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第4章


「婚約者でも婚約者候補でもない? それならどうしてセリーナ様は苛めに遭っていたのですか?」

 

「彼女が苛めに遭っていたなんて、あの新入生歓迎会でのことが起こるまで僕は知らなかった。彼女はそんなことは一切言わなかったし、悩んでいる風もなかったからね。

 それに何度も言うが彼女は僕の婚約者でも婚約者候補でもなかったのだから、王家の保護対象ではない。当然彼女に対する報告などは僕にはあがらないんだ」

 

「なるほど」

 

 とエルディアも納得した。婚約者でも婚約者候補でもない一女生徒である侯爵令嬢のことを態々王家が守るはずがない。

 それを聞いて正直彼女はホッとした。王太子殿下が自分の婚約者が虐められていても無視、あるいは気付かないような方ではなくて良かったと。

 

「殿下がセリーナ様とはなんの関係も無いことは理解しました。ですが、それなら何故セリーナ様は虐めに遭っていたのでしょうか? セリーナ様には殿下以外の方との噂などないのに。

 確かにセリーナ様は才色兼備の素晴らしい方ですから嫉妬もされるでしょう。けれど、あれはどう見ても恋情からくる嫉妬ですよね?」

 

 すると、王太子は少し考え込んでからこう言った。

 

「今調査中だが、何か政略的な悪意を感じる。君はあまり関与しない方がいい」

 

「でも気になるんです。だって大切なお友達のことなんですもの。

 それに私、気になることは徹底的に調べないと気が済まないんです」

 

「それって、とても危ない思考だから絶対に直した方がいいよ。

 藪をつついて蛇を出すという諺があるだろう。そんな性格じゃ、今までも結構危ない目に遭ってきたんじゃないのか?」

 

 何故か殿下の眉間にシワが寄った。確かに子供の頃、親に無断でカーニバルで賑わう王都の街に出かけて、とある事件に巻き込まれたというか、自ら首を突っ込んだことはあった。しかし、危険な目に遭ったのはその時くらいだとエルディアは思った。

 そこで、カーニバルでの出来事以外は正直に答えることにした。

 

「薬草探しに領地の森を彷徨っていたら、狼やら熊に襲われかけたことはありました。

 でもまあ、狼除けや熊除けグッズをいくつも持参していたから、簡単に追い払うことができて無事でした。

 私、気が小さくて臆病で怖いのは苦手なんです。だから敵の情報がないと怖いです。

 でも予め敵を知らべておけば対処ができます。だから私は、いつも準備万端で行動しているので大丈夫なんですよ」

 

 エルディアはドヤ顔でそう言ったが、それを聞いたレイモンド王太子の顔は青褪めた。

 

「何も教えないと君が勝手に行動を起こしそうで怖いから、ヒントを一つだけ出す。あの件は『殿下違い』なんだよ」

 

()()()()()()?」

 

 意味がわからずエルディアがキョトンとしていると、レイモンド王太子は深いため息をついて、小さな声で何か呟いたが、ヒントに気を取られていた彼女は聞き取ることができなかった。

 

「どこが気が小さくて臆病なんだよ。怖い物知らずのくせに……」

 

「何か言いましたか?」

 

「いいや。とにかくヒントは出したんだから、このヒントの考察だけをしていてくれ。絶対に単独行動をするなよ」

 

 殿下はそう言うと、珍しくエルディアより先に図書館から出て行ったのだった。

 

 

 そしてその後、エルディアは数日間そのヒントについて考えていたのだが、何も思い浮かばなかった。

 そもそも「でんかちがい」という言葉はどこの国の言葉なんだろうか。それさえわからず悶々とした。

 

 しかし答えを見つける前に忙しくなって、彼女にはそのことを考える余裕がなくなってしまった。

 というのも、なんとエルディアは姉マルティナの婚約者であるランスの推薦で、恐れ多くも生徒会役員になってしまったからだ。

 

「生徒会の会計係は新入生の女子から選ぶのが通例なんだ。しかも成績上位者の中から。

 だから今年は君が適任者だと思うんだよ。やってくれないだろうか。帰りが遅くなったら、僕がちゃんと責任を持って君をティナ(マルティナ)の元に送り届けるから」

  

『屋敷ではなくて姉の元へですか。殺し文句ですね。まるで私が姉の宝物か何かみたいじゃないですか…』

 

 エルディアは嬉しくなって、ついついその場でそれを承諾してしまった。

 そして早速ランスの後をついて生徒会室へ行ってみると、そこにはなんとなじみの顔ばかり揃っていた。

 

 

 生徒会長は三年生のレイモンド王太子。

 副会長は三年生のランスと、二年生のジョンスタット。

 そして書記が二年生のセリーナと一年のヴィット子爵家令息のホーランドだった。

 そう。ホーランド以外は、これまで図書館限定で話のできる方々だった。

 

