A組
――朝日が照らす広大な学園内を、新品の制服を纏った美少女二人が全速力で走っている。
その道には華やかな花や噴水こそないものの、名門貴族家の子息子女が多く通う学園らしく高級感ある白い石が惜しげもなく敷き詰められていた。
太陽の光を反射させ、新しい制服をよりいっそう輝かせるその白い道は、職人が計算に計算を重ね築き上げた最高傑作と言っても良いものであった。
そして、その上を走る少女たちもまた輝いていた。
どんなに汗を流していようとも、纏う雰囲気と見事な走りのフォルムを前に嫌なイメージなど欠片も沸かない。
上品で繊細さをテーマに作った白い道も、彼女たちの美貌にさらに魅力を引き立たされて眩しいほどであった。
加えて、少女らの背後に満開の花が咲き誇った幻覚まで見えてしまうのだから不思議だ。
黒髪の、美女と言っても過言ではないような美少女は、豊穣の女神の寵愛を思わせる肢体を全く不利に思わせないような見事な身のこなしと身体能力を持っている。ただ前だけを見て一心不乱に走り続ける様は、まさに戦場を勝利へと導く戦女神のよう。
ピンクブロンドのとても愛らしい顔をした美少女は、左手に神たちが好んで食したとされるクウィムベリーのジャムをたっぷりと塗ったパンを持って、森羅万象の祝福を受けたような天気の中懸命に走っている。さながら自然の中で舞う天使のようではないか。
――まあ、何が言いたいかと言うと、陸人と天馬は初日から遅刻していた。
案の定、陸人が起きれなかったのである。
「だから早く寝ろって言ったのにッ」
絶え間なく足を動かしながらも天馬が声のボリュームを抑えて文句を叫ぶ。
今は外にいるのでガサツな口調を誰かに聞かれでもしたら大変だ。
「マジでごめん!あのあとすぐ風呂入って寝たんだけどな!」
寮には爆音目覚まし時計など存在せず、穏やかな音楽が3回流れるだけである。
陸人からすればあの音楽で起きろというほうが意味不明であった。
「だとしても俺が声かけに行ったんだから起きろよッ、なに二度寝してんだ!」
かといってそれを天馬が予測していなかったわけでもない。
天馬は一度ちゃんと起こしにいったのだ。陸人は返事だけしてまた寝てしまったのだが。
「それはホント悪かった!」
普段と違うベッドであったこと、急な環境の変化によるストレスなど、こうなってしまった理由はいくつかあるが、どれも言い訳にしかならないので言わない。
なんやかんや言いつつ、天馬がわざわざ陸人を待っていてくれた優しさに気づいているから。
二人は校舎が近づいてきたので少しスピードを落とし、口調も正す。
「明日から三度は起こすことにしますが、三度目に来た時起きていなかったらベッドから落っことしますわ」
「わ、分かりました…。自信は無いのですけれど、努力します!」
それでも明日以降も陸人を起こしてくれる辺り、天馬は存外陸人に甘い。
校舎の入り口付近に立て看板がある。
普段なら教師が隣に立っているものなのだろうが、見えないのは自分たちが遅刻しているからだろう。
「あら、あれにクラス分けが書いてありそうね」
「たしかストーリーではA組でしたよね?」
「ええ、主要人物はほぼA組に集まっていたわ」
原作の通り、クラス分けの立て看板には6つに分けられたクラスが書かれていて、同じ学園に通う一部の先輩や後輩、教師以外の攻略対象はA組に集まっていた。
「あ、A組に私達の名前両方ありました!」
「これで一安心ね、急いで教室に行きましょう」
「はい!」
急ぐとは言っても先程までのように走ったりはせず、少女らしく令嬢らしくおしとやかに速歩きする。
「ヘレン、目立たないように、攻略対象たちとは極力会話を避ける方向で行きましょう」
天馬が言い聞かせるように小声で囁く。
「はい」
「もし話しかけられても告白されても、ヘレンの中身が違うと疑われない程度に躱すのよ」
「はい」
「何か行動を起こす場合は事前に私に相談しなさいね」
「了解です」
「では気を引き締めて頑張りましょう」
「頑張りましょう!」
――そして二人は扉を開け、本格的にゲームが始まる舞台へと足を踏み出した。




