表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/17

第7章

 

「なるほど。それで二年前に第一王子殿下が王太子に決まったのね。第二王子が王立学院に入ったことで、本人だけでなく側近にも優秀な人が付かなくなると決定したようなものだもんね。

 もしかしたら、セリーナ様の嫌がらせって、第二王子殿下や第二王妃殿下の逆恨み?」

 

「そうだと思う。セリーナ様が第二王子を選んでくれたら王太子になれたのにって」

 

「ちょっと待って! そもそも第二王子殿下はここの入学試験に落ちた時点で、第一王子殿下に負けてたじゃないの。しかも第一王子殿下はトップ合格だったったというんだからなおさら!」

 

 本人の能力の無さで王太子になれなかったというのに、何故セリーナ様を逆恨みするのか、エルディアにはさっぱりわからなかった。

 

「第二王子からすれば、セリーナ様に弄ばれて精神的ショックを受けたから勉学に身が入らず、王立学園に落ちた。

 だから自分が王太子になれなかったのは、自分の愛を受け入れなかったセリーナ様のせいだと言ってるらしいわよ。

 国王陛下に却下されても、個人的にセリーナ様にアプローチしてたみたいだからね」

 

「えーっ、何それ。

 そもそも失恋くらいで入試に落ちるような人、いや、それを他人のせいにするような人に、国王や王太子になってもらいたくないんだけど」

 

 エルディアは呆れと怒りで震えた。人間だから失敗を誰かのせいにしたくなる気持ちもわからないではない。

 しかしたとえそう思ったとしても、それを実際に恥ずかしくもなく人に言うか!とエルディアは思った。

 しかし、さすがに第二王子も堂々と人前でそれを言ったわけではなく、従者に愚痴っていたのを、ラミレのすぐ上の兄がたまたま聞いていたらしい。

 

「兄がその話をすぐに父親に報告していれば、セリーナ様が虐められたり、もしかしたら王太子殿下が毒を飲まされるのも防げたのかも知れない。

 だって国の方じゃ、第二王子が学園に落ちた時点で王太子にはもうなれないと本人達が諦めたに違いないって勝手に判断してたのよ。そして油断していたから、結局あんなことになったのよ。

 

 エルディーとヴァートマン公爵令息があの場にいなかったら、王太子殿下はどうなっていたかわからないわ。

 そしてレイモンド殿下が王位に就かなかったらこの国は終わりよ。兄だってそう思っていたはずなのに、まったくもう。

 だから、あの事件のことを知った兄はさすがに落ち込んだわ。いくら能無しでも、まさかそこまで馬鹿だとは思わなかったって」

 

 エルディアはラミレと兄の関係を測りかねた。だから話の続きを促した。すると、ラミレはちょっと悲しい顔をしてこう言った。

 

「うちは十人兄弟なの。なにせ父親には第三夫人までいるからね。特殊任務で家を留守にすることが多くて、子供を作りにくい環境だから特例なんだって。

 それにほら、子供が多い方がその子供を駒として利用できるから便利でしょ。ほんと忠犬よね。

 でもさすがに第三夫人の存在がばれたら、あそこは特殊任務の家だってことがバレバレでしょ。だから第三夫人の存在は隠されているの。

 兄と私はその第三夫人の子なんだけど、戸籍上兄が第一夫人で私は第二夫人が産んだ子供になっているのよ。

 

 私は幼い頃には既に見放されていたから慣れっこになっていたけど、優秀だった兄は学園の試験に落ちた時に初めて挫折を知ったの。

 そして長年の夢だった王宮勤務の夢を断たれて絶望したのよ。

 でも兄に能力が無かったわけではなく、入試の日に高熱を出して、まともに試験が受けられなかったせいなんだけどね。

 

 それなのに、

『体調管理もできないような者など所詮駄目人間だ。そんな出来損ないを王宮の大事な職務に就かせるわけにはいかない』

 と父親が言い放ったの。

 それで兄はすっかりやさぐれてしまって。だから、第二王子に同病相哀れむ的な感情を抱いてしまったのかも。兄と第二王子とじゃ根本的に違うと思うんだけどね」

 

 全くだ。たった一度運が悪く熱を出したくらいで、それまでの努力の全てを否定され、未来が潰されてしまうなんて、この国、この社会はおかしい。そしてもちろん親達もだ。そうエルディアは憤った。

 まあ、第二王妃みたいに現実が全く見えず、不出来な息子を溺愛し過ぎて、子供のためなら平気で人殺しをしようとする化け物の存在も、到底許せないと思ったが。

 

「兄から第二王子の話を聞いた時、私は兄のことを思い切り小刀の柄で殴ってやったわ。

 そしてエルディーの話をしてやったの。私の親友は、姉のスペアでも必死に努力し、その役目が終わってもその努力を無駄にせず、たとえ感謝されなくても他人のためにその力を使ってるのよ。

 しかも、今も絶え間なく努力し続けている。私はそんな彼女を心から尊敬しているって。

 だから、兄様もまた昔のように妹に尊敬される人になってと……」

 

 エルディアの頬に涙が流れた。

 

『親友……ラミレもそう思ってくれていたんだ。私の中では親友だとそう思ってはいたけれど、もし違うと言われたらショックだから口にできなかったけど……

 あれ? また涙が溢れてる。

 私はこの生徒会室では本当によく泣くなあ』

 

「私の話を聞いたら兄もようやく奮起してくれたの。

 そしてそれまで見聞きして書き留めていたノートを報告書代わりに、自分の父親とは違う官僚に手渡したの。自分は父親に信用されていないから相手にされないと思ったみたい。

 

 受け取ってくれた人は父親のライバルだったみたいだけど、兄のノートを元にすぐさま本格的な調査に入ってくれたらしいの。第一王子殿下の過去のいくつかの暗殺未遂事件についても。

 今までは第二王妃については、隣国の元王女だということもあって、国は遠慮して目を瞑っていたみたいなの。

 だけど、あちらの国の体制が今かなり不安定になっているみたいで、もうそろそろ第二王妃を切り捨てても構わないと上は思っているみたいよ。

 ほら、元々あの方は国や国民の役に立たっていない上に、大層な浪費家みたいだから」

 

「そうなんだ。それは良かったわ。あの方が失脚すれば、もう王太子殿下が命を狙われることもなくなるものね。

 それにしてもラミレのお兄様大活躍ね。これでお父様も見直して下さるんじゃないの?」

 

「いやいや、むしろ酷く腹を立ててるわよ。我が家のライバルに手柄を譲り渡した裏切り者だって。

 でも、そのライバルの方が兄をとても気に入ってくれて、養子に欲しいとまでいってきてるのよ。

 まあ、兄がどうするのかはわからないけれど、そう言ってもらえただけで嬉しいって兄は素直に喜んでいるわ。初めて人から認められたって」

 

 ここでもう一つ手柄を立てたら、間違いなくラミレの兄は王城で取り立ててもらえるのではないか。そう考えたエルディアは、ラミレにこう提案をしてみた。 

 

 読んで下さってありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