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攻略対象の男



 「あ、フレデリック様!」


 放課後。


 陸人と天馬は昼に話した通り、フレデリックに手紙を渡しに行った。


 「今お時間よろしいですか?」

 「ん?…ああ」


 人のほぼいなくなった教室で、ヘレンが呼びかけるとフレデリックは振り返って、ヘレンとクリスティーナが共に声をかけてきたことに一瞬疑問を顔に浮かべた後、頷いた。


 「今日廊下でこんな物を拾ったのだけど」


 そう言って天馬が手紙を取り出し、フレデリックに見せる。


 「宛先に貴方の名前が書いてあったから一応届けに来たのよ」


 フレデリックは受け取って、見に覚えのない手紙だと怪訝な顔をしながらも、二人に礼を言う。


 「わざわざありがとう。これはどのあたりの廊下で拾ったんだ?」

 「南棟に繋がってる廊下あたりだったかしら」

 「風通しの良い場所だったから風でどこかから飛んできたのかもしれませんね」


 天馬の嘘に陸人も付け加える。


 「そうか」


 フレデリックは頷いて視線を下におろし、手紙を開いてその場で目を通した。


 「…………なぁ」


 手紙におとしていた視線が3秒ほど経ってすぐに、パッとヘレンとクリスティーナを射抜く。


 「これ本当に拾ったのか?」


 予想通りと言うべきか、あまりにも分かりやすいその反応に陸人も天馬もこの人物が黒だと確信した。


 「ええ」

 「どうかしたんですか?」


 陸人と天馬は一応、何か酷いことでも書かれていたのかと心配気な表情を浮かべておく。


 「……いや、」


 フレデリックはもう一度手紙に視線を落として何かを考えるように一瞬視線を動かしたあと、すぐに何かに思い至ったように陸人と天馬の方を向いた。


 「…お前たちじゃないのか?これを書いたの」


 フレデリックはどこかに確信する要素があるかのように言い放つ。


 陸人も天馬もこれには驚きを隠せず、普段より目を少し見開いてぱちぱちと瞬きをした。


 「…どうしてです?」


 まず陸人が問う。


 「…正直に言うと、手紙に関しては大半が勘と言うしかないんだが。お前たちは本物ではないんだろう?」


 意外だった。


 鈍そうなこの男がすぐに正解に至ったのもそうだが、何よりいかにも真面目男といったふうなこの男も、本物ではないと気づいたということは、あの乙女ゲームをプレイしていたということになるのだ。その点がすごくギャップがある。


 二人とも適度に元のヘレンとクリスティーナの人格を演じているとは言えど、揃ってゲームのストーリーとは大幅に逸れた行動を取っているのだ。わかる者にはわかる。


 「そうよ」


 天馬が何食わぬ顔で答えた。


 「え!?言って良かったのか!?」


 陸人は普通にビックリである。思わず地が出た。


 「ここで否定しても、コイツは何故か確信があるらしいしな」


 天馬も口調を令嬢然としたものから、元のぶっきらぼうなものへと変える。


 「…それがお前たちの素なのか…」

 「ああ」

 「まーな」


 「随分と粗野だな?」

 「いや、俺たち中身男だし」


 陸人があっけらかんと言い放った言葉に、フレデリックは口をあんぐりと開けた。今までの流れの中にも十分もっと驚くべきことはあったはずなのだが。


 「…冗談には見えないが。それは許されて良いことなのか?」

 「許されてイイってなんだよ」


 思ってもいなかった奇妙な質問に、陸人が眉根を寄せて聞き返す。


 「…いや、つまり、男が見知らぬ女性の身体を勝手に使っているということだろう」

 「あ゛?頭かてぇ奴だなお前、こっちだって好きでこの身体使ってるわけじゃねぇ。責められるいわれはないね」


 急に軽く言い合いになってきた二人を、天馬が頭をかきながら横に入って諫める。


 「せっかく同じ境遇の奴と出会えたんだ。初っ端から喧嘩してどうする」


 それを聞いて、陸人もフレデリックもばつが悪そうに距離を離した。


 「…すまん」

 「…悪かった」


 仲間となるかもしれない人間との出会いで興奮状態にあるからか、気が高ぶっている様子の二人とは対照的に一人冷静な天馬は、ため息を吐いて二人に椅子を勧める。


 「まあ、取り敢えず座って自己紹介でもすっか」

 「ん」

 「ああ」



 3人揃って、すでに人が消えて静まり返った教室の中、気まずげな空気を纏いつつまず陸人が口を開いた。


 「あー、じゃあ俺から。俺は鈴木陸人、…17歳で男だ。で、今は乙女ゲームのヒロインやってる。特技は喧嘩と、一応まだ使ったことはないけど光魔法?らしい」


 陸人は、自己紹介といっても何を言えば良いのかと首を傾げながら簡潔にポツポツと一つずつ話して、最後にコレでいいかと問うように天馬の顔をチラッと一瞬見た。


 天馬はこくりと頷いて、次は自分だなと口を開く。


 「俺は葛城(かつらぎ)天馬。そこの陸人と幼馴染で、同じく17の男だ。中身は、だけどな。体は悪役令嬢クリスティーナだから魔法全般が使えるのと、陸人と同じく肉弾戦が得意だった。他にも何か気になることがあれば答えられる範囲で答える」


 いつも仏頂面で黙りこくっているくせに今日は珍しく饒舌な天馬は、陸人の言う”喧嘩”に同じくと言いながら”肉弾戦”とちゃっかり言い直して、話し終わってから次はお前だ、とフレデリックに視線を向けた。


 「…その喧嘩ってのにはツッコみたくないな…、俺は(いぬい)尚親(なおちか)。一介の攻略対象 (?) だから君たちほど特出した能力を持ち合わせてはいないんだが、一応元は中高と野球部に所属していたこともあって運動全般は得意ではあった。だがまあこの身体は以前より余程運動とは無縁の人生を送っているらしくてな。期待はしないでほしい。…あー、あと俺も17で、元からも男だ」


 天馬と陸人が揃ってン?と首を傾げ、天馬が問う。


 「攻略対象が疑問形だったのは何でだ?」


 フレデリック、いや尚親はその質問に片眉をあげて一瞬だけ目線を彷徨わせ、大事なことを言い忘れていたとでも言うように口を開いた。



 「――…実はな、お前たちの他にも一人、日本から来た奴を知っていてな。そいつにこのゲームの事やこの身体の人物のことを聞いたんだ」



 尚親の口から放たれたその思わぬ吉報に、陸人も天馬も目をパチパチと瞬かせた。



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