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れっつ、身体強化! ②


「まず、あなたは魔力を動かすところからよね?」


「そうですね!この前の授業でやったので、イメージはバッチリなはずです。さっそくやってみます!」


 先日の魔法理論の授業では自身にある魔力を認識すること、それで一旦終わってしまった。しかし認識するのと動かすのとではまったく難易度が違うのだ。


「……………あれ?思ってたよりぜんぜん動きません」


 数十秒目を瞑って力んでいた陸人は、目を瞑ったまま、ん?と首を傾げる。


「なんとなく、魔力の塊っぽいのはあるな~とは感じるんですけど、まったく言う事聞きませんね」


 その仕草だけを見ると、凄まじく可愛い。本当にたちが悪い。天馬は陸人の顔を見ないことに決めた。


「そうね、魔力はイメージだから、想像力次第ってところがあるのよね。…魔力は水みたいに質量で考えるより、霧を圧力みたいなもので押し出す流れが近いかしら…。といっても慣れれば考えずに動かせるようになるから最初だけなのだけど」

「なるほど…霧…霧…」


 陸人は再び目をつむり数分間沈黙する。


「…………………………あ!ちょっと動いたかもしれません!」

「え、もう!?…早いわね」


 天馬は、初めて魔力を動かすという工程に、最低でも一時間はかかると踏んでいたため、結構驚いている。実際、クリスティーナが幼少期に魔法を習い始めたときは、最初にその感覚を掴むまで3時間ほどを要したのだ。遺伝子的に魔力が染み付いているクリスティーナでさえ3時間もかかったそれを、陸人は、いやヘレンの身体は、平民の出でありながら十数分ほどでやってのけた。流石というべきか、ヒロインのポテンシャルが恐ろしい。


 しかしどれだけ体が魔法に有利な体質だろうと、飲み込みの速さは陸人の天性のものだ。


 あらゆる面にセンスが秀でているのは、陸人の昔からのことだった。


「ん?…でもまた動かなくなりました…」

「魔力を動かすのは、今まで使っていなかった体の一部を動かすようなものなのだから、難しくて当然よ。一回できたのならもう心配はいらないけど、反復練習するしかないわね」

「おお~、わくわくしますね」




 それから小一時間ほどして、陸人はだいたい滑らかに自らの意思で魔力を動かすことができるようになっていた。はやい。


「……そろそろ次に行ってもいいかもしれないわね」

「やったー!ついに!」


 はじけんばかりの破顔。訓練場がヒロインの笑顔で浄化されそうだ。


「ここからは私も実際にやったことはないから手探り状態なのだけど、一応理論は理解しているし、説明は任せて頂戴」

「はい!」

「…じゃあまず、魔力を均等に身体全体に広げたまま維持できる?」


 魔力は絶えず流れ循環するもの。陸人が動かす前に言っていた”塊っぽいの”だった時も、実際はその狭い範囲の中で分裂や再生を繰り返し、絶えず回り流れていたのだ。


 しかし、意のままに動かし、止めたり別方向に動かしたりするのはだいぶ難しい。


「広げるだけでいいんですか?」

「広げて、その場で維持、よ。広げるだけと、広げてそのまま流れを止めて維持するのは、何倍も難易度が違うのよ」

「なるほど…!」


 陸人も慣れたのか、体全体に広げるまではすぐに上手くいっているようだが、難しげな表情から察するに、流れを止めて維持することには大幅に苦戦しているらしい。


「…っこれは、だいぶ精神力を削りますねぇ…」

「ええ、難しい技術だもの。世の中の魔法師たちが身体強化を使いたがらない理由の一つでもあるし、私も昔、これには二月(ふたつき)かかったわ。いくら貴方でも、魔法として使い物になるまでに、一日中練習して五週間弱ってところかしらね」

「…ええぇ!」


 陸人は思わぬ数字にげんなりと顔を歪める。


 他の魔法師たちから言わせれば、五週間など冗談キツいわと鼻で笑うほど早いものだが、早ければ今日には身体強化を習得できると期待していた陸人にとっては、随分と長く思える数字だった。


 ちなみにクリスティーナの魔法の才能は、幼い頃から天才、神童、と称えられるレベルである。クリスティーナが一般レベルと思うなかれ。ヘレンのヒロイン力もさることながら、クリスティーナもまたヒロインのライバルとして生み出された、立派なポテンシャル馬鹿なのだ。


「まぁ、貴方でも流石に難しいでしょうから、まずは手とか足とか、身体の一部分から集中してやっていきましょう」

「はーい」

「とは言っても、もうそろそろ学園に行く時間だわ。ここいらで区切りをつけましょうか」

「え───!もうそんな時間ですか!?」


 陸人はこの世界の神はなんて無情なんだ、と若干涙目になる。


「あとは自分で空き時間にコツコツ練習すればいいのよ、問題ないでしょう?魔力を問題なくコントロールできるようになったら、ただ広げたり染み込ませたりするだけではなくて、筋肉や骨一つ一つの耐久度やパワーを上げるイメージで魔力を使うだけよ。これも貴方ならセンスもあるし、慣れれば息をするように簡単にできるようになるわ。そこからは自分で実験しながら精度を上げるほうが、貴方に向いているでしょうしね」

「おぉ…わかりました!クリスティーナ先生のご期待に沿えるよう、練習、頑張ります!」


 天馬は陸人の肩に手を置き、念のため、と付け加える。


「大丈夫だとは思うけど、怪我などはしないように」

「そこはもちろん、慎重に研究しますとも!」


 陸人は別に、予測できる危険性を見もせずに特攻するタイプでもない。そこをちゃんと理解している天馬は、うむ、と頷いた。


「あと、一応言っておくけど、授業中はちゃんと授業聞きなさいね」

「…………………」


 ギロリ、と天馬が鋭い視線を飛ばす。


「お返事が聞こえませんが」

「…へーい」

「こら」



「はーい」



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