2話 魔法少女☆スノープリンセス!
この世界には、魔法も異世界も存在しています。でも、魔法も異世界もあったって、こどもの日常は変わらないものなのです。
「ん・・・」
鳥さんの声が聞こえて、あたしは目が覚めました。時計を見て、ひと安心。今日はパパもママもお仕事でいなかったけれど、ちゃんと早起き出来ました。今日は日曜日だから、朝は『魔法少女☆スター・プリンセス』があります。
枕のところに置いていたスター・プリンセスの変身ステッキを持って、あたしはテレビのある1階に行きます。
「あらユキちゃん、おはよう、早起きねぇ」
「ばあちゃん、おはよー」
ばあちゃんはとっても早起きです。今日はママがいないから、ばあちゃんが朝ご飯を作ってくれていました。ばあちゃんのご飯はちょっと味がないけど、でもばあちゃんが炊いたお米はすごくふわふわだから大好きです。あたしは、ご飯のお皿とお箸を机に運ぶお手伝いをしました。
「・・・あ!ばあちゃん、テレビのピは?」
「はいはい」
いやー、危ないところでした。お手伝いをしているうちに8時になっちゃうところでした。ばあちゃんがテレビのリモコンをくれたので、あたしは急いでテレビを点けます。赤いボタンを押して、それから5番のボタンを押します。いつも見ているから、あたしはもう使い方はバッチリです。えへん。
『魔法少女☆スター・プリンセス』が始まりました!あたしは始まりのお歌も好きなので、一緒に歌います。
主人公の星野マキちゃんは、いつもは普通の女の子だけど、実はその正体は悪の組織ワール・インダーと戦う正義の味方、魔法少女スター・プリンセスなのです。スター・プリンセスはいろんな魔法でワール・インダーが生み出したたくさんのモンスターをやっつけて、町のみんなを助けてきました。でも、スター・プリンセスの正体はマキちゃんだってことはみんなには秘密にしなくちゃいけません。
でも、今日の悪者はいつもと違います。なんと、町のみんなが石に変えられてしまったのです。こんなことが出来るのはワール・インダーの”かんぶ”しかいません。
「あらぁ、大変ねえ・・・ユキちゃん、恐くないの?」
ばあちゃんが心配そうにしているけれど、あたしは恐くありません。だって、スター・プリンセスは絶対に勝つもん。
『ついに見つけたわ、あなたがワール・インダーの幹部ね!?よくも町のみんなを・・・ユズキ君を、石にしてくれたわね!絶対に元に戻してもらうんだから!!』
『フハハ、やっとお出ましか、スター・プリンセス。ここで俺と出逢ったのがお前の運の尽きよ。さぁ覚悟しろ小娘、これまで散々俺たちの邪魔をしてきたこと、たっぷり後悔させてやる!』
『覚悟するのはあなたよ!私は、絶対に負けない!!』
マキちゃんが変身ステッキを持ったので、あたしも変身ステッキのボタンを押しました。このステッキがあれば、あたしも一緒に変身出来るのです!スター・プリンセスと一緒に悪者と戦うのです!
『変身!スター・・・・・・プリンセぇぇぇス!!』
「へんしん!スノー・プリンセス!」
『先手必勝よ、食らえ!スターライト・スプラッシュ!!』
スター・プリンセスが、いきなり必殺魔法を使いました!ドカーン、と大爆発。でも、勝ったと思ったのに、煙の中から”かんぶ”が出てきました。
『そ、そんな・・・全力のスターライト・スプラッシュだったのに!』
『所詮はこどものお遊び。この程度の魔法じゃ俺にはかすり傷ひとつ付けられんぞ!今度はこっちの番だ!食らえぃ!!』
「ああっ!?スター・プリンセスがあしからどんどんいしになっちゃう!?ど、どうしようばあちゃん!?」
『そんな、このままじゃ・・・み、みんな、ユズキ君、私っ・・・!』
『さぁ泣いて後悔しろ!お前には誰も守れやしないのだ!・・・・・・む?なんだ・・・?』
『私は泣かない!強くなるって決めたの!!だから・・・だから、絶対に負けない!!みんなのこと、絶対に守ってみせるんだからぁぁぁぁぁ!!』
スター・プリンセスのステッキがピカーって光りました!こんなの初めて!