「貴女が生徒会に入ってくれて嬉しいわ。もう図書館で小声でボソボソ話さなくても済むんだもの」

 

 セリーナにそう言われて確かにそうだなとエルディアは思った。

 そもそも図書館は静かに本を選んで読んだり、調べ物をしたり、勉強するところで、友人とひそひそ話をする場所ではないのだから。

 

 それからというもの、エルディアは暫く図書館通いを中断し、昼休みも放課後も生徒会へと足を運んだ。

 そして主にランスから教えを受けながら、会計を始めとする生徒会の様々な仕事を覚え、それをこなすようになっていった。

 そしてエルディアが生徒会に入って半月くらい経った頃、生徒会長の王太子から唐突にこう尋ねられた。

 

「ねぇ、何故君は何でもまず最初にランスに尋ねるんだい?」

 

 その質問の意味がわからず、エルディアはコテッと首を傾げながらこう答えた。

 

「何故かと聞かれても……そうですね、ランス様が私の指導係だからですかね?」

 

「ランスが君の指導係って、一体誰がそう決めたの?」

 

「誰?」

 

 そういえば、誰だったかしらん?とエルディアは思い出そうとした。しかしはっきりは覚えていなかったので、こう答えた。

 

「えーと、ランス様の推薦で生徒会へ入ったわけですから、当然ランス様が私の指導係なのだとばかり思っていました。でも違うのですか?」

 

「違うよ。そもそも君に生徒会に入ってもらいたいと考えていたのは、僕やジョン(ジョンスタット)、それにセリーナ嬢だったんだからね。それなのに、ランスが僕らに一言も相談なく出し抜いただけなんだからね」

 

 殿下の言葉にジョンスタットとセリーナも頷いている。へぇーそうだったのか。それは知らなかったとエルディアは驚いた。ところがそれはランスも同じだったようで……

 

「ちょっと待って下さい。そんなこと僕は知りませんよ。大体殿下達がエルディアと顔馴染だったなんて、エルディアが生徒会に入った時に初めて知ったのですから」

 

「「「アーッ! 呼び捨てにしているぞ」」」

 

 王太子を始めとする男子三人が叫んだ。彼らの反応に驚きながらも、ランスはため息を一つついて冷静にこう言った。

 

「皆さん何か誤解しているようですが、エルディアは来年僕がここを卒業したら義妹になるんですよ。僕が彼女の姉と結婚するので」

 

「だからランス様はいつもエルディア嬢を送っておられるのですね」

 

 一年のホーランドはなるほどと頷いていた。しかし、王太子は何故かホッとしながらも、まだ少し苦々しい顔でランスにこう尋ねた。

 

「それなら何故もっと早くその事を我々に言わなかったんだ? 

 それにそもそも入学直後、エルディア嬢が色々と嫌味や悪口を言われていたのに、どうして君はそれを見過ごしていたんだ?」

 

 するとランスが答える前に、セリーナが彼を庇うようにこう言った。

 

「それは私達と同じじゃないかしら、殿下。なまじ目立つ私達が人前で接触すると、彼女が却って苛められるんじゃないかって」

 

 彼女のその言葉にランスが頷いたので、セリーナはそのまま言葉を続けた。

 

「男性の方々はご存知なかったかも知れませんが、一年ほど前ランス様が婚約したという噂が流れて、一時期騒然となったことがあるんです。

 

 殿下とランス様はジョンスタット様が入学するまでは、我が学園の双璧と女生徒達から呼ばれていたというではないですか! 

 今じゃトップスリーというありきたりの呼び名で呼ばれていらっしゃるけれど。

 

 あら、話がズレましたわね。まあ呼び名はともかく、お二人はそれはもう人気があったようなんです。あら、今もそうですわよね。

 でもこう言っては誠にお二人に失礼なのですが、殿下はあまりにも雲の上の存在過ぎるので、実際にお付き合いするのは難しいでしょう? 

 でも、ランス様とならばお付き合いできる可能性があるのではないかと、密かに狙っているご令嬢方が多かったようなんです。

 だからこそ、昨年ランス様が婚約したという噂が広まった時、大騒ぎになったようです」

 

 セリーナの話を聞いてエルディアはブルッと身震いした。そして姉が王立女学院に通っていて良かったと心底思った。

 もっともあの夢見がちな姉のことだから、もしかしたら虐められたり嫉妬されることも、却って面白がったかも知れない。しかしもしそんな事態になっていたら、婚約者のランスの精神の方が持たなかっただろう、とエルディナは思った。

 ランスは普段婚約者であるマルティナをクールにあしらってはいるが、その実べた惚れだってことを彼女は知っていたから。

 読んで下さってありがとうございました!

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