魔法理論の授業②
「わ〜〜!私達の体も光ってきてますね!」
まだその光は微々たるものだったが、いよいよ魔法が使えるのかと思うと嬉しく、陸人は大きな声ではしゃぐ。
美少女がはしゃいでいる様子、その光景がよほど可愛かったのか、けして少なくない視線を感じたが、それも気にならないほど舞い上がっている陸人を見て、天馬も思わず苦笑した。
そこでアマンダがもう一度教卓の前に移動して手を鳴らす。
「さあさあ、そろそろキャンディの反応が出てきたみたいだし、説明を再開するから一旦こちらに注目してちょうだい。反応がまだの子も少し待ってれば光ってくるから焦らなくていいわよ」
その声で生徒たちは騒ぐのをやめる。さすがと言うべきか、育ちが良いとは統率がとりやすく良いものだ。
「今すでに反応が出ている子を見てもらったらわかると思うけど、その光っている血管のようなものがマナです。正確にはマナ回路と言って、その中の微細な粒子の集合体がマナ。このマナを自由自在に操って合わせたり形を変えたりしながら精霊の力を借り、体外にエネルギーとして放出することを”魔法”といいます」
出た、精霊。
陸人もこの乙女ゲームが光の精霊が主な内容であったことは覚えている。そしてその光の精霊に好かれる特殊体質な少女がヒロインのヘレン、つまり陸人なのだ。つまりチート。この世界ではヒロインは後に絶対的な能力を身につけることが確約されている。しかし対照的にクリスティーナは潜在的に闇の適性が強いため、気をつけねばならないのだ。
「そして残念ながら、このキャンディを食べたからといって、もうマナを操れるようになったわけではありません。これはただ視覚情報として自分のマナを認知してもらっただけ。これからのあなた達の頑張りで操れるようになるはずよ。個人差はだいぶあるだろうけどね」
そこまで言ったところで、前列に座っていた真面目そうな少年が一人、はい、と手を挙げて質問した。
「先生、質問よろしいでしょうか」
「どうぞ」
「ありがとうございます。…僕の見間違いでなければ、マナ回路の光の色の濃さや色に個人で違いがあるようですが、これは先生がおっしゃっていた適性と何か関係があるのでしょうか」
その生徒はこちらをチラっと見て質問した。
今現在、教室内で最も鮮やかに強く光っているのがヘレンとクリスティーナだからだろうか。他にも何人か王族とか教皇の子息とか(つまりおそらく攻略対象たち)も同様の強さの光を放っているが。
「ええそうね、マナ回路の色と適性とはそんなに関係はないわ。ただ、光の強さはそのまま潜在魔力の多さを表しているの。といっても魔力量なんて修練しだいで増やすことができるし、現時点ではそんなに気にしないでいいわよ」
「ありがとうございました」
少年はなるほど、と頷きメモをとっている。真面目くんだ。
「他に質問がある方はいるかしら?なさそうだったら次に進むわね。次に皆さんにやってもらうのは、この魔石を握って、光る魔石を見つけることです。これで自分のマナに反応して光った魔石の色で自分の適性を知ることができます」
そういってアマンダは6つの宝石のような石を皆に見せた。
「じゃあ、前の席の人から二人ずつ順番に前に来て」
一人、二人と魔石を握り、それぞれ光る色を見つけている。
「一番、ランカスターさんは火と、光にも少し適性があるわね。二番のリェリーニさんは水と風」
三人め、四人めとどんどん進んでいき、ヘレンとクリスティーナの順番もすぐに来た。
「さあどうぞ、好きなのから握って」
陸人は赤色の魔石から手に取る。めっちゃ光った。え、そんな光る?ってくらい光る。
次に青色の魔石を手に取る。これも光った。
緑色も、光った。茶色も、光った。
(…全部光るとか、ある?)
さすがヒロイン。チートスペックだ。しかし黒色の魔石は光らない。
(光らんのんかい)
次いで、最後に白い魔石を握りしめた。
「っわ」
これ以上ないほど光っている。ブオンブオン言ってるし主張が強い。
横を見てみると、今まで気づかなかったがアマンダ先生が口を開けて固まっていた。
「さ、さすがね、歴代最高レベルの適性反応よ。コーナーさんは光属性の適性が凄まじいけど、他にも火、水、風、大地、いづれも相性が抜群なようだから、このまま修練すれば何十年か後には大魔法師になれる素質があるわ」
(うぉー、なんかやっぱヘレンってスゲぇんだな)
しかしその何十年か後には、もうこの世界にいる予定はないので自分には関係ないのではなかろうか。
陸人は横に避け、次に挑戦する天馬の様子を隣で見ることにした。
結論から言うと、天馬も陸人と同じような結果だった。
火水風大地が人並み以上に光っている。しかし、ヘレンとクリスティーナで違う点はやはり光属性と闇属性だった。天馬は逆に、光属性で微塵も反応が出ず、闇属性の魔石を握る時に、クリスティーナの体ごと包まれそうなほど光ったのだ。
連続して、並外れた結果が出たことによってアマンダはしばらく呆然としていたが、すぐに持ち直して次の生徒の作業に戻っていた。
なんでもたまにこういう常識ハズレが出るらしい。二年ほど前にも、今の王太子殿下が各属性の反応が強い訳では無いが、全属性適性という結果を叩き出したらしい。ちなみにその王太子も攻略対象なはずだ。
(……アマンダ先生、…お疲れ様)
それからの授業は普通に進み、無事、全員終わった。
「今日の授業はここまでにしましょう。明日の授業は座学をするので教材、忘れずに持ってきてくださいね。それから、今日の感覚を忘れないうちにマナを動かす練習をしたい人も多いだろうから、練習するならこの教室か、寮の自室で寮母さんに許可を貰った上で練習すること、危ないことはしないことを守った上で練習してくださいね」
