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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

明日天気になーれ

作者: 黒石 アナ

懲りずに暗いの投稿です

 愛が欲しいのだと、心が呻いた。



 明日天気になーれ、なんて馬鹿みたいだ。

 誰とも知れぬ何かに縋って、思い通りにいかなければ癇癪を起こしたようにその縋ったものへと責任転嫁する。ああ、なんとも素晴らしい八つ当たりだ。


 だが、明日雨が降ってしまえば終わりを迎えるこの世界に、もう八つ当たるものさえ少ないけれど。


 そう、呻くわたしに向けられる憎悪が、今となっては心地いい。だって、誰かの心になれるならわたしの存在は確定するのだもの。こんなに素敵なものはない。


 いつかどこかの王子様が助けてくれる。

 そんな幻想、もう捨てた。そんな妄想、飽きるほどした。


 わたしは結局魔女のむすめ。魔女の子は魔女でしかない。

 王子様が助けるのはお姫様。王子様がやっつけるのは悪い魔女。


 知ってるわよ。そんなの、生まれた時からの呪詛だもの。


 生まれた時から、わたしの体には呪いが刻まれていた。どんな呪いかって?気になるんだ。なーんて独り言すら虚しいなぁ。


 わたしが生きることで、一年に必ず、誰かが生贄みたいに死んでしまうの。


 初めて気づいたのはね、いつだったかな。そう、6歳の誕生日だ。お祝いの日のはずなのに、どうしてか毎年その日だけみんな暗い顔をしているの。幼心に、不思議だなって。


 どうしてかしらって、思ったのよ。母に尋ねたわ。わたしは魔女の娘だけれど、貴族の認知児でもあったから、肩身狭く生きてきたのよ。


 そしたら、あっさり母は答えてくれたわ。「それは呪いだって」


 ひどいと思わない?6歳を迎えたばかりの娘に、お前のせいで毎年人が死ぬ、だなんて。そして、言うのよ。お前が生まれたお陰で、私はかの方の寵愛を受けれるって。だから呪い持ちのわたしを殺さなかったんですって。


 本当は、始めから殺されるはずだったの。呪い子なんて、生かしておいても百害あって一利なんてないもの。

 でも、母は愛されたかった。子を産んで、わたしの養父とうさまにわたしを捧げて、愛されたかったから。


 だから、わたしが生きてしまっているのは、二親のただの利己心のおかげって訳。そのせいでこんな事態を引き起こしたのだから、彼らにも責任はいくでしょうね。


 大量殺人なんて、しようと思ってできるものでは無いけれど、起こしてしまったのも事実は事実。わたしを生かした責任は、両親だけにして欲しいな。わたしを育ててしまった彼ら彼女らに罪はないもの。あの人たちだって、私のこと気味悪がっていたものね。


 でも、嬉しかったな、綺麗なお洋服を着て、美しい所作を学んで、ああ、わたし生きてるんだってかんじがした。

 それで、空くなったわ。本当にわたしは空っぽなんだって、事実を突きつけられてちょっと戸惑っちゃった。


 悲しいこともあって、苦しいこともあって、それでも私の人生は誰かに何かを残せたかって疑問を抱けば、なにも返ってはこないの。

 それがとても、辛い。


 だって、殺人鬼の記憶は残っても、わたしの記憶は残らないもの。わたしは最初から異端で、奇怪な魔女の娘になってしまう。


 王子様に恋をしたことも、親友ができたことも、ライバルがいたことも、友達をつくれたことも、今日が幸せだって思えたことも、明日が来ることを早く願ったことも。


 全部全部、なくなってしまうの。全部、わたしじゃないわたしのものになってしまう。


 それが心残り。いちばんの。

 だって、他のものすべて、殺してしまったから。愛したものすべて、自分で壊してしまったから。


 後ろを振り返ってももう遅くて、懺悔の言葉は届かない。

 だって、もう残ってない。


 意外と綺麗だった鉄格子越しの星空も、冷たい石畳も、粗末な貫頭衣も、無様に切られた自慢の赤髪も、誰とも分かち合えない。


 苦しいことなんて、もうないって思っていたのに。泣く権利なんて、わたしにはないのに

 涙なんて、忘れて生まれてきたかった。


 外ではしとしと雨が降る。

 濡れてしまえればいいのに、この身は自業自得だと許さない。

 

 今日はわたしが地獄に堕ちる日。みんなを殺した、わたしが死ぬ日。

 ああ、やっと逝ける。やっと会える。やっと、やっと…


 惨たらしく死ねる。

 わたしの罪を雪げるくらいの灼熱を、どうかこの身に。

 わたしの業を晴らすくらいの冷徹を、どうかこの身に。


 どうか、どうか殺して。自死をも許さぬ呪われたこの身に、正義の鉄槌を降して。

 誰が許さぬとも、わたしが赦すから。


 さあ、時間だ。

 優雅であれ。養父さまの言葉を思い出す。

 笑みを湛えて華のように、悪辣に。


 わたしは魔女だ。呪われた子だ。

 認めよう。そんなの、何度だって胸を張って認めてやる。


 だから、だからどうか神さま。

 もう絶対に、わたしみたいな呪い子を、産み落とさないで?

 わたしみたいな悲劇を、繰り返さないで?


 断頭台の前に立つ。

 願いをかけよう。これが呪詛だと言われようと、明日を願わずにはいられないから。

 わたしが壊してしまったものの再生を、思わずにはいられないから。


 


 明日、天気になーれ


 


 そうして、頸だけになった彼女は、やっと泣き止んだ。

暗かったですか、暗かったですか?暗かったですよねぇ。

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