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怪しい真面目男



 陸人と天馬はその後普通に教室に辿り着いて、何事もなかったかのように席についた。


 迷ったというのはまったくの嘘である。


 つい数分前まで悪魔のような理不尽な所業をやっていたとはとても思わせない麗しい笑顔でクラスメイトたちに挨拶をしている二人には、まったく罪悪感や反省の色は見られない。


 二人は昔から性格が悪かったが、要領が良く、程度を知っていた所が幸か不幸か。この性格は矯正されることなく今にまで至った。



 「――…ベル嬢、コーナー嬢、選択授業の調査用紙、君たちだけまだ出ていないんだが」


 そんな二人にクラスの男子生徒が話しかけた。


 二人は男子生徒から普通に話しかけられることが珍しく、少し反応が遅れる。


 男子生徒はもちろん、女子生徒からもその美しさから一歩引いた接し方をされるのだが、この真面目な雰囲気の男子生徒は頬を染めるどころか表情さえ動かさず、ただ作業をこなすだけだと事務的に話しかけてきた。


 どうやら女子の美醜に激しく頓着しないタイプなようだ。陸人も天馬も少し好感を持った。


 「…あぁ、ごめんなさい。すぐに出すわ」


 天馬が微笑んで謝り、陸人の分と合わせて2枚渡した。


 「はい、これでいいかしら」

 「遅れてごめんなさい!」

 「いや、大丈夫だ。ありがとう」


 陸人もニコッと笑って謝ると、男子生徒はなんでもないようにペコっと一礼して去っていった。


 興味深げにその背を見送る陸人に、天馬がこそっと話しかけてきた。


 「(…なぁ、気づいたか)」

 「(なにが)」


 陸人が聞き返すと、天馬はクラスを見回してからもう一度こそっと陸人の耳に近づけて言った。


 「(ここじゃ駄目だな、また次の休み時間に話そう)」

 「(…ん?…ん)」


 陸人は何のことなのか気になるが、教室の前の扉から1限の授業の教授が入ってきたのを見て、大人しく頷いて席に戻った。




   ◇  ◇  ◇




 「―…で、なんなんだ?朝のやつ」


 その後3つの授業の間の休み時間は、運悪く教授から仕事を頼まれたり、遠い教室への移動があったりと時間がなく、空き教室で再びゆっくりと話しができるようになったのは、昼休みに入ってからだった。


 「ああ、それなんだけど。あの調査用紙回収に来た男さ、フレデリックっていう攻略対象だったんだけど」

 「え、マジ?」


 陸人は普通に話しかけられたことに気を取られてそこまで気づいていなかった。


 「そ、しっかり頭上に好感度数値が表示されてた」

 「はぇ〜、見てなかった」


 天馬は昼食に購買で買ったパンをもぐもぐと咀嚼しながら、悩ましげに首をかしげる。


 「でも問題があって」

 「問題?」


 陸人も買ってきたパンを口に含みながら首を傾げた。


 「あいつ、作中ではハーレムができてるくらいのモテ男だったはずなんだが。なんか今朝見た時は設定と違って髪も縛ってたし、…女を口説いてなかったよな?ヘレンとクリスティーナほどの美少女を口説かんタラシ男ってあり得るか?」

 「そんなんなんだ!?あいつが!?真面目君かと思ったのに!」


 陸人は人は見かけによらないな、と自分たちのことは棚に上げてムンクのような表情を作って驚いた。


 「いや、今のあいつは何故だか知らんが、どっからどう見ても真面目な硬派男なんだよ。不思議なことにな」

 「…あ、まって(ひらめ)いた。つまりアイツも俺たちと同じかもってことっしょ」


 陸人はピーーンと閃いて人差し指を天馬に向けながら、名推理だろ、とドヤ顔をした。


 つまり、その謎の硬派男も我々と同じく”憑依者”ではないかということだ。


 「そ。あくまで可能性だがな。確率は低くなさそうだ」

 「おお〜」



 陸人も天馬もいったん話を止めて、持っていたパンを全て口に入れて2秒で飲み込んだ。パンは飲み物なのだ。


 「……じゃあ、お前も憑依者かって聞いてみる?それはリスク高い気がするんだけど」

 「それなんだよな。カマかけてみるか、行動を見張ってみるか」


 二人は腕を組んでうーんと悩む。


 「あ、日本人には通じるけど、他の奴らには通じなさそうなこと言ってみるとか」

 「この世界では使われてない特有の日本語で話しかけるってことか?」

 「そう!」


 陸人の提案に天馬がなるほど、と頷く。


 「それだと違った場合に不信感持たれるっていうリスクもあるから、適当に手紙か何かに一言書いて反応が返ってくればって感じでよくね?」

 「それいいな!」

 「そもそもそいつの中身が良い奴とも限らねぇしな」

 「あー、たしかに」


 陸人は、でもできるだけ仲良くなっておいて損はないだろうとプラスに考える。


 「なんて書こうか」

 「テキトーで良いっしょ」


 二人は和気あいあいと机を囲んで楽しげに一分で手紙を完成させた。


 内容はこんな感じ。



 フレデリック君へ。

 はじめましてフレデリック君。

 突然なんだけどフレデリック君はこの世界に来てどのくらいですか?

 この質問に心当たりがあるならお返事待ってます。

 葛城と鈴木より。



 短い、と思うかもしれないが、この二人がボロを出さずに優しげな口調を装うのには短いのが一番なのだ。


 そして葛城と鈴木、誰だそれと思う人がほぼだと思うので補足すると、天馬と陸人の名字である。日本人的な名前だとわかりやすいだろうと踏んでのことだ。


 「うっし、できた」


 天馬がペンを置いて頬杖をつく。


 「どうやってこれ届ける?」

 「机に入れる…、のは無理か」


 この学園では大学のように個人で決まった教室や机はない。そのフレデリック君が座る席などわかりようもないし、もちろんロッカーや靴箱なんかもないのだ。


 「そうなんだよなぁ」

 「んー、人伝に渡してもらうのもすぐ俺たちだってバレるし、逆に拾ったっつって俺たちが直接渡すのも微妙か?」


 陸人の案に天馬が関心して頷く。


 「いいんじゃないか?陸ならこっそり忍び寄ってポケットに入れるとか言うと思ったんだが、よっぽど現実的で安心したわ」

 「そこまで阿呆じゃねーよ!?」


 陸人が笑って天馬を小突く。


 「イテ」


 そんなことをしていると放送で次の授業の予鈴が鳴った。


 「じゃあ放課後にでも渡しに行くか」

 「だな」


 二人は急いで、移動させていた机と椅子を片付け、昼食のゴミをまとめて教室を足早に出ていく。


 「次何の授業だっけ」

 「歴史言語」

 「東棟か!逆方向じゃねーかッ、走るぞ!」


 この学園は美しく、設備も充実していて良い面は多いのだが、如何せんその広さ故に移動時間には辟易とする生徒も多い。




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