『これは・・・みんなの思いがステッキに集まってる!!』
『バカな、奴らは既に石になっているんだぞ!?』
『例え石になっても、みんなはあなたみたいな人より、ずっと強いってことよ!!ありがとう、みんな。私に力を貸して!!究・極・変・身―――!!』
『その姿は一体!?くそ、ここは一時撤退だ!!』
『あなただけは絶対に許さないわ!これが私の新しい必殺魔法、みんなの思いの結晶!アルティメット・スター・スプラぁぁぁぁぁぁぁッシュ!!』
『ぐええええええええ!!!!!!』
「わぁぁぁ・・・すごい!ね、ばあちゃん、やっぱりスター・プリンセスがかったでしょ!?アルティメット・スター・スプラぁぁぁッシュ!!」
「そうねぇ、格好良かったねぇ。そのステッキでも同じことが出来るの?」
「え?えっと、えっと・・・?」
いろいろやってみましたが、結局出来ませんでした。残念・・・とても残念。
朝ご飯が終わったので、あたしはお皿洗いのお手伝いをすることにしました。おうちのお手伝いは大好きです。いろんなことが出来るようになって、あたしもスター・プリンセスみたいになりたいからです。
●
「ユキちゃん、厳三のお散歩がてら、お買い物行こうか」
「はーい。ゴンゾー、おいで!」
「ばう」
ゴンゾーを呼んで、あたしはばあちゃんとお買い物に出かけました。もちろん、変身ステッキも一緒に持っていきます。だって、なにかあったらあたしがばあちゃんとゴンゾーを守らないといけないんですから!
ばあちゃんと一緒にお買い物に行くときは、いつもお昼ご飯もお外で食べます。
「ばあちゃん、きょうはどこでおかいものするの?」
「あっちのスーパーに行くのよ」
「なにかうの?」
「お夕飯のお買い物と、あと厳三のご飯と・・・・・あ、そうそうお風呂洗剤がなくなりそうだったわねぇ、ありがとうユキちゃん、おかげでばあちゃん思い出せたわ」
「えへへー」
「今日はちょっといつもよりおうち出るの遅かったから、先にご飯にしましょうね」
スーパーに着く前のレストランに着きました。ゴンゾーにはお外で待っててもらいます。そういえば、なんでレストランにはイヌ用のご飯はないんだろう?あったら一緒にご飯食べられるのにね。
ばあちゃんは、いつも優しいけれど、あたしと2人のときはもうちょっと優しいです。例えば、レストランでご飯のあと、デザートも食べさせてくれたりします。今日もイチゴパフェをお願いしたら、オッケーしてくれました。
でも、パフェが来てびっくり。
「わぁ・・・!?」
「あらあら、ユキちゃんのお顔とおんなじくらいおっきいわねぇ。食べきれる?」
「だ、だいじょうぶだもん!」
あたしは、ステッキでスノー・プリンセスに変身して、頑張ることにしました。
パフェは甘くておいしいです。でも、てっぺんにあったおっきいイチゴは最後のお楽しみにしました。
「・・・お、おなかいっぱい・・・」
「まぁそうなるわよねぇ。良いわよ、残しちゃって。仕方ない仕方ない。あら、イチゴは食べなかったの?」
「さ、さいごのおたのしみ・・・」
このイチゴを残すわけにはいきません。あたしは最後の力を振り絞って、イチゴをスプーンで取りました。
「あっ」
でも、イチゴが転がって、床に落ちてしまいました。
「あらあら」
「さいごのおたのしみ・・・」
悲しいけど、あたしは泣きそうになるのを我慢しました。魔法少女☆スノー・プリンセスは、スター・プリンセスと一緒で強い子なんです。だから、こんなことで泣いたりしないんです。泣きたくなったら、代わりに笑うんです。
そうしたら、店員のお姉さんがイチゴを拾って、「ちょっと待っててね」と言いました。あたしがどうしたんだろうと思っていると、お姉さんがお皿を持って戻って来ました。
「はい、新しいイチゴ、どうぞ。泣かなくて偉かったね」
「・・・!ありがとうございます!」
「どういたしまして。次は落とさないように気を付けてね?はい、フォークもどうぞ」
優しいお姉さんは、次のお客さんのところに行ってしまいました。あのお姉さんも、もしかして魔法少女だったのでしょうか?
「笑う門には福来たる。良かったわね、ユキちゃん」
「・・・?どうしたの、ばあちゃん?」
「強い子には必ず良いことがあるのよ」
●
お腹がいっぱいでちょっぴり眠かったですが、スーパーに着きました。幼稚園とか公園よりもおっきなスーパーです。またゴンゾーは入り口でお留守番です。暇じゃないかな?
