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21.勇者の共闘

「イマージェンシー。侵入。メインコントロールに侵入者あり」


 アークから警告音が発せられ、機械の声が響く。禍々しい雰囲気を纏う魔王は、ジェイドの体に入っていた魔王ともまた違った。紫色の髪は短く、青い瞳には闘志をみなぎらせている。大剣に負けない屈強な体で、鎧があるためさらに大きく見える。何よりも、圧が違う。


「あれが……私の中に入っていた魔王」


 私はじわりと嫌な汗を背中に感じ、腰の剣を抜いた。勇者の剣は魔王を感知してビリビリと震える。


「でもなぜ今になって出てきたのですか?」


 魔王と対決してジェイドを救った時、プログラムにより勇者の私に次の魔王の魂が入れられた。それは5年後に私の体を乗っ取るはずだった。ジェイドは魔王を挟み込むため、私から距離をとって回り込んでいく。

 魔王は私たち二人を品定めするように上から下まで見ると、鼻で笑った。


「転生勇者に先代勇者……前のやつらはあっさり負けやがって。まぁ、魂に干渉する剣は反則だな」

「何でそれを知っているのですか」


 この魔王が知るはずのない情報に、硬い声でジェイドが問う。魔王は何かを探すように顔動かし、アークに目を留めるとニヤリと笑った。


「何でって、魔王は今までの記録を閲覧可能なんだよ。……しっかし、俺に命令していた神様ってのは、ずいぶんちっぽけな存在だったんだな。……さっさと殺して俺が神になることにするわ」


 魔王は胸の前に左手を突き出すと、瞬時に炎を練り上げ凄絶な笑みを浮かべて呪文を唱える。嫌な予感がして、床を踏み切った。


強奪の炎(ハック・フレイム)


 空気を取り込んで燃え上がる炎がアークに向けて放たれると同時に、その軌道上に体を滑りこませて、飛んでくる炎を上から叩き斬る。アークを背中で守るように立ち、剣先を魔王に向けて睨みつけた。あの炎はただの炎じゃない。エターナルにはないプログラムを乗っ取る術式が組み込まれていた。


「あなた……何者?」


 魔王は愉快そうに唇を舌で舐め、突き出したままの左手に炎を灯す。それは五本の指に集まり、小さな炎の玉になっていく。


「魔王はコントローラーの権限を持ってんだよ。俺達は人間を滅ぼし、エターナルをリセットするように作られてるからな……けど、世界を回すパーツになってたまるかよ。俺達はずっと狙ってたんだ。神を滅ぼし、エターナルを乗っ取れる日を! 強奪の炎(ハック・フレイム)!」


 魔王は左手を薙ぎ払い、5つの玉を飛ばす。玉はバラバラの軌道を取ってアークへと向かっていった。


「アーク!」


 私が聖なる結界を張ってアークを守れば、ジェイドが魔王の背後から斬りかかった。ジェイドは長剣で、速さと重さのバランスが取れた一撃を繰り出す。


「転生者でもない先代はお呼びじゃねぇんだよ」


 魔王は振り返りもせずに、肩に担いでいた大剣を少しずらしてジェイドの剣を受け止めた。そして首を回して口端を上げると、左足を前に滑らせて右手だけで大剣を振りきる。ジェイドは力に押されて後ろに跳び、右足を後ろに引くと腰を低く落とした。右手に持った長剣を引き、突きあげた左手で魔法を展開させる。


氷の矢(フローズン・アロー)


 指先の空気が氷になったと思えば、次の瞬間には氷の無数の矢が降り注ぎ、魔王は剣を盾にして身を守った。私はジェイドが魔王の気を引いているうちに、アークに駆け寄って状態を確認する。今のアークはホログラム状態だから、物理的な攻撃は効かない。だけど、パソコンと同じでハッキングやウイルスには弱い。


(一応その辺りの対策もプログラムに入れてたけど、どこまで作動するかわからないし)


 私は結界を維持しながら、アークの前に立った。今は安全なところに移すしかない。


「マスターオーダー。アークのプログラムを解除し、緊急メンテナンスを開始」


 それに修復もしたいし、アークがいたら思うように戦えないからちょうどいい。


「マスターオーダー受領。アークプログラム、終了します。メンテナンスを開始、再起動にはマスターコードが必要です」


 その言葉を最後に、アークは電源が切れたようにプツリと姿を消した。


「ヒスイ!」


 ジェイドの焦り声と共に殺気が飛んできて、魔王が迫っているのを感じる。私は振り向きざまに剣で魔王の一撃を受け流そうとした。私の剣は細身の中剣。まともに受ければ剣が折れかねない。


(重いっ!)


 軽く刃を交えただけで、衝撃が肩へと抜けて掌がしびれた。衝撃を受け流してこれだから、まともに受けたら肩ごと持って行かれそうだ。威力を殺しきれなくて、私は弾き飛ばされた。


(あぁ、もう! 筋肉に物言わせて! マッスンがいれば盾になってくれるのに!)


