第6話 2000対8
「これは……シャレになってないっすね」
パールが魔法で辺り一帯の状態を確認し、その数に声を震えさせる。
「砦の辺りに、2000近くいるっす」
「お兄ちゃん達は……敵のど真ん中で囲まれてるみたい」
パールの情報にレーネの補足が加わる。
たった3人を2000もの兵力が取り囲んでいると聞き、想像以上の事態に軽く眩暈がした。
叩き潰すとか、そういう次元の話じゃねーな。
「流石に2000全部が襲い掛かってるわけじゃないっすから、辛うじて耐えてるみたいっすけど。絶対長くは持たないっすよ」
実際3人に2000でかかる等というのは、物理的に不可能だ。
一度に掛かれるのはどう頑張っても百が良い所。
残りは辺りへの哨戒を行なっていたりするのだろう。
「あなた、どうします?」
クラウさんが師匠に判断を仰ぐ。
普通ならば撤退だろう。
幾らなんでも5人で助けに入るのは無茶だ。
俺もまさかここまでの状態とは考えていなかった。
例えレーネの魔法があったとしても、かなり厳しい状況と言わざるを得ないだろう。
「ふむ。まあ普通なら仲間を見捨てて撤退だな。だが……傭兵団神の雷に仲間を見捨てるという選択はない」
「師匠……」
「何としても助けるぞ」師匠は俺達を見て真っすぐそう宣言する。
もう剣の腕なら俺の方が上ではあるが、それでもやはりこの人は俺の師匠だ。
俺はこの人の下で働ける事を誇りに思う。
「流石団長さんっす!サイコーっす!」
「あらあら、惚れ直しちゃうわぁ」
「ありがとうございます」
救出は満場一致。
反対意見を上げる者は居ない。
レーネはともかく、他の皆には大きな借りが出来てしまったな。
「私が砲台として外から魔法を打ち込み続けるわ。その間にネッドは兄さん達と合流して」
「分かった」
「じゃあ残りの面子はレーネの護衛をするぞ」
突っ込むのは俺一人。
これはまあ当然の判断だ。
他の面子と俺とではスピードが違う。
一緒に突っ込んでも、すぐばらばらになってしまうのは目に見えている。
それに強力な魔法には隙が付き纏う。
最大火力であるレーネを敵が真っ先に狙う事を考えれば、今の戦力ではこの形が最も理想な筈だ。
「「了解」」
返事と同時にパールが魔法の詠唱を始める。
彼女の手にした剣に炎と氷が宿り、辺りを明るく照らす。
それを彼女は俺に手渡し、腰に下げてある予備の剣を引き抜いた。
「松明代わりっす!」
「せんきゅう」
俺はこれから暗い森を突っ切る事に成る。
明かりがあるのは有難い。
まあ目立つから、同時に敵の的にもなってしまうがなんとでもなるだろう。
「準備はいい?」
レーネの魔法の詠唱が終わる。
その両手に握った杖には膨大な魔力が込められ、赤い炎と雷が、打ち出されるのを待ちきれないかの様に杖の周りでぱちぱちと弾けていた。
「全てを蹴散らせ!炎雷の嵐!!」
全員が頷くのを確認し。
最後に自らも頷いてレーネは魔法を解き放った。
放たれた炎と雷は複雑に絡み合い、暴力的な破壊が暗い森の中を貫く。
その凄まじい破壊力に、俺は一瞬唖然としてしまう。
だが直ぐに気を取り直して加速と命の代償を発動させその場から飛び出し、彼女の魔法が薙ぎ払った後を真っすぐに駆け抜けた。
待ってろテオード。
今助けてやるからな。




