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引き続きチェス大会

 三戦目の相手はマックス様だった。

 相変わらず風に吹かれて飛ばされそうなくらい、痩せていて、目力もなかった。

 だけど、対局が始まったら人が変わったようになってしまった。目がキラキラしていて眩しい。


 不味いわ。

 表情から何を考えているか、全く読めないし。

 でもあれだけ練習したもの。

 まだ三戦目。ここで負けるわけにはいかない。


「チェックメイトです」

「完敗です」


 やったわ。

 勝った!


「サザリア伯爵令嬢。私に勝ったんです。是非優勝してくださいね」


 悔しそうに、でもちょっと爽やかにマックス様が笑う。

 この人、本当にチェスが好きなのね。


「頑張ります!」


 優勝なんて約束できず、私はそう答える。

 するとマックス様が苦笑したが、納得したようだった。

 対局前は弱々しく見えたけど、なんだか今、ちょっとしっかりしてる気がする。

 全力を尽くしたものね。お互い。悔いはないってこと。

 三年後には、今の彼が筋肉質になるとは思えないけど、前の人生ではそうだった。再び会った時、彼がどんな風に変わっているか楽しみだわ。


 第三戦は時間制限がないので、周りを見るとまだ対局しているテーブルがあった。

 その中にヴァラリーの姿があって驚く。

 ここまで勝ち残ったのね。彼女も特訓したんでしょうね。

 カリーナの姿はないわ。

 ユーゴ殿下もアダン殿下も。

 きっと勝ったんでしょうね。


 今日は第三戦までの予定で、明日の朝から第四戦が始まる。

 とりあえずお父様たちのところへ戻ろう。


 第三戦を終えたものは結果に関係なく、帰路につくものが多かった。体力は使っていなくても気力はほとんどなくて、私もお父様たちに合流したらすぐに帰るつもり。


 あら?


 会場の隣に設置された憩いの場、カリーナとアダン殿下が話し込んでいるのを見て微笑ましくなった。その隣にはユーゴ殿下もいるけど、二人の邪魔をしないようにしているみたい。

 やっぱりお二人はお似合いね。

 カリーナは遠慮して、少し縮こまっているけど。

 二人に見つからないように、と背を向けたのにユーゴ殿下が目ざとく声をかけてきた。


「マノン嬢。君も勝ったんだね!おめでとう」


 どうしてわざわざ声をかけてくるのでしょうか?

 あ!

 そういえば私の役割はアダン殿下の婚約者になることだった。

 私の中で勝手にカリーナを推していたので、ユーゴ殿下の考えをど忘れしてたわ。このことも話してみなきゃ。悪い話じゃないと思うのよね。


「マノン嬢?ああ。君か。おめでとう」


 カリーナも私に気がついたけど、遠慮して私に微笑みを見せるだけにしているみたい。

 それはそうよね。

 本当は消えたかったけど、王族を無視するわけにはいかないので、殿下たちに近づく。


「アダン殿下、ユーゴ殿下、ありがとうございます。お二人もおめでとうございます」


 これで負けていたら不敬ものだけど、お二人が負けるはずはないと勝手に私も祝福を返した。

 ここでカリーナの名をあげるわけにはいかない。

 あとでしっかりお祝いの言葉を言おう。


「ああ、ありがとう」

「ありがとう。マノン嬢。カリーナ嬢も勝ったんだよ」


 ユーゴ様がそう言ってくれて、私は初めてカリーナにお祝いの言葉を言うことができる。


「カリーナ。おめでとう」

「ありがとう。マノン」

「二人は友達なのか?前の茶会では全然話している様子はなかったが」

「あの機会にカリーナと手紙のやりとりを始めて、友達になったのです」


 カリーナは恐縮しっぱなしで答えづらそうだったので、私が答える。ユーゴ殿下は黙ったままで少し不気味だ。

 まあ、二人っきりじゃないから、仲良くも話せないしね。

 仲良く?

 別に私とユーゴ殿下は仲良くはないわね。


「そうなのか。母上も喜ぶな。本来茶会とは縁を結ぶものだからな。そのおかげで今回もチェス大会という面白い催しを開くことにもなったし」

「そうですね。チェスを通して親睦も深めることができますし、相手のことも知ることもできる」

「ユーゴがそう言うとなにか意味深に聞こえるな」

「兄上はいつも僕のことを買い被ってますね。素直に思ったことを言っているだけですよ」

「お前は賢いからな」


 アダン殿下はユーゴ殿下の頭を揶揄うように撫でる。


「子供扱いしないでください」

「子供だろ。お前がそう言ったぞ。昼間」

「そういえばそうでしたね」

「だろ。マノン嬢も覚えているぞ」

「これはアダン殿下、ユーゴ殿下。第三戦、お見事でした」


 アダン殿下が(ふざ)けてそう言った時、部屋の雰囲気がガラリと変わった気がした。現れたのはヴァラリーでなぜかひどく怒っているような雰囲気を漂わせていた。

 まあ、彼女は穏やかとは程遠い気質なのだけど。

 今も、私とカリーナの事は眼中にないみたい。完全無視ね。

 私たちは示し合わせたように、ヴァラリーに道を譲るように下がる。

 カリーナの表情がまた固くなったので、安心させたくて、その手を握った。

 ちょっと驚いた顔をした後、ふわりと微笑まれ、可愛いと思った。この顔をアダン殿下に見せればイチコロね。


「ヴァラリー嬢。君も勝ち進んだようで、おめでとう」

「ありがとうございます。アダン殿下」


 ユーゴ殿下は黙ったまま、わたしたちと同じように様子を窺っている感じだ。


「明日はウェル伯爵令嬢と対局することになりますの。楽しみですわ」

「そうなのか?それは」


 アダン殿下はそこで言葉を止めてしまった。

 えっと、なんて続けるつもりなのかしら。

 大変?頑張れ?

 カリーナが負けるわけないわ。


「それは面白そうですね。兄上」

「そうだな。勝った方が私と戦うことになるな」

「私は殿下との対局を楽しみにしてますの」


 勝つ気ね。ヴァラリー。

 ぎゅっとカリーナの手に力が籠った気がした。

 大丈夫。あなたは負けないわ。

 私はその彼女の手を握り返した。




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