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7話 幸せな日々

 ゲームでのミルラは、エルシオの婚約者として、ヒロインを苛め倒す悪役令嬢ポジション。


 しかし、その手口はあまり賢いものではなく苛めぬいていたことがかなり早い段階で判明し、エルシオから怒りを買って、そのまま婚約破棄を突きつけられる。


 彼女はものすごく残念な子で、その残念ぶりにはある種のいじらしさすら覚えるほど。


 だけど、そんな彼女の意地悪があってこそ、ティアとエルシオの愛は育まれるのだ。


 それなのに、まさか、ゲームが始まる前にあっさりと退場……!?


 あまりにもゲームから逸れると、エルシオ様が幸福なハッピーエンドに向かうことに支障をきたすのでは……!? それはマズい!!


 焦った私は、エルシオ様に詰め寄った。


「お、お待ちください……! たしかに今回のミルラ様の行動は褒められたものではありませんが……流石に罰が重すぎるのでは? ミルラ様のお立場からすると、私を快く思わないのも当然のことですし……」


「元よりあの馬鹿女と仲を深める気はさらさらなかった。今回のことは、奴を遠ざける良いきっかけとなったといえよう」


「そ、そんなっ!」


「というか……何故、あの女の一番の被害者と呼べるお前が、あいつのことを庇う?」


 エルシオ様からねめつけられて、ぐっと言葉がつまる。


 あまりにもゲームから逸れてしまうと、貴方が運命のお相手と結ばれるうえで支障をきたすかもしれないからです! だなんて、口が裂けても言えない。


 うううむ。


 ここで前世やゲーム云々に触れず、言い逃れをするのは、至難の業すぎる。


「う、うーん……まぁ、エルシオ様には、もっとふさわしい方が現れるでしょうし、ちょうど良かったのかもしれませんね」


 ミルラ様を庇ったゆえに、エルシオ様から怪しまれては本末転倒も良いところ。


 ちょっと予想外な展開にはなったけれど、最終的に、エルシオ様とヒロインが結ばれればオールOK! 


 多少のシステムエラーも、運命の赤い糸でつながれているお二人ならば乗り越えられるはず!!


「…………ん? あらわれ……?」


「あっ! こちらの話ですので、お気になさらず!」 


 彼は首を傾げたものの、私が持ってきた絵本を目にするや、それを早く読もうとせがんできた。


 やっぱり、前から絵本が気になって仕方なかったんだなぁ。


 口の端が緩んでしまう。


 少しからかいたい衝動に駆られたけれど、やっとのことで素直になってくださったのだ。本日はその素直さに免じて何も言うまい。


 私たちは顔を寄せ合って、同じ絵本を覗きこんだ。



 ついに、エルシオ様と、会話をかわせるようになってしまった。


 今の私は、世界一の幸せ者だと胸を張っていえる。


 会話をするたびに、今、私はこのお方に存在を認めてもらえている! と実感して、つい口元がゆるんでしまう。


 近頃は『何故、にやけている。気持ち悪い』と一蹴されるまでがお決まりのやり取りになっている。でも、ニヤけないなんて無理です、ごめんなさい……!


 遊び相手として認めてもらえるようになった今でも、彼は以前と変わらず口数は少ないほうだ。


 だけど、話す時はきちんと私に顔を向けてくださるようになった。


 絵本に夢中になるエルシオ様の瞳は星のように澄んでいて、そのあまりの眩しさにドキドキとしてしまう。


 ある日、私の視線を不審に思ったらしいエルシオ様が絵本から顔をあげて首を傾げた。


「む……? 私の顔に、何かついているか?」


「いえ。その夢中になって絵本を読んでいるエルシオ様の瞳があまりにも綺麗で……つい、見惚れてしまいました」


「ネリには、もう、何も隠さないと決めたからな」


 ああああ、あの柔らかな微笑! 本気で悶え死ぬかと思ったよ……!!



 そんな風に、正に天国とも呼べるような日々を送っていた最中で、ちょっとした事件が起こった。


 私とエルシオ様が、図書館に向かって並んで歩いていた時のことだ。


 女中さんが掃除したばかりのピカピカに磨き上げられた大理石の床にエルシオ様が足を踏み入れたとたん、彼が足を滑らせた。


 エルシオ様にもしものことがあったら死んでも死にきれない! と、素早く腕を伸ばしたものの、惜しくも間に合わず、彼は盛大に尻餅をついた。


 だけど、次に、さらに驚くべきことが待っていた。


 なんと、彼のズボンのポケットからカラフルな飴玉が滝のようにこぼれだして、白い床を虹色に染めてしまったのだ。


 な、何事……!?

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