第11話 会議(前)
「ふむ、厄介だな」
何時もの癖で独り言を呟く。
古くからいる下僕達と違い、国の重鎮達は俺の突然の独り言を耳聡く聞ききつけ、此方を注視してくる。
まあ王の言葉を無視するわけにもいかないから、当然と言えば当然の反応ではあるが。
因みに今は会議の真っ最中だ。
勿論、魔族との戦争の。
「どうかなされましたか?陛下」
ラグレは独り言の癖の事を知ってはいるが、立場上尋ね無い訳にもいかず、俺に聞いてくる。
何と答えた物かと一瞬思案し、漏らした独り言にしっくりきそうな話題をを放り投げる。
きっと誰かが喰いついてくれるだろう。
何せ国王の一言だからな。
「例の傭兵団だ」
ネッドの傭兵団は大活躍している。
ブルームーン王国に籍を置く傭兵団が活躍するのは、大変喜ばしい事だ。
だが籍を置くだけで、軍属では無い事が少々問題になっていた。
……という愚痴をラグレが零しているのを、先日俺の地獄耳で拾っている。
きっと何か問題があるのだろう。
良く分からんけど。
「確かにその件に関しましては、憂慮すべきかと存じます」
ちゃんとラグレが乗って来た。
うんうん、お前は出来る子だ。
よし、後は頼んだ。
「戦後の版図を我が国に出来るだけ有利にする為にも、活躍目覚ましい彼らを王国軍に編入する必要があります。ですが我が国に現在、徴兵制度は御座いません。少し強引ですが、やはり法律をこの機に変えてしまうのが宜しいかと」
成程な。
魔族を滅ぼせば当然魔族領が手に入る。
そしてそれは連合を組んでいる3国に分配されるわけだが、もちろん仲良く均等という訳には行かないだろう。
いかに多くの牌を掠め取れるかは、戦果が大きくかかわって来る。
どの国も出来るだけ多くの物を得たいと考えているはずだ。
今のままだと、他の国は国籍が何処であろうと傭兵団の成果は傭兵団の物だと、そう難癖付けてくるのは目に見えていた。
だから早い内に正式に軍に編入しておきたいという訳だ。
終戦直前とかでは、他国も納得しないだろうからな。
「いくら何でも、法をいきなり変えるのは強引過ぎるのでは?確かに彼らの活躍は目覚ましいと聞くが、現状そこまで目くじらを立てる程の影響はあるまい?」
ちょび髭がラグレの言葉に噛みつく。
名前は……忘れた。
まあ面と向かって噛みついたという事は、ラグレと同じ公爵なのだろう。
何名かの人間がちょび髭の言葉に「そうだ、その通り」と言った相槌を打ち、同意を示す。
現状ラグレは宰相兼、軍の総司令官も務めている。
当然それをよく思わない者も多い。
そういう輩は、ラグレの足を引っ張る事に御執心だ。
「確かに現状では、まだそれ程の影響力はないでしょう。ですがもし彼らが魔王の首を取ったとなれば、その時は……」
「ふん。いくら優秀とはいえ、少数の傭兵団が魔王の首を上げる事など考えられん。馬鹿馬鹿しい話だ」
馬鹿馬鹿しいと笑い。
ちょび髭が勝ち誇った顔を見せた。
とにかくラグレの上げ足を取りたいのだろうが、こいつは重大な事を見落としている。
それはこれが、俺の投げかけた議題だという事だ。
この話を否定する事は、王である俺の考えを否定する事になる訳だが……馬鹿なんだろうか?
まあ我が身可愛さに俺の説得に応じた奴らの知能なんぞ、こんな物か。
会議はそのまま白熱して続く。




