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22.エターナル

「ヒスイ、しっかり!」


 ジェイドが顔を強張らせて私へ駆け寄ろうとするけど、魔王の大剣が阻む。失うことへの恐怖が強く表れていて、私は嬉しくなってしまった。


(ありがと、ジェイド……)


 魔王が放った炎の矢。完全に意識の外だった。私は膝をついたまま動けない。


「ヒスイ!」


 喉が裂けそうなほどジェイドは叫んでいて、私は薄く笑う。


(ごめんね)


 その瞬間、私の輪郭はぼやけて消え、本当の私が剣を魔王の背後から突き刺していた。


「ぐっ……なっ」


 突然のことに魔王は呻き声を上げ、ジェイドと鍔迫り合いをしたまま振り向いた。驚愕し、苦々しく歪んでいる。


陽炎ミラージュか……」

「そうよ」


 光と火の混合魔法で、幻影を見せることができる。ただ実態はないから、飛んでくる矢に合わせて幻影の中に炎を出し、それで固定した。その間私はこの部屋が真っ白なのを利用して、光魔法で真っ白な結界を張り潜んでいたんだ。


「ヒスイ……そんな闘い方ができるようになったんですね」

「ジェイド、私が頭使ってないみたいな言い方はやめて」


 失礼してしまう。今魔王を貫いている剣だって、硬い鎧を通すことはできないから剣を極限まで熱して、それで鎧を溶かした。だから魔王は焼かれるような痛みを感じているはずだ。こういう小細工みたいなものは、一人で旅をしている間に身に着けたもの。


「くそっ……」


 魔王は動こうにも、前はジェイドに剣で押さえられ、後ろは私がいるから動けない。


「魔王、もうあなたの役割はこれで終わりよ。安らかに眠って」

「……黙れ。この世界に何の意味がある。現実世界のメモリとして作られ、管理される世界。そんなもの、滅べばいい」


 魔王としてプログラムされ生み出された彼が、彼らが辿り着いた一つの考え。その虚しさと憤りは、勇者である私には少しわかる。きっとジェイドにも。


「それでも、私はマスターの一人だったから。この世界への希望を覚えてるわ。エターナルは永遠に、平和で幸せな世界になってほしい。魂の楽園に。……だから、私はこの世界を守って、平和にする!」


 私はさらに剣に魔力を込め、最後の呪文を口にした。


「永遠の消失エターナル・エリミネイション


 その言葉と同時に私は剣を手放し後ろに跳びのく。ジェイドも急いで距離を取り、魔王は剣を抜こうとするがすでに剣は形を保っていない。剣は強烈な光に変わり、魔王は飲み込まれるように徐々に消えていく。そして体が半分消えた魔王は、私を睨みつけて凄絶な笑みを見せつけた。


「勇者! 人がいる限り、平和など訪れはしない。せいぜい高みの見物でもしておくさ!」


 その言葉を最後に、魔王は掻き消えた。残ったのは静寂と真っ白な世界。


「終わった……」


 魔王の最後のセリフは、皮肉にも正しい。現実世界もエターナルも争いは絶えないし、今だって私は魔王を滅ぼした。


「ヒスイ、お疲れ様です」


 ジェイドに気遣った声をかけられ、近づいて来たと思ったら優しく抱き寄せてくれた。水魔法を使ったせいで、ジェイドの服と髪は少し湿っている、その冷たさが闘いでの高ぶりを冷ましていった。