 床で一回転し勢いを殺すと、すぐに踏み切って左から斬り上げる。ちょうどジェイドも反対側から薙ぎ払おうとしていた。剣が左右から迫っていて、魔王に逃げ場はない。


(もらっ……うわっ!)


 いけると思った瞬間足元から火柱が上がり、熱風に襲われて思わず剣を引き、結界を壁のように張って魔王と距離を取った。ジェイドも氷の壁を作り、一度間合いを取っている。

 魔王は私たちに視線を滑らせ、嘲笑うかのように口角を吊り上げた。


「神がいなくてもお前らを消せば、さっき言ってたお前のマスターコードを使って好きにできるからいいか」

「そんなのさせるわけないでしょ!」


 ということは、魔王は私の中で全て聞いていたことになる。マスターコードは最初、声と共に登録され、強力な鍵となるよう作られていた。だがマスターが死ねば、コードは受け継がれる。


「強奪するだけだ」


 魔王は大剣を両手で持つと、剣に炎を纏わせてぶん回した。熱風と共に炎を刃が飛んできて、私たちは斬って避けてと動き回る。大剣は威力が強いけど、重くて大きいから動きは遅く大振りになる。逆に長剣のジェイドは、攻撃を受け流しつつ反撃を狙えるし、動きが軽い私は隙をついて間合いに滑り込むことができる。


炎の矢(フレイム・アロー)!」

氷の矢(フローズン・アロー)!」


 魔王が剣先から放った炎の矢と、ジェイドが指先から放った氷の矢が宙で相殺され、その下では甲高い金属音が響く。ジェイドが斬りかかれば、魔王は剣身で受け押し返した。


「勇者といっても、大したことはないな」


 魔王が鼻で笑うい、その態度にイラっとする。


「うるさいわね!」


 その隙に背後から私が突こうとすると、体がズレ目の前に足が迫っていた。その回し蹴りを屈んで避け、転がって距離を取ると炎の矢を放ってジェイドを援護する。


「ヒスイ、ありがとうございます」

「当然よ!」


 ジェイドと一緒に闘っていた時の感覚が戻って来て、なんだか嬉しさを感じてしまった。


(またいっしょに闘えるなんて、思ってなかった。やっぱりジェイドの剣はきれい……)


 ジェイドが剣を振るえば紺青の髪が宙を舞い、動きは洗練されて無駄がない。まるで水が流れているような美しさと気品を感じた。対する魔王は炎のように苛烈で、ジェイドが近づけないように、息つく間もなく剣を振るう。ジェイドはそれを全てギリギリで避けていった。


「逃げてばかりだな、弱腰が」

「脳筋はお黙りください」


 魔王が剣を振り下ろすと炎の刃が床を這うように進み、ジェイドはそれを待ち構えて踏ん張ると、剣に氷を纏わせて横一文字に振り払った。炎と氷がぶつかり、大量の水蒸気が衝撃に乗って広がり、ジェイドの髪も巻き上がる。


「剣筋からお坊ちゃまなのがバレバレだぜ?」


 魔王は挑発するように剣を肩に担ぎ、余裕ぶった笑みを見せる。逆にジェイドの横顔は険しくて、根気強く間合いに踏み込む時を待っているように見えた。


(戦いの主導はジェイドに任せて、私は一点突破)


 魔王の闘い方を注意深く観察し、かく乱するためにタイミングを計って魔王に斬りかかる。いつしか魔法より剣での闘いになっていて、鋭い剣戟の音が絶えず、火花が散った。激しく荒い戦い方の魔王、その合間を流れるように切り結ぶジェイド。私は姿を隠しながら、そこに生まれる間に飛び込み、魔王の首を狙う。調和のとれた音楽のように、淀みなく技の応酬が続いていく。


(でも、絶対にどこかで崩れる)


 そして魔王といえども疲れはくる。特に大剣を振り回し、一度に二人を相手しているのだから消耗は早いはずだ。


(それに、この魔王は強いけれど場数を踏んでいるわけじゃない)


 力が強いことは認めるけれど、本当の強敵から感じる死線を潜り抜けた気迫がない。二人の剣戟の応酬は激しく、距離を取ってはまた再開される。徐々に魔王の息が切れ始め、体の軸が揺らいだ瞬間を逃さずに突っ込んだ。剣を私の体で隠して忍び寄る。


(もらった)


 ジェイドも崩れたところを追撃していて、魔王の意識はジェイドに向いていた。私は剣に魔力を込めて全身でぶつかるように突き出す。私の剣は魔王を貫く、はずだった。


「……え」


 視界の隅に一瞬赤いものが映った気がした。そしてそれが何か理解するよりも先に、それは私を背中から貫いて目の前に飛び出す。


「ヒスイ!」


 紅蓮の矢。その先が胸から出ていて、私は膝から崩れ落ちた。


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