、クレリアはわたしの祖母になりますが。」
よし!ここで当たりのようだ!早速クレリアさんに会ってこの手紙を渡さないと…
そう思ったとき、彼女の表情が一瞬曇ったように見えたが、その答えはすぐにわかった。
「でも祖母は…」
対応してくれた彼女が後ろをゆっくり振り返り戸を開けると
「三年前に亡くなってしまってるんです。」
戸の向うには仏壇があり、遺影には優しそうな表情で笑っているウサギの獣人が写っていた。
いつもありがとうございます。
次回は7月3日を予定しております。
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