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17/30

れっつ身体強化! ①





 天馬は窓から入ってくる心地良い朝日によって目覚めた。


 目をこすって上半身を起こし、軽く伸びをする。久しぶりに深く眠れて快調だからか、目に見える情景が今までより数段明るく見えて、幻想的な雰囲気にここがゲームの中の世界だと改めて実感する。


 しかし不思議なもので、ゲームの世界の中だと言うのに何故こうも五感がはっきりしているのか。


 最新のVRMMOでも、ここまで感触や匂いを現実かのようにリアルに表現できるものなのか。まるでゲームの中ではなく異世界に迷い込んだかのようだ。とそう考えていると、起きてはじめて隣で寝ているヘレンの存在が目に入った。


 「―――…ぁ、」


 酒に酔っていたわけでもないし、昨夜のことは鮮明に覚えている。ただやましいことは何もなく、昔のように一緒に寝ただけ。ただそれだけ。


 (…あ゛ーー)


 だが、今の陸人はヘレンなのだ。そこがわりと結構問題だった。


 陸人は寝相こそ悪くはないものの、寝ているうちに当然少しは動いたようで、着ているネグリジェが少し肩からはだけている。今の、大人しい顔で静かに寝息をたてている様子からは、普段の陸人の少年らしい粗暴さは鳴りを潜めていて、ヘレンの美貌も相まって非常に艶めかしい。


 正直言って目に毒だ。なんせ姿形だけで言うと天馬にとってタイプドストライクなのだ。これは健全な男子高校生(精神的に)が見ていい光景なものなのか。否。


 今の自分に勝手に反応するような息子がいないことが今はありがたいとさえ思える。奴は朝方は特に空気を読まず若さを発揮するから、見た目が違うと言えど親友に反応するなど断じてお断りである。


 天馬は頭を掻いて、目頭を揉みほぐしながら、心のなかで大きくため息をついた。


 そしてまだ早い時間なので、陸人を起こさないように、静かにそっとベッドからおり、歯を磨くべく部屋を出て行った。




   ◇  ◇  ◇




 それから二時間ほど経ち、理性が打ち勝った勝者たる天馬が、ソファに座り無心で髪を梳かしていると、陸人もやっとこさ、のそのそと起き上がった。


 「ぁ、てんまぁー……はよー」

 「…おう」


 当の陸人はと言うと、まったくそんなことなど考えてもいないようで、大あくびをしながら無防備に服をめくり、腹を出してポリポリと掻いていた。


 「ぁれ、…おれ今日早起きじゃね?」


 陸人はへへっと笑う。


 たしかに天馬が起こす前に自力で起きたのは陸人にしては珍しいことだった。


 「早くはねぇぞ。今日は午後登校だから起こさなかっただけで、時間的にはいつもより全然遅い」

 「ん?今日って学校午後からだったんだ?」

 「…お前、掲示板見てないのか?」

 「掲示板とかあんだ、知らんかったわ」


 天馬は陸人の抜けた顔を見ながら、呆れを含んだため息を盛大にこぼす。


 「最初に説明あっただろ。掲示板は校内にもあるし、寮でも確認できる。予定変更とか連絡事項とか書かれてるから、こまめに確認しとけよ」

 「へーい」


 陸人は返事もおざなりに、説教は聞きたくないと、いそいそとテーブルまで歩いて行き、天馬が用意していた水をゴクゴクと飲んだ。


 「ぷはぁ、…あ、だったらさ、天馬」

 「ん?」

 「俺、天馬に魔法教えてもらいたいんだけど」


 陸人はせっかくの午後登校なので、時間は有効に使いたいしな、と前日から考えていたことを話した。


 「あ?…授業でも習うだろ」

 「ばっかやろー、ゲームの中の世界まで来たってのに、そんなの待ってられっかよ!」

 「いや、めんどいし」


 消極的な天馬だが、陸人はめげずにキラキラとした目で見つめる。


 ヘレンの究極に整った顔面でそれをされると、天馬かて男である。弱くなってしまうのは仕方があるまい。


 「…はぁ、飯食べてからだぞ」

 「ぃやった!」


 ガッツポーズをして喜びの舞を踊りながら、陸人は足早に食堂へ行こうと歩きだしている。


 「早く行こーぜ!」

 「……おう」


 そんなふうにはしゃいでいる陸人を、天馬は一瞬でも「可愛い」だなどと思ってしまった。


 (……俺、だいぶ重症だわ)




   ◇  ◇  ◇




 「……で、ヘレンさんはどんな魔法が使いたいんですの?」


 寮の横に併設されている訓練場の片隅で、天馬は腕を組んで、今だにテンション高めの陸人に質問した。


 一応外なのでお嬢様口調である。


 「えっとですね!私としてはやっぱり、異世界で王道の身体強化に憧れがありまして!」


 陸人は高テンション故に大声で言いそうになったが、きちんと”異世界”の部分は小声で喋った。


 「…あぁ、つまり魔力で身体能力を大幅に上げる方法が知りたいのね?」

 「そうです!」


 しかし、陸人は今更ながら、この世界のファンタジーなイメージには若干そぐわないような気がする身体強化が、技術として存在するのか疑問に思えてきた。


 「…可能ですかね?」

 「ええ、まぁこれは体内で完結する魔法だから属性には左右されないし、魔法を行使するたびに精霊を介す必要もないから、そういった点では全人類が使えることができる魔法ではあるのよ」

 「へぇ〜」

 「でも身体強化は攻撃力と防御力の両立が難しいし、普段の身体能力との違いで逆に動きにくくなったりするから、実際に使用する人はほとんどいないわ」


 身体強化があまり使われない理由として、そもそもの魔法の使用者は貴族が大半であることも関係している。日銭を稼ぐために日々ハイリスクハイリターンの仕事を求める平民とは違って、大半の貴族はわざわざ危険な近接戦を選ぶ必要がない。そのため遠距離または中距離である通常の属性魔法を使用する者が多いのだ。


 「まじですか!」


 ヘレンの可愛い高テンション驚愕顔に、訓練場の片隅で剣の素振りをしていた少年が見惚れすぎて木剣を落っことし、カコン、と短い音が響く。少年はその音でハッと我に返り、恥ずかしげに耳まで紅潮させてそそくさと木剣を拾った後、足早に訓練場を退出していった。


 天馬は内心で同情しながらその背を見送る。


 (……なんか、…すまんな)


 しかし当の陸人はその理由に気づく様子もなく、天馬の視線の先を見てから、どうしたのかと首を傾げていた。


 「どうかしました?」

 「いえ、なんでも」


 陸人は気づく様子もない。憐れ、少年。



 「クリスティーナさん!私、難しくても一度挑戦してみたいです!」


 そんな少年はどうでもいい陸人は、諦めてなるものかと、フンっと鼻息荒く宣言した。


 「…そ、そう?わかったわ。ではさっそく練習しましょうか」

 「はい!お願いします!」





♡ありがとうございます。

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