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美少女と美女





 ――と、思ったんだけど。



 (……は?)


 刺されて、こりゃ死ぬなって意識を手放した次の瞬間、何故か見知らぬ場所に立っていた。


 ナイフに刺されたはずの腹も痛くない。


 先程までの時間が夢だったのかと思うほどである。


 (いや、こっちが夢か…?)


 ナイフの感触も、痛みも、血が抜けていく感覚も、脳裏にこびりつくほど鮮明で。あれが夢ではなかったと確信をもって断言できる。


 (ん〜〜、死後の世界…的な……?)


 陸人の想像力では、こんな状況に対して浮かぶ選択肢も、そんな一つしかない。







 ――バシャッ


 突然頭上から音が聞こえたかと思えば、髪と服が肌に張り付いて不快な感覚に襲われる。


 「は?」

 「え?」


 もはや同じ地域の不良たちとは喧嘩し尽くして、その名を知らぬ者はいないほどの自分に、頭から水をブッかける猛者がいるとは。


 しかし何故、自分に水をかけた犯人であろう目の前の人物も疑問の声をあげたのだろう、と袖で水を拭いながら顔を上げてみると、




 ――目の前に、絶世の美女がいた。



 七色の光を反射させる濡れ羽色の髪に、その髪に負けないほど存在を主張する宝石のような青い瞳。


 影を落とす長い睫毛はどこか儚げな印象を与えるが、意志の強そうな切れ長の目からも溢れ出る高貴さのようなものがある。


 スラリと透き通った鼻筋が映える陶器のような白い肌だが、薄く色づいた頬が何とも(なま)めかしい。


 ぷくりとふくれた(つや)やかな唇もさることながら、豊満な胸とくびれた腰も酷く欲望をかきたたせる。


 簡潔に言うなら、そう。


 (めっちゃ、俺好み…)



 しかし、何故だろう。


 この美女が眉間に寄せているシワを見て、変な既視感が湧いてくる。


 一瞬脳裏をよぎった思考をありえないよなと否定したが、思わず口からこぼれてしまう。



 「――天馬…?」

 「は?」



 (え?……………いや、え…?)


 まさか目の前の美女が呆気に取られた顔で反応してくるとは思わなかった。


 「え、マジ…?」

 「え、お前……陸、か?」

 「おう」


 この美女の顔に似つかわしくないしかめっ面が、どうしても天馬の顔と重なってしまう。


 顔の造形はまったく変わっているにもかかわらず。


 「待って待って…なんで???」

 「俺に聞くなよ」

 「俺ら死んだよな!?てかなんで美女になってんだよ羨ましい!」

 「は?俺も顔変わってんの?」


 「え、ドユコト…?」

 「お前、エラい美少女になってんぞ」

 「ん、!?」


 顔をペタペタと触ってみる。


 思えば、おかしいことだらけだった。まず声がめちゃくちゃ可愛くなっている。元の体と身長差が開いたからか、視点が低いし、視界に入るピンクブロンドの柔らかい髪の毛も見に覚えのないものだった。


 「うわ、肌もっちもち…」

 「触らせろ」


 ムニムニ、プニプニ、と遠慮なく触ってくる美女ver天馬の手を甘んじて受け入れながら、陸人は期待に満ちた目で天馬を伺い見る。


 「なぁ、天馬…」


 その視線は天馬の胸元に向かっている。


 「おい、それはアウトだろ?」

 「いいじゃん、中身は天馬だしノーカンだろ…」


 そう言いながら陸人は「では遠慮なく…」と、魅惑の楽園へとその手を伸ばす。


 「………」

 「おい」


 天馬の静止の声を聞かず、無言で揉み続ける。


 「…………………」

 「おいって」


 「…………………………………………………………………」

 「――やりすぎだ阿呆ッ」


 ボコッと殴られた。


 「すごかった」

 「感想言うな」


 陸人は頭をさすりながら、あ、と思い出したように周りを見る。



 「それはそうとさ、この人達何!?」


 指を指した先、天馬の後ろには、侍るようにして立つ三人の女の子がいた。


 「は?んだこれ」


 しかしその三人は、時間が止まったかのように静止していて、精巧な人形かと思うほどである。


 陸人が、腕を組みこちらをいじわるな顔で眺めたまま固まっている左の子を、つんつんとつついてみるが、反応は返ってこない。


 「これさ、あれじゃね?構図的に…なんだっけあれ」

 「知るか」


 天馬は分かるかなと見てみるが普通に突き返された。


 あ、と手を叩いて思い出す。


 「あれだ、悪役令嬢と、その取り巻きだ」

 「……あー、(つむぎ)がハマってたやつか」


 天馬の家の次女、紬が様々な種類の”乙女ゲー”という物にハマっていた時、陸人も手伝わされたので少し覚えていた。


 「そうそう、このポジションだとお前が悪役令嬢だけどな」

 「じゃ、お前ヒロインじゃねーの」

 「俺らライバルじゃんウケる」


 そこで天馬は首をかしげる。


 「てかさ、お前なんで濡れてんの?」

 「あ、そうだ…最初お前に水かけられたよな?なんで?」

 「え、俺?」

 「ん?」


 悪役令嬢に水をかけられるヒロイン。嬉しくないことに乙女ゲー説が少し有力になった。


 「でもさ、どっから水出したんだろーな?」


 悪役令嬢兼、天馬の手元には、ティーカップどころか花瓶もバケツも無い。



 「……あ、思い出した。」


 陸人の疑問を無視し、天馬が顔を険しくして(いつものことだが)、切り出す。






 「――お前の顔、『光の救世主さま☆』って乙女ゲームのヒロインと全く同じ」







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