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 「…っふぅぅぅ」


 長い荷物運びも終わり、もう外はすっかり夜だ。



 手伝ってくれた清掃員(?)たちも帰っていったので、深く息を吐き、ソファに沈むように身を預けながら、新しくなった部屋を見渡す。



 家具もワンランク質が上がってソファもベッドもふかふか。


 部屋の広さも、前世の自室の七倍はある。


 何より嬉しい点は部屋に風呂が付いていること。


 女子生徒は階数別に時間帯をわけて大風呂に入るのが普通らしいのだが、流石の陸人も何食わぬ顔で女子たちの裸体を見れる自信は無く、罪悪感が半端なかったので凄く助かった。



 (――ん…?)



 入り口の他にも一つ、目立たぬように鎮座する扉がもう一つあった。


 (んだあれ?)


 形はおかしいがクローゼットか何かだろうかと思って近づき、開けてみる。





 「「――…うわッ!」」


 扉を開けるとクリスティーナがいた。


 あちらも向こう側からこの扉を開けようとしていたのか、手を前に出した状態で静止している。


 (びっっっっっっっっっくりしたぁぁぁ…)


 天馬も自分と同様に驚いたらしく声が重なったのだが、心臓に悪いので本当にやめてほしい。


 「え、まってなんでいんの?」

 「お前こそタイミング絶妙すぎんだろ…」


 天馬はもう令嬢らしい笑顔など抜け落ちていつもの仏頂面になっている。


 (うん、こいつとのフラグは気のせいだな…)


 天馬の顔に、陸人の心臓は微塵も動かない。


 (……あれ?生きてるんだから動いてねぇとおかしいか?)


 陸人の心臓は微塵も動じない。に訂正しておく。



 「あ、俺の部屋って天馬が変えたんだよな?」

 「おう、良い部屋だろ」

 「めっちゃ良い部屋だけどさ、早すぎね?」


 天馬の行動力と適応力は化け物並か、と逆に呆れてくる。


 「早いに越したことはないだろ」

 「そりゃな…」


 寮の部屋の近さで、話し合いやすさは段違いに変わる。


 「で、その扉なに?」

 「あー、俺の部屋と隣だから行き来しやすいように中も扉で繋げたんだよ」

 「は!?」


 いったいどこにそんな時間と労力があったと言うのだろうか。


 いくら公爵家と言えど、上に掛け合って人一人の部屋割りを変えてもらうだけでも相当な時間を使うはずなのに。


 陸人は初めて、目の前にいるこの男が恐ろしいと感じた。



 「……扉はどーやって?」

 「魔法って便利だよな」


 (そいえばこのゲーム、魔法の世界だったな)


 「なるほど…?」


 ならば魔法使いを雇って魔法で部屋の壁をぶち抜き、扉をくっつけたのだろうか。


 それでも十分すごいと思うのだが。






 「……てかさ、お前この世界に慣れんの早くね?」


 陸人も大概だが、天馬はそれ以上に冷静に先を見据え、やるべきことをやっていた。


 異常すぎるほどに。



 「……」

 「早く家に帰りたいのは分かる。俺も不安だしな、でも焦っても仕方ねーだろ?」


 家のことを思い浮かべたのか、天馬の顔が小さく歪む。


 「いざという時失敗しないためにも、肩の力抜いて、一人で頑張ろうとするな。言ってくれればできる限りは俺も手伝うから」


 天馬が下を向いて、何かをこらえるように手を握りしめる。


 「ほら、笑顔が一番大事だぞ?暗い顔なんかしてっと運が逃げちまう」


 普段の天馬なら嫌がるだろうが、今はあまりにも無防備なのでグシャグシャと頭をかき混ぜるように撫でてやる。



 「元気出せってのは無理だろうが、そう落ち込むな。なんてったって俺は100%家に帰る気満々だからな!つまり一緒にいるお前ももれなく家に帰れるってことだ!」


 ニカッと笑ってドンと自分の胸を叩く。


 ポジティブという一言で済ますには自信に溢れすぎたその言葉に、天馬も思わずといった風に笑った。


 「ふはっ、…………サンキュ」



 そして天馬は自らの頬を両手で勢いよく叩いた。


 バチンと大きな音がなる。


 「うわ痛そ…急にどしたよ!?」

 「弱気になってる場合じゃなかったな、すまん」

 「…おん」

 「陸が頼りになるかは別として、それなりに心強い相棒だな」


 そう言って天馬は不敵に笑う。


 「はは、言うじゃんか。ま、調子が戻ってきたようで何より」



 いつも可愛げのない仏頂面で、不安げに下を向いている天馬は天馬じゃない。


 自分の相棒は、喧嘩が強くて、少し人を馬鹿にするのが得意で、何より妹たちが大好きな、そんな天馬だ。


 でもまあ、たまになら弱気になってくれたって構わない。


 相棒として、親友として。彼を励ますのはいつだって自分の役目なのだから。



 「……ありがとな」

 「当ったり前じゃん」


 天馬が小さく二度目のお礼を言った。


 普段から礼をあまり言わない天馬が2回も素直に感謝したのが新鮮だったが、そこを指摘するとたぶん拗ねるので笑顔で返答し、小さな感動はそっと胸にしまう。




 「……明日は授業初日だから早めに寝るか」


 ちょっと気まずくなった空気から逃れようと天馬が話題を変える。


 「そっか今日が入学式って設定だったもんな」

 「ああ、ストーリー通りクラスは一緒になるはずだが念の為一緒に登校しよう」

 「そだな…あ、寮に来る前攻略対象っぽいのいたんだけど、攻略とかしたほうが良さげ?」


 青い庭園にいた金髪のイケメンを思い出す。


 「あー、それはいいや」

 「えっなんで?」


 天馬は家に帰るための方法は全て虱潰しらみつぶしにでもやると思っていた。


 「一人の好感度をMAXまで上げたくらいで帰れるほど甘くはねぇだろうし、全員の好感度を上げるなんて器用なことお前にはできねぇだろ?」

 「できねぇな」

 「どうせ駄目になる努力はするだけ無駄だろ」

 「たしかに!」


 陸人は内心ホッとした。


 あんな真剣に手伝うと言った手前、天馬に攻略をお願いされたら本気でイケメンたちとの胸キュンライフを送らねばならなくなるとこだったのだ。


 (安心安心…)



 「じゃ、おやすみ。明日一応起こしには来るけど自力で起きろよ」


 陸人は朝に弱いのだ。天馬は幼馴染なので身にしみて分かっている。


 「おう!おやすみ」

 「…おやすみ」






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