「ジェイドも、お疲れ様」

「……無茶はやめてください。本当に、心臓に悪かったんですから」


 背中に腕が回り、抱きしめられる。ジェイドの髪が私の頬に、肩にかかって閉じ込められているみたいだ。


「ごめんね。それから、ありがとう」


 ジェイドを見上げると、彼は安心しきった顔をしていて、優しく頬を撫でてくれた。


「これで、長かった旅も終わりですね」

「うん。魔王も勇者も、いなくなった……だから、最後の仕上げをしないと」


 私は名残惜しく思いつつも、ジェイドから離れると静かに深呼吸をして、エターナルに呼びかけた。


「マスターオーダー。メンテナンス状況確認」

「……メンテナンス完了しました。空き容量は500年相当です。これに伴いメインシステムも回復し、アークプログラムの修復も完了しました」


 機械の声だけどスラスラと返って来た。これが本来のエターナルシステムで、私はよかったと安堵の息を漏らす。私たちが創ったエターナルが帰って来た。


「すごいですね。まるで魔法です」


 ジェイドは現実世界の技術を知らないけど、それでもその変化をすごいと感じたらしい。


「これから、さらによくするのよ。……アークプログラムを再起動、実体化」

「アークプログラム、実体化します」


 その声が聞こえると同時に、目の前に光が集まって来て徐々に人の形を取っていく。色がつき、まつげまで鮮明に見えるようになるとパチリと目が開いた。最初は焦点が合わずにぼんやりしていたけど、私に目を留めた途端、泣き出しそうな顔になる。


「マスターたまき!」


 手を広げて飛び込んできたアークを、私は親のように抱きとめる。といっても、中性的なアークは私より少し身長が高いから、娘というよりお姉さんだ。


「アーク、今までありがとう」

「マスター! お会いできてうれしいです。それにエターナルを救ってくださり、ありがとうございます」


 実体化したアークは人と変わらない温かさと柔らかさをもっている。私は子供をあやすように、ゆっくり頭を撫でた。彼女はここで1人エターナルを良くしようと頑張って来た。1人で、1000年も……私なら発狂してしまう。

 そこに、私たちの再会を微笑ましい顔で眺めていたジェイドが優しい声をかける。


「あなたがアーク様なんですね。お会いできてよかったです」


 もう一人いたことを思い出したアークは、気恥ずかしそうに私から離れてジェイドに顔を向けた。


「先代の勇者様ですね……エターナルのために戦い、マスターを救ってくださったことを感謝します」

「いえ、こちらこそエターナルを導いてくださり感謝しております」


 ジェイドが丁寧に言葉を返して、軽く頭を下げると、アークは申し訳なさそうに眉をハの字にする。


「いえ……私はこの世界を平和にはできませんでした。悲しみばかり生み出して……メンテナンスをすることすらも」


 アークは、再び映りだしたエターナルの映像に視線を向ける。その横顔から罪悪感と寂しさが見えて、私は思っていたことを提案した。


「ねぇ、アーク。私ね、もうエターナルに管理者はいらないと思うのよ」


 アークは驚いた顔をしていて、私をじっと見ていた。驚きの中に、消されるの? という不安が見えて、私は慌てて付け足した。


「そりゃ、メンテナンスをする人はいるわ。でも、もう神を演じなくてもいい……あのね。私はアークにエターナルを生きて欲しいの。私たちと一緒に作ったエターナルを」

「私が……生きる?」

「ヒスイ、そんなことが可能なのですか?」


 アークもジェイドも信じられないと言いたそうな顔をしているけど、どこか期待しているようにも見える。


「うん。エターナルは、どんな魂も受け入れる。アークも魂の一つよ」


 私は泣きそうになっているアークに微笑みかけ、「どう?」と優しく問いかけた。遅すぎる話だとも思うし、責任感の強いアークはここに残りたいのかもしれない。でも私は、エターナルで、人と一緒に生きて欲しい。


「マスター……本当に、いいのですか?」

「うん。全て任せて」


 アークはあふれ出した涙を指でぬぐい、力強く頷いた。


「私、夢だったんです。ずっとエターナルを見ていて、彼らと言葉を交わして暮らしたかった」

「うん……だから、これが創造神の最後の仕事ね」


 少し不思議そうな顔をしたアークに、私はいたずらを計画する子どものように笑って、話し始めた。


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