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プロローグ

 


 ──懐かしい夢を見た。


 子供の頃、どこかの森の奥で剣の訓練をしていた時の夢だ。白いワンピースを着た女の子が、大きな木の下で隠れるようにして泣いている。俺はゆっくり近付いて、彼女に話しかけた。


「だ、大丈夫?」


 プラチナブロンドの髪が揺れ、顔を上げた彼女と目が合う。ルビーのような真っ赤な瞳は涙でキラキラと輝いていた。その美しさに一瞬目を奪われるが、すぐに我に返って言葉を続けた。


「どうしたの? なんで泣いてるの?」


 女の子はぐすぐすと鼻を鳴らすばかりで答えようとしない。俺は慌てて周りを探し、近くに咲いていた赤いポピーの花を手折る。


「ほ、ほら! この花あげるから元気出して!」

「…………きれい」


 女の子は鼻声で呟くと、ポピーの花を受け取ってくれた。


「ねぇ、どうして泣いてるの?」


 俺の問いに少しは警戒心を解いてくれたのか、への字に歪めた口が開く。


「い、糸、切っちゃった」

「……糸?」

「す、すごく大事なものだったの。なのに、わた、わたしのせいで、ダメになっちゃって」


 糸? 一体なんの? う~ん、よく分からないが何か大事なものを壊してしまったらしい。女の子の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちる。俺はオロオロしながらどうにか泣き止んでくれないかと思考を巡らせた。


「正直に言って謝ればいいんじゃないか? わざとじゃないんだろ? きっと許してくれるよ」

「ダ、ダメなの。切っちゃったんだもん。切ったら元に戻らないんだもん」


 俺は云々と唸りながら一生懸命考える。そして、パッと思い付いた。


「そうだ! 結び直せばいいんだよ!」

「……え?」

「切れたなら何度だって結び直せばいいんだよ! ほら、糸は結び直せば一本に繋がるだろ?」

「……結び……直す?」


 彼女は呆気に取られたようにポカンとした表情で俺を見ている。


「そう! ……まぁ、結び目とか出来て見た目は悪いかもしんないけど……でも一本は一本だ! そうだなぁ……他の色の糸と結び直して新しい糸を作るのも面白いんじゃないか?」


 今思えばずいぶん適当なことを言っている。彼女の涙を止めるために思い付いた、その場しのぎの言葉。


「……結び……直す」


 もう一度小さく呟くと、次の瞬間彼女はふわりと花が咲いたように笑った。そして、俺の目をしっかりと見つめる。


「……ありがとう」


 その可愛らしい笑顔は、俺の目に焼き付いていつまでも離れてくれなかった。



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