第2話 再会 (前)
私は上空高くを飛翔する。
真っ直ぐに彼の元へと向かって。
眼下を見ると、戦場が広がっていた。
遥か昔から続く、魔族と人間との長きに渡る戦争。
それは終わる事の無い醜い歴史だ。
転生してから200年、私はそういった物には一切関わらず生きて来た。
興味がない。
というよりは、そんな事に構っている余裕など無かったというのが正しいか。
私はある研究に可能な限り、全ての時間を捧げて来た。
全ては彼と再会する為に……
別に女神の言葉を疑ったわけではない。
だが万一、いや、億が一にも手違いがあったらと考えると怖くて。
私は一心不乱に研究に打ち込んできたのだ。
まあ結局、私の不安は杞憂に終わり、費やした膨大な時間は無駄に終わってしまった訳だけど……
だが気にする程の事でもない。
それは些細な事だ。
だって――
「今日は、私の人生における最良の日だもの!」
テンションが上がり、思わず一人叫んでしまった。
上空高くを飛んでいる為、誰かに聞かれたりしてはいないとは思うが、正直聞かれたってかまわない。
寧ろ聞いて欲しいぐらいだ。
今の私の幸福な気持ちを。
「いた!」
私の視界は彼を捉えた。
戦場を掛ける一人の青年の姿を。
その凛々しい姿は、以前以上と言っていいだろう。
「うーん!カッコいい!! 」
その姿を見て、高揚から胸が高鳴る。
今すぐにでも彼の側に降り立ちたい気分ではあるが、そこはグッと堪えた。
折角の再開なのだ、どうせなら彼のピンチに颯爽と駆けつけて印象強く登場したい。
それに何より、止まらないこの涙を何とかしないと、みっともなくて顔を合わせられない。
服の袖で目元を拭う。
私は大きく深呼吸し、その時が来るのをじっと待った。
じっと…………じっと…………
じっと………………
……………待つ……
……涙はもうとっくに乾いているんですけど?
いやちょっと彼強すぎない?
彼にはチートが与えられてない筈よね?
女神から彼の知らせを聞いた時、チートは与えていないと言われていた。
だが眼下の彼は、魔獣や魔族を危なげもなく倒していく。
数えてはいないが、恐らくもう既に100体以上の魔獣を斬り捨てているはず。
正に鬼神の如き強さだ。
私は更にもう少しだけ様子をみてみる。
だがやはり状況は変わらなかった。
このままだと、何時までたってもドラマチックな出会いを演出できそうにない。
強くてカッコいいのは良いのだが、余り強すぎるのも考え物だ。
辛抱たまらなくなった私は、上空から魔法を放つ。
もうピンチを救ってラブラブ作戦は諦めよう。
放った魔法は私の得意魔法、その名も炎雷の嵐。
その名の示す通り、炎と雷の嵐を巻き起こす魔法だ。
チート魔力が乗った炎雷の嵐は彼の前方の魔獣達を全て薙ぎ払う。
敵を綺麗さっぱり消し飛ばした所で、私は地上に降り立ち彼へと不敵に微笑んだ。
「貴方、なかなかやるじゃない」
「ずっと俺の様子を伺っていたみたいだが、あんた何者だ?」
どうやら、眺めていたのはバレてしまっていた様だ。
私の存在に気づいてくれていた。
それだけで嬉しくなって、口元がだらしなく崩れそうになってしまう。
イカンイカン。
せっかく傷跡のない綺麗な姿で転生したのだ。
馬鹿面を晒して減点されたくはない。
私は口元を引き結び、クールビューティーを演出する。
「初めまして、私はレーネ。魔法使いよ」
こうして私は200年の時を超えて彼と再会する。




