第2話 再会(後)
「初めまして、私はレーネ。魔法使いよ」
「レーネ……時の魔女か……」
彼の目が私を厳しく射抜く。
その声も鋭く冷たい物へと変わった。
彼の突き放すかの様な反応に心を切り裂かれ、一瞬たじろぎそうになるが、私は平静を装う。
私は魔女として名を知られていた。
俗世に関わらない様にはしていたが、研究には設備や、それを用意する為の資材やお金が必要だ。
私は研究の為の資金集めとして、時にその力をもってして奇跡――人々から見れば転生チートは奇跡に等しい――を幾度か起こした事がある。
その結果、付いた呼び名が時の魔女だ。
「随分と……嫌われているみたいね」
「当然だろう。強大な魔力を持ち、長き時を生きる魔女……人々が魔族との戦争で苦しんでいるというのに、それに見向きもしない冷酷な魔女に良いイメージを持つ人間などいない」
本気で軽蔑している。
彼の眼差しは、そう如実に語っていた。
側にいる事さえ出来ればそれでいい。
特別になれなくとも、ただ側にいられるだけで良かったのだ。
あわよくばという気持ちが無かったかと言えば嘘になるが、例えその心がかつての様に私に向く事がなくとも、それでいいと思っていた。
けど……流石に、嫌われるのは辛い。
なんとかしないと。
何か言い訳を……
「わ、私にはどうしてもしなければならない研究があったから……他にかかずらわる余裕なんて、無かったのよ……」
嘘は言っていない。
最初の10数年は素直に女神の言葉を信じる事が出来た。
だけど長く生きれば生きる程、心の中に不安が募り出す。
やがて私は居てもたってもいられなくなり、保険を確立する為の研究に没頭するようになったのだ。
だが口にしてから気づく。
この理由だと、自分の事を優先して周りで苦しんでいる人達を放って置いた事に変わりはないと。
「どうやら、嘘はついていない様だな」
「え!?」
「相手が嘘を付いているかどうかは、見ればわかる。失礼な態度を取って悪かった」
彼の態度から、先程までの突き放す様な物が消える。
正直、今の理由で何故彼の態度が改まったのか私には良く分からなかった。
「人間誰にだって目指す目標や信念がある。それを優先させてしまうのはある程度仕方ない事だ。貴方にも事情があったんだろう?それに貴方の態度を見る限り、噂ほど冷酷な魔女にも見えないしね」
「私は……」
冷酷ではない。
その言葉が私の胸に突き刺さる。
本当にそうだろうか?
仮に研究をしていなかったとしたら、私はこの世界の人間を守るために、その力を振るっていただろうか?
そもそも、彼女の事を邪魔ものだと考えてしまった私は……
「俺の名はエリアル。エリアル・サーガ。傭兵だ」
「エリアル……」
それが今の彼の名。
私はエリアル・サーガという名を何度も心の中で反芻する。
「それで?時の魔女と言われる貴方が、こんな戦場に一体何の様なんだい?」
「勿論、それは――」
――此処から始まる、私と彼の新たな物語。
例えそれが非業に終わる運命だとしても、私は決して彼の側を離れないと誓う。