あたしは、ばあちゃんの代わりにカゴを持ってあげようとしましたが、重いからカートを使うみたいです。だから、あたしはなにもしなくて良いみたいです。カートはおっきくてあたしじゃ押せないし、なにか他にお手伝いすることはないのかな?
ばあちゃんは、買うものを選ぶとき、ちょっと時間がかかります。
「なんでばあちゃんっていつもえらぶのおそいの」
「全部おんなじに見えるかもしれないけどね、実は良いのと悪いのがあるのよ。例えば、ほら、こっちとこっち比べてみて?どう?」
「えー・・・こっちがちょっときいろい?」
「正解、さすがユキちゃん。実はね、黄色いお野菜はあんまり新鮮じゃないのよ?」
「・・・?じゃあカボチャってすごくしんせんじゃないの?」
「うーん、カボチャはちょっと柔らかくなってるのが、新鮮じゃないのよ」
「むむむ・・・?」
「お野菜ごとに見分け方が違うから、ちょっとずつ憶えようね」
さすが、ばあちゃんは物知りです。
「ユキちゃん、そろそろお菓子選んできても良いわよ?」
「ホント?じゃあ行ってくる!」
「はいはい、走っちゃだめよ?後でお迎えに行くからね」
「はーい!」
あたしは言われた通り、歩いてお菓子売り場に行きます。
でも、実はもう欲しいお菓子は決まっています。スター・プリンセスのカード付きのお菓子です。もしかしたら、今日の新しいスター・プリンセスのカードが入っているかもしれないからです。だから、お菓子売り場に着いてすぐ、あたしはスター・プリンセスのお菓子を『どれにしようかな』で選びました。多分、この”シークレット”が今日の究極変身のスター・プリンセスに違いありません。
「おかぁさーーーーん!!」
あたしが他のお菓子も見ていると、いきなり、男の子の声がしました。男の子は、お菓子売り場を出てすぐのところにいました。たぶん、あたしの方がお姉さんっぽい感じです。声にはビックリしたけれど、あたしはすぐに男の子に話しかけました。
「きみ、どうしたの?」
「・・・おかあさんがいないの」
「まいごだよね?だいじょうぶ、あたしがなんとかしてあげる!」
「ほんと?」
「まかせて!だってあたしはまほうしょうじょスノー・プリンセスなんだから!」
あたしは男の子に変身ステッキを見せてあげました。そう、あたしは困っているみんなを助けてあげる魔法少女なのです。スター・プリンセスみたいになるには、この迷子の男の子のことも助けてあげないといけません。
「ね、じゃああたしについてきて!」
「うん・・・」
「こういうときはね、”サービスカウンター”に行くんだよ!」
「さーびすかうんたー?」
「そう、”サービスカウンター”!」
・・・・・・ってどこだっけ?
で、でも大丈夫です!!お店の中にあるのは間違いないので、あたしは男の子と手を繋いであげて、一緒に”サービスカウンター”を探すことにしました。
一緒に歩いていて、安心してくれたのかな。男の子が、あたしに話しかけてきました。
「ねぇ、おねえちゃんって、がいこくじんさんなの?なんでかみのけとおめめがみずいろなの?」
「にほんじんだよ!?みずいろなのはね、ほら!」
あたしは、掌に魔力を集中しました。魔法陣っていう光の輪っかを作ります。これが魔法です。
「おねえちゃんまほうできるの?」
「えへん。だってもうしょうがくせいになるんだよ。これくらいできるって」
「こおりだ!」
「みずいろなのはね、こおりのまほうがつかえるからなんだよ」
「へー!・・・・・・あっ!!」
男の子が、急にあたしの手を放して走ってしまいました。
「おかあさん!!おかあさん!!おかっ、いたいっ!?」
よかった、お母さんが見つかったみたいです。でも、男の子は、走ったせいで転んでしまいました。膝からちょっと血が出ていました。痛そうです。あたしは、すぐに男の子のことを起こしてあげました。
「だいじょうぶ!?はしったらあぶないんだよ!」
「ぅ、うっ、うぇ・・・」
転んだ男の子を見て、男の子が追いかけていた女の人が振り返りました。でも、男の子は悲しそうな顔をしました。
「おかあさんじゃないぃぃ!!おかあさーん!!」
「だいじょうぶだよ、はやくたって。あたしがなんとかしてあげるってば」
