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「マノン・サザリア。嫉妬のあまりユーゴを殺すなんて、何たる事だ。皆の前で裁きを受けるがいい!」


アダン殿下……

あなたの為に、私は罪を犯したのです!

王太子であったユーゴ殿下が死に、あなたが王太子に、そして私を王太子妃にしてくださるのではなかったのですか!


 そう言いたいのに、私の喉は爛れ、口から出るのは呻き声のみ。

 アダン殿下自らが淹れてくださったお茶。

 私にもたらされたのは酷い痛みだった。

 痛みでのたうちまわる私を冷たく見下ろしていたアダン殿下。

 突入してきた兵士は私を引きずるように連れて行った。

 王の面前に連れていかれ、アダン殿下が私を糾弾。

 声を出せない私に釈明の機会が与えられる事はなく、二日後に首を落とされた。


 私。

 マノン・サザリア 十二歳。

 何故か人生が巻き戻ったみたいで、二度目の人生をやり直している。

 十六歳の時に首を落とされたので、戻ったのは四年前。

 アダン殿下に毒入のお茶を飲まされるまで、私は自分の愚かさに気がつかなかった。

 殺されるまでに二日、喉の痛み、牢屋の不潔さ、臭い。

 その中で私は悟った。初めは悔しくてアダン殿下が憎くてたまらなかった。けど、私だってあんなに優しくしてくださった王太子のユーゴ殿下を殺してしまった。

 毒を飲まされたとわかったのに、彼は最後まで優しい目をしていた。

 きっと悔しくて憎くてたまらなかったはずなのに。

 だから、人生が巻き戻った時、決めたの。王族には近づかない。そうすればフラフラとアダン殿下に惚れたりしないはずだし、間違ってユーゴ殿下の婚約者になんてならないし、彼を殺す事もない。

 な、なのに、なんでこんな事になってるの?


「初めまして。マノン嬢」


 薄茶色の髪に琥珀色の瞳の少年が無垢な笑みを浮かべている。

 彼は、現ファリダム国王の第二子。側妃マルゴ様を母に持つ。国王陛下と同じ瞳の色をしているけど、外見はお母様のマルゴ妃によく似ている。

その兄のアダン殿下は、お母様である王妃様にそっくり。王妃様はとても美しい。

アダン殿下とユーゴ殿下のお二人は、瞳の色は陛下と同じだけど、よく似ていない兄弟だった。

 一度目の人生で、ユーゴ殿下とアダン殿下に会ったのは王妃様主催のお茶会。

 お茶会は、十二歳から十五歳までの成人前の令息と令嬢が集められ、所謂未来の側近、婚約者の選定も含まれている。

 今回、二度目の人生。

 出世欲もない父はやる気もないので、私が病気だと言ったら意気揚々と王宮に病欠として届出を出してくれた。母は華やかな場が好きなので残念そうだったけど、私は出るわけにはいかない。

 身分は伯爵令嬢、婚約者としては問題のない身分。

 なので前回はユーゴ殿下になぜか気に入られてしまい、身分の問題もなかったので婚約者に決定してしまった。

この時はユーゴ殿下は、まだアダン殿下に次ぐ王位継承第二位で、身分が伯爵ぐらいが手頃で良かったと思う。アダン殿下のお母様の王妃様が翌年事故で亡くなってしまってから、側妃であったマルゴ様が王妃になって、ユーゴ殿下の婚約者が平凡な伯爵令嬢の私であることが問題になったことがあったのよね。ユーゴ殿下は婚約解消はしないって言っていたけど。

 結果、私がふらふらアダン殿下に惚れてしまって……。

 なんていうか、恋って怖い。

 あの地獄の苦しみで、私の恋心なんて燃え尽きてしまった。


 ああ、一度目の人生なんてもういいの。やり直しているのだから。

 今の問題は、ここ。

 お茶会を欠席して、これでもう王族とのつながりはないと思ったのに。

なぜ、ユーゴ殿下が我が家にいらしているの??


「体調が悪いと聞いてね。お茶会で君に会えるのを楽しみにしていたんだよ」


 ユーゴ殿下はアダン殿下を尊敬していて、側妃の子として身を弁え、控えめな方だった。けれども王妃様がなくなり、側妃マルゴ様が王妃となりユーゴ殿下が王太子になる可能性が高くなり、お二人の仲は悪くなったわ。ユーゴ殿下の態度は変わらなかったけど。

 アダン殿下は元からとても美しい方だったけど、王妃様が亡くなり、美しさに妙な色気が加わるようになり、とても魅惑的な男性になられた。だから好きになってしまったのだけど。

 ああ、また気持ちがそれてしまった。

 いえ、現実逃避ともいうのかしら。

 

「マノン。ユーゴ殿下にご挨拶をなさい!」


 ベッドの上で恐れ多くも呆然としていた私に、母から叱咤がとんだ。

 それで現実に向き合う気になって、私は体を起こして頭を下げる。


「ユーゴ殿下。ベッドの上で申し訳ありません。マノン・サザリアです。お見舞いにきてくださり、とても感謝しております」


 病気という設定なので、ベッドの上からで大丈夫かと思ってそのままで挨拶をした。

 お母様はちょっと怖い顔をしていて、お父様の顔色は蒼白だ。


「体調はよさそうだね。安心したよ。さて、サザリア伯爵夫妻、マノン嬢と二人っきりで話をしたいのだけれども、いいかな?」


 え?何言っているの?

 私たち初対面で、そんな二人で話すようなことないですよね??


「ええ。勿論ですとも。さあ、あなた行きますわよ」


 お父様は不服そうなのに、お母様がにっこり笑ってお父様を連れて部屋を出ていってしまった。

 え?独身令嬢を男性と二人っきりにするってマナー違反ですよね?十二歳といえども淑女と紳士です!

 王族の前でそんな能書きを垂れることもできず、私は黙ってユーゴ殿下の出方を待つことにした。

 

「さあ、マノン。病気のふりはもういいんだよ」

「は?え?」

「君が仮病なことはわかっている。茶会に出席したくなかったんだろう?僕と兄上に会いたくなかった?」


 ええ?これ、本当にユーゴ殿下?


「人生を巻き戻したんだ。無駄な時間は使いたくない。君が記憶をもっていることはわかっている」

「……ユーゴ殿下もそうなんですか?」

「ああ、これは僕が仕掛けたことなんだ。記憶を持っているのは僕と君だけ。僕たちはやり直すんだ。まずは王妃陛下の事故を止める」


 ユーゴ殿下は混乱している私に構わず、彼の計画を話し始める。

 いえいえ、あの、ついていけないんですけど?

 っていうか、私、一度目の人生であなたを毒殺しているんですけど。その辺、何も思わないのでしょうか?








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