1.反逆の最終地
私には前世の記憶がある。そう言ったら、前の世界じゃ驚かれるし、変人扱いされたと思う。でもこの世界、エターナルではそう珍しいことでもない。石を投げれば転生者にあたると言われているくらいで、時代や世界が違う記憶を持った人たちが集まってる。
私はニホンという国から来たけど、前の自分の名前や姿、経験はあんまり覚えていない。ただ、街の景色や日本の食べ物、文化はよく覚えていた。これが中途半端で、ピアノが弾けたり作曲が出来たりしたなら重宝されるけど、私は記憶があったところで生かすこともできないんだよね。
今の私はヒスイ。金髪で、肩口でふんわりとカールしている。ニホンは黒髪の国だったから、ちょっと嬉しい。瞳は名前と同じ翡翠色。きれいな瞳だったから、そう名付けられたって。クリっとした可愛い目が私の自慢。
前世より今の私の自我の方が強いし、あっちで読んだネット小説みたいな反応はできなかった。素知らぬ顔でものすごい術を使ったり、この世界にない知識を使って周りを驚かせたりしたかったと思ったこともある。別に前世の記憶があっても生活に支障はなかったし、平凡な村の家に生まれて平和に生きていた。
でも、運命は残酷というか、私は勇者になってしまった。勇者として魔王を倒そうとしたのに、世界に裏切られ、真実を知ってしまった。だから私は世界に反逆するために、神を止めて世界を変えるためにここに来たんだ。
ここは、エターナルという世界を管理する神がいる場所。
神なんてたいそうな人がいる場所なのに何もなくて、ただ白い空間が広がっていた。でも、感じる。目の前には見えない壁があるって。一歩向こうからは世界が違うような気がしていた。
「この先に、彼女がいるんだ……」
やっと長い戦いが終わると思うと、悔しさや憎しみがあふれ出しそうになる。私は知らないうちに拳を握りしめ、何もない空を睨んでいた。
(絶対に、ジェイドと二人で元の世界に帰る。世界を、元に戻すの)
そう決意していると、握りしめた拳が温かい掌で包まれ、隣に立つ彼を見上げた。私の隣に立ってくれているのはジェイド。私の命の恩人で、師匠で……恋人。私たちは顔を合わせ、一つ頷く。互いの片耳につけられた翡翠のピアスが揺れた。
(やっとここまで来たんだ。この先にいる神を止めれば、この世界は救われる)
心臓の音が大きく聞こえる。緊張している自分が、なんだかおかしい。
「ヒスイ。覚悟はいいですか」
ジェイドに名前を呼ばれたら、気が引き締まった。私は勇者の証である剣の柄に手を添え、力強く頷く。いつだって闘う準備はできている。
「もちろん。このために、今まで生きてきたんだから」
今までたくさんの犠牲が出たし、復讐鬼のようになったこともあった。でも、それを救ってくれたのはジェイドで、今こうやって隣にいてくれることがとても心強い。
「行くよ」
私は深呼吸をして気を静めると、一歩を踏み出した。その瞬間、下から風が巻き起こり景色が一変する。
「何!?」
視界が村、山、街、魔王城と目まぐるしく切り替わり、情報量の多さに頭がくらくらする。
(なにこれ、気持ちが悪い……それに、なんだか知っている場所)
それは徐々に意味のあるものとなり、見知った人々が映りこむ。その懐かしい人たちに、胸が締め付けられた。
(みんな……)
そこに映る自分の姿はどんどん幼くなっていって、突如真っ赤な炎に包まれた。燃える村の中をさまよう私がいる。意識はその場面へと吸い寄せられていき、記憶の蓋が開く。
「助けて……」
まだ弱かった私はそう呟いていた。
(そう、私はあの時、そう強く願ったんだ)
流れ込んでくる景色は13年前、私が13歳の冬だった……。
この作品は、「あったかもふゆ企画」の一つです。同じ世界観、キャラを使って各々が好きに物語を作っています。皆さま味のある作品を書いていらっしゃるので、興味があれば下のリンクからお読みください!