「いたいよぉ・・・」
「うーん・・・いたいのいたいのとんでいけー!ね、ほらいたくない!だからなかないで!」
あたしは、男の子のケガしてるところを魔法で冷やしてあげました。前、あたしが公園で転んだときは、こうしたら少し痛くなくなったからです。ママには危ないからダメって言われていたけれど、今はたぶん、仕方なかったと思います。それに、ちゃんとうまく出来ました。
また、あたしは男の子と手を繋いであげました。男の子がかわいそうだから、もっと急いであげないといけません。
レジがあるところの近くに来て、あたしはついに”サービスカウンター”を見つけました。カタカナで上に書いてあるから、絶対そうです。
「すみませーん!まいごなんですけどー!」
あたしは、サービスカウンターにいたおばちゃんに話しかけました。おばちゃんは、すぐに気付いて来てくれました。
「なんだか元気な迷子ちゃんね。って、あらあら泣きそう、だいじょうぶ?」
「あ、まいごなのはこっちのこだけです」
「あ、そーなの。ぼく、恐かったね、アメちゃんいる?」
「・・・うん」
おばちゃんは、あたしにもご褒美でアメをくれました。それから、おばちゃんは男の子の名前を教えてもらって、お店の中でお知らせしてくれました。きっと、これで解決するはずです。
「お姉ちゃんも頑張ったね。偉い偉い」
「えへへ。だってあたしはまほうしょうじょスノー・プリンセスだもん・・・って、あ、あれ・・・?」
「どうしたの?」
「ない!へんしんステッキない!」
あたしの変身ステッキがありません!どこかに落としちゃったみたいです!どうしよう、せっかくパパとママに買ってもらったのに。泣きそうになると、男の子が心配してくれました。
「おねえちゃん、だいじょうぶ・・・?」
「うん・・・だいじょうぶだよ!」
でも、あたしは大丈夫。だって、ステッキがなくたって、あたしはスノー・プリンセスだから。男の子のことを放ってはおけません。だから、泣いたりしません。悲しくても笑います。
「だいじょうぶだよ!”わらうかどにはふくきたる”?だよ!つよいこにはかならずいいことがあるんだよ!だからきみもわらってたら、すぐにおかあさんきてくれるよ!」
「うん・・・」
男の子は、ちょっと泣きそうな顔で笑いました。あたしも笑いました。笑っているから、あたしも男の子も強い子です。だから、絶対に良いことがあるはずです。
それからすぐに、男の子のお母さんが来てくれました。さっき男の子が追いかけた女の人と服が似ていましたが、でも、とても優しそうな女の人でした。
「スノー・プリンセスのおねえちゃん、ありがとう!」
「つぎはまいごにならないでね!」
男の子のお母さんにも「ありがとう」を言ってもらえました。男の子に手を振って、あたしは見送りました。
「それで、お嬢ちゃんのお父さんとお母さんは?お嬢ちゃんのこともお知らせする?」
「えーっと・・・ばあちゃんが・・・」
そういえば、ばあちゃんはお菓子売り場に迎えに来てくれると言っていました。でも、あたしは今”サービスカウンター”にいます。それに、ステッキも探しに行かないといけません。だから”サービスカウンター”で待っていられません。ということは、もしかして、あたしって自分で迷子になっちゃったのでしょうか?どうしたら良いんだろう?
「大丈夫ですよ、今、見つけましたから」
でも、そんな心配は要りませんでした。
「ばあちゃん!」
「はいこれ、きっとユキちゃんが落としたんだと思って、ばあちゃん拾ってきたわ」
「ステッキ!やっぱり”わらうかどにはふくきたる”だね!」
●
おうちに帰りながら、あたしはばあちゃんとゴンゾーと一緒に、お店であったことをお話しました。
「ばあちゃん、あたしね、まいごのおとこのこをたすけてあげたの!」
「そうなの?頑張ったねぇ」
「えへへ~。だってあたしはまほうしょうじょスノー・プリンセスだもん!こまってるひとをたすけてあげるのはあたりまえなんだよ!」
「あらあら。そうだったわねぇ、ふふふ」
フ。リキュアをマジメに視聴したことのない作者には女児向けアニメの展開がちゃんと描けたのか全く自信がないのです。
次回更新予定:8月16日(日)