一同丁寧にはい、と返事する。
さすがの育ちの良さ。今どきの日本の高校の様子とは比べ物にならないほど、皆意欲に満ち、礼儀正しい。もしかしたら日本の高校にもこういう学校はあるかもしれないが。
「では、これで一限目を終了します」
「「「「「「「「「「ありがとうございました」」」」」」」」」」
授業後の挨拶をして、生徒たちはぞろぞろと教室を出ていく。その時陸人は天馬に話しかけた。
「優しそうな先生で良かったですね」
それに天馬は声を潜めて返す。
「(…たしかあの先生、邪教集団の回し者だぞ…。なんかのイベントで見つかって死ぬやつの一人だわ)」
「(っえ、)」
マジか。
好感をモテそうな人物を見つけた矢先にまさかの発覚だった。陸人は自分に人を見る目はなかったのかと落ち込む。
「(つっても、俺の記憶も確かなわけではないし、事情があったりとかいろんな可能性はあるから、偏見は持たずにある程度距離を置くくらいでいいんじゃねぇか?)」
「(うぃ…りょーかい)」
陸人は残念そうにしながらも、実のところ、最初からこの世界の人物に深入りするつもりはなかった。
陸人は肉体に魂が宿るだとか、魂に肉体が作られるだとか、そういう難しい話はわからないが、今本来とは別の肉体を使っている当事者として、この他人の体で自分の世界を広げるべきではないとなんとなく考えていた。
まだたった数日程度だが、この世界に深入りしすぎると、”ヘレンとしての俺”に慣れて”陸人”が溶けてなくなるような気さえする。これは”俺”の人生じゃない。しかし、そんな恐怖もさして大きく受け止めずにすむのはひとえに天馬の存在のおかげだろう。陸人を知る彼が共にいること。それ以上にこの世界で価値のあることはないと思う。
つまり天馬さえいれば他はどうだっていいのだ。邪教徒だろうがテロリストだろうがそんなに気にしないですむ。あまり天馬に依存しすぎないように気をつけねばならないが。
「じゃあクリスティーナさん、次の授業に行きましょうか」
「そうね」
声の音量は普通に直してあらためて会話していると、教室の最後の方に残っていた金髪の男が近づいてきた。
「ヘレン嬢…少しいいかな」
(…良くねぇ、ん?、てかコイツ攻略対象じゃねぇか)
陸人は内心で悪態をつきながらも、目の前の人物の正体は知っていた。先日、攻略対象については天馬に叩き込まれたから一目でわかった。てかそれ以上にコイツはヘレンの記憶の中でも見たことがある。例の青い花の庭園でチラッと目にした気がする第二王子だ。
ていうか、なんか視界の端にゲームのコマンドのような見覚えのある文字が浮かび上がっている。
【 攻略対象:アレクシス第二王子 −選択肢を表示しますか? 】
NOだ。今の自分に選択肢は必要ないため、ここはスルーするのが賢明である。
攻略対象は極力関わらない方向で行くことになったから、出会いイベントを片っ端から避けていく作戦だったのだが、ヘレンが幼少期に既に出会っていたコイツはスルーできなかったようだ。致し方ない。ここはしらばっくれよう。
「アレクシス第二王子殿下、お初にお目にかかります。ヘレン・コーナーと申します」
うやうやしく初対面のように挨拶をして、綺麗にカーテシーをした。
「へ、…ヘレン……?俺のこと、覚えてないのか…?」
第二王子は信じられないと驚愕したあと、絶望した面持ちで問うてきた。
「?…申し訳ありません、どこかでお会いしておりましたでしょうか?」
しかし、いくら初恋の少女との再会に気を取られているにしても、この学園が表向き平等をかかげているにしても、この場でヘレンより身分の高い、しかも婚約者であるクリスティーナを無視して、ヘレンに先に話しかけるのはいかがなものか。
クリスティーナの中身が天馬ではなく本物のクリスティーナだったら。間違いなくヘレンはクリスティーナの怒りを買っていただろう。こういう男のせいで原作のヘレンは苦労したのだ。クズめ。
「俺だよ、アレックス!小さい頃に毎日会っていただろう!」
たしかに目の前の”アレクシス”第二王子は、その当時「アレックス」と名乗っていたが、そんなこと陸人には関係ない。
「はぁ、あの、人違いだと思いますが…?」
「いや、そんなはずはないッ!ヘレン…君だよ!君なんだッ」
第二王子は興奮しているのか、力加減をせずヘレンの肩を両手で掴んで離さない。
(…きっしょオエ)
何故、自分が虫を見るような目で見られていることに気づかないのだろうか。
本当に気持ち悪くて、振りほどく気力も出ない。
「殿下、レディの身体をそう強く触られるのはいかがなものかと」
ところを天馬が横からひっぺがしてくれた。ナイス。
「あ、く、クリスティーナ」
第二王子は今気づいたとでもいうようにやっとクリスティーナの方を見た。いや、実際今はじめて気づいたのだろう。それほど彼の頭の中はヘレンで埋め尽くされていたのだ。気持ち悪いことに。
陸人はため息をついて、もう一度第二王子を見た。
「殿下、私は殿下がお探しの者ではないようですので、失礼してもよろしいでしょうか。次の授業の教室まで移動しなければなりませんし、急ぎたいのですが」
そう言われて第二王子は呆然としたまま了承し、ヘレンは一件落着というふうに天馬を見る。
クリスティーナが微笑んで、
「では行きましょうか」
「はい!」
二人でもう一度第二王子に礼をして踵を返した。
攻略対象とは関わらないと決めたのだ。
できるならもう話しかけてこないでほしい。
伝われ、この思い。届け、このこころ。
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