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第5章


「ランスの婚約をどうやって令嬢方は知ったんだ? 僕だって今の今まで知らなかったのに」

 

 王太子が眉間にシワを寄せて尋ねた。そして、

『親友だと思っていたのに何故黙っていたのだ』

 とブツブツ口の中で呟いていた。

 

「それはランス様が先生方の補助をするお仕事を辞められたからですよ。

 奨学金を貰っているはずの貧乏学生、ごめんなさい、ランス様。

 ……のはずのランス様が小遣い稼ぎを辞めたのは、きっとお金持ちのご令嬢との婚約が決まったからに違いない、そう彼女達は思ったようなのです。本当に失礼な話ですが」

 

『失礼じゃありません。それは事実です。我が家はお金に物を言わせて、ランス様という宝玉を手に入れたんです。ご令嬢方、本当に申し訳ありません』

 

 セリーナの話を聞きながらエルディアは、ランスを慕っていたというご令嬢方に心の中で謝罪をした。

 それにしても、女性の勘の鋭さに同じ女性として彼女は驚嘆していた。

 

「『お金に物を言わせて婚約を迫るなんて、なんて卑しい女なの!』

 と、ご令嬢方は妄想を膨らませ、どこの誰とも分からない、いるかどうかも定かじゃないその婚約者に向かって、罵詈雑言を放っていたらしいのです。

 聞くところによると、それはそれは聞くに耐えない酷い罵り様だったそうです。

 ですからランス様は、もしエルディア様がご自分の婚約者の妹だと知られてしまったら、きっと同じ様な酷いことを言われ、辛い目に合わされるのではないか、そう危惧されたのだと思います」

 

「セリーナ嬢の仰る通りです。でもそのせいで、今度は実の妹のように思っている彼女を表立って助けることができなくて歯痒く、情けなく思っていました。

 だがらエルディアを生徒会に入れようと思ったんです。ここでなら彼女と気兼ねなく会って話ができるし、同じ生徒会メンバーとして守ることもできるのではないかと。

 

 彼女は入試のトップ合格者だったので、勧誘しても不自然じゃないと思ったのです。

 ただし新入生の勧誘担当者として、自分の身内を入れることに後ろめたさもあったので、皆様にはお話しできませんでした。それは申し訳なく思っています」

 

「まあ、結果オーライということでいいんじゃないですか。

 どうせ殿下やセリーナ嬢も彼と同じように、彼女を守ろうと生徒会へ迎えようと思っていたのでしょう? もちろん僕もそうですが」

 

 ジョンスタットの言葉に王太子とセリーヌが頷いたので、エルディアは驚嘆してしまった。

 

 エーッ、私を守るために皆様生徒会に迎え入れて下さったのですか!と。

 

 それまで姉や屋敷の者達以外から、こんなにも思われたことがなかったエルディアは、感極まって泣いてしまった。彼女が人前で泣いたのはそれが初めてのことだった。

 

 次第に生徒会のメンバーは、エルディアにとって姉と使用人を除く、もっとも大切な人達となった。そしてこの生徒会室も彼女にとって特別な場所になった。図書館よりも自分の部屋よりも。

 いつしかエルディアは、授業時間以外はほとんど生徒会室で過ごすようになった。もちろんランチもそこでみんなと一緒に取っていた。

 

 

 

 そして学園に入学して三月ほど経ったある日の朝、エルディアは学園内がざわついていることに気が付いた。

 そこで隣の席のラミレに何かあったのかと聞いてみた。

 ラミレはまるで綿菓子のようなフワフワ綿毛の愛らしい女の子だ。しかし性格はまるて男の子みたいにさっぱりしていて、エルディアとはとても気が合っていた。エルディアは勝手に彼女を自分の親友にしていた。

 

 エルディアがラミレと親しくなったきっかけは、もちろん席が隣だったから。

 しかしそれだけでない。ラミレはとにかく忘れ物が多かったのだ。そのために、隣にいたエルディアは度々ラミレに物を貸す羽目になって、否応なしに接触する機会が多かったのだ。

 

「ほら、新入生歓迎パーティーの時に事件があったでしょう? あ、エルディー(エルディア)もその場にいたんだっけ? あの時問題を起こした人達に、昨日処分が下りたんだって」

 

「エーッ? 今頃? あれから二月以上経っているじゃない」

 

「それだけ慎重に調べていたんじゃないの。王族が絡んでいたんだから」

 

「王族か。でも、セリーナ様って王太子殿下の婚約者じゃないわよね?」


「うん。王太子殿下とセリーナ様はなんの関係もないはずだよ。だけど、別の殿下が関係してるみたいよ」

 

 と、ラミレ。

 ん?別の殿下……

 つまり言い換えると違う殿下?

 ちがう…でんか、でんか…ちがう、

 

()()()()()()?」

 

 エルディアが急に大きな声を上げたので、ラミレが驚いたように目を見開いた。

 

「どうしたの?」

 

「実はね、セリーナ様が王太子殿下の婚約者とか婚約者候補だとかいう、いい加減な噂がどうして流れたのか、私はそれに疑問に感じて以前調べてみようとしたのよ。

 そうしたら王太子殿下がヒントを一つくれて、そのヒントの意味がわかるまでは絶対に一人で調べてはいけないって厳命されたの。

 その時出されたヒントが『でんかちがい』だったのよ。でも、そのヒントの言葉の意味自体が全くわからなくて。

 だけどそのうち色々忙しくなって、すっかりそのことを忘れていたの。だけど今やっとそのヒントの意味がわかったのよ」

 

 エルディアが興奮しながらこう説明すると、ラミレは周囲をよく見回してから、抑えた声で言った。

 

「エルディー、声小さくして!

 王太子殿下が調べるなって言ったのは正しいわ。だって王家の闇が関わっているんだから、関わったら本当に危ないわよ。

 前に殿下が貧血で倒れたっていうのも、あれ、本当は毒かなんか飲まされたんでしょ?」

 

 エルディアはギョッとしてラミレを見た。何故それを知ってるんだ。箝口令がしかれ、噂にもならなかったのにと。

 

「ここじゃなんだから、ランチの時一緒に生徒会室へ行ってもいい? あそこなら安全だと思うから」

 

 ラミレの言葉にエルディアはコクコクと頷いたのだった。

 

 そして午前中の授業が終わるとすぐ、エルディアはラミレを連れて生徒会室へ行った。すると、運良く部屋には今日はまだ誰も来ていなかった。

 

「恐らく、みんなは王族関係者用の部屋で作戦会議中だね」

 

 とラミレが言った。

 

「作戦会議? なんか怖いね」

 

「冗談抜きに怖いよ」

 

「ねぇ、なんでラミレはそんなことを知ってるのよ」

 

 午前中、エルディアはずっとそればかり考えていて、注意力散漫だと何度も教師に叱られてしまった。

 

 ラミレはエルディアと同じ伯爵令嬢だ。しかし彼女の父親は宮廷貴族で、高級官吏らしい。やっぱり王城勤めだから、王家の内情にも詳しいのかしら?とエルディアは推測した。

 エルディアの父親は国の薬剤研究所の所長とはいえ、王城勤務ではないので情報網が違うのかも知れないと。

 しかしまあ父親だけでなく、主席研究員である母親にしたって専門馬鹿で、彼らが王家のことだけではなく、世事には全く興味がないから知らないだけ、という可能性の方が大きいとは思ったが。

 読んで下さってありがとうございました!